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ケミカルバイオロジー

小松 徹 Tohru Komatsu

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小松 徹(こまつ とおる、19xx年xx月xx日-)は、日本の化学者である。東京大学大学院薬学系研究科・准教授。専門はケミカルバイオロジー、創薬化学。第49回ケムステVシンポ講師。

経歴

2004 東京大学 薬学部卒業
2009 東京大学 大学院薬学系研究科 博士課程修了 博士(薬学)学位取得(長野哲雄教授)
2009 米国ジョンズホプキンス大学 博士研究員(Takanari Inoue教授)
2010 米国スクリプス研究所 博士研究員(Benjamin F. Cravatt 教授)
2010 東京大学 大学院薬学系研究科 助教
2013 科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任)
2022 コウソミル株式会社 取締役/技術顧問(兼任)
2024 東京大学 大学院薬学系研究科 准教授(現職)

 

受賞歴

2017 日本薬学会奨励賞
2017 International Chemical Biology Society Young Chemical Biologist Award
2018 文部科学大臣表彰(若手科学者賞)
2019 メディシナルケミストリーシンポジウム優秀賞
2020 日本電気泳動学会 服部賞(奨励賞)
2023 日本電気泳動学会 橋本賞
2023 バイオインダストリー奨励賞
2023 大学発ベンチャー表彰・科学技術振興機構理事長賞
2023 日本薬学会医薬化学部会賞
2023 MSD 生命科学財団医学奨励賞(最優秀賞)
2024 大隅ライフサイエンス研究会奨励賞

 

研究業績

酵素の活性を網羅的に解析する方法論「enzymomics」

タンパク質の機能は生体内で転写レベル,翻訳レベル,翻訳後レベルで様々な機能修飾を受ける動的な性質を有し,タンパク質の機能レベルの理解は,表現型の変化に直結する情報を与え得ることが期待される.酵素はタンパク質の中でも主要なクラスを占め,その機能変化が疾患と直結する例も数多く知られており,これまで,酵素の機能をケミカルプローブを使って解析する方法論の開発を進めてきた.特に,生体内には数千種類を超える酵素種が存在するが,酵素活性を検出するケミカルプローブをライブラリ化して網羅的な酵素活性の解析をおこなうことで,疾患などの状態変化に伴うタンパク質機能の変化を明らかにすることを目指す「enzymomics(enzyme の omics)」の概念を提唱し,様々な疾患と関わる酵素活性の異常を見出す研究を進めてきた(関連文献1, 2).

1分子レベルの酵素活性計測に基づく疾患診断技術

上記のような研究を通じて見出されるタンパク質の機能レベルの異常に基づく疾患診断の可能性は activity-based diagnostics(機能に基づく疾患診断)と呼ばれ,核酸レベルの解析と比較してより表現型に近いところでの疾患の実態把握に有用な診断技術として注目を集めている.一方で,現在,酵素の機能解析に用いられている方法論の多くは,その感度の限界により106-109 分子(attomol-fmol)を集団として解析することが求められ,生体サンプル中のより微小なタンパク質を検出することや,同じ遺伝子に由来するタンパク質の中でも翻訳後修飾やタンパク質間相互作用などにより機能が異なる分子種「proteoform」を区別して検出するためには,タンパク質機能検出の高感度化が求められる状況にあった.このような目的に適う方法論として,タンパク質の機能を「1分子」のレベルで解析する方法論を用いて血液中などの生体サンプル中の酵素活性を計測する方法論を構築した.1分子計測技術は2000年代前後から発展を遂げてきた研究分野であり,マイクロデバイス中に封入された -galactosidase などの酵素活性を1分子レベルで検出する方法論が開発されていたが,血液などの多様な酵素種を含む生体サンプル中の酵素活性を検出する目的にこれが用いられた例は報告されていなかった.これに対し,「酵素活性の違いによってマイクロデバイス中の異なる酵素分子を識別する」というアイデアに基づき,生体サンプル中の特定の酵素の活性を1分子レベルで網羅的に「数える」方法論を考案し,血液中の様々な酵素を検出し,疾患における状態変化を検出することに世界で初めて成功した(関連文献 3-5).

図1.Proteoform レベルのタンパク質機能計測の可能性

ケミカルプローブの全自動合成

1分子レベルの超高感度でタンパク質機能を解析する方法論を用いた疾患の診断プラットフォームを構築するため,phosphatase,glycosidase,protease/peptidase,esterase/lipase,oxidoreductaseなどの様々な酵素種を対象とした1分子計測技術の開発に取り組んできたが,その中で,synthesis based on affinity separation(SAS)法を用いた蛍光プローブの全自動合成プラットフォームを構築した.200 種類以上の1分子酵素活性計測用蛍光プローブを開発し,膵臓がん患者血漿サンプル中で異なる1分子酵素活性パターンを示す酵素を探索したところ,elastase,CD13,DPP4 といった酵素の特定の分子種が早期(stage I-II)の膵臓がん患者血漿サンプル中で大きく変化している様子が明らかになった.創薬研究において自動合成を活用したスクリーニングの仕組みが活用されてきているが,ケミカルプローブの合成においてもこの概念を持ち込むことで,疾患と関わるタンパク質の機能の理解の大幅な加速に繋がることが期待され,現在,「誰もがケミカルプローブを簡便に合成できる時代」の実現を目指して,更なる技術開発を進めている(関連文献 6).

図2.膵臓がん患者血漿サンプル中の DPP4 酵素活性の1分子計測の例

 

コメント&その他

  1. 座右の銘は「推倒一世之智勇 開拓萬古之心胸」.趣味は観葉植物を育てることとお酒を飲むこと.

関連動画

 

関連文献

1. Komatsu, T.; Hanaoka, K.; Adibekian, A.; Yoshioka, K.; Terai, T.; Ueno, T.; Kawagichi, M.; Cravatt, B. F.; Nagano, T. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 6002-6005. DOI: 10.1021/ja401792d
2. Onagi, J.; Komatsu, T.; Ichihashi, Y.; Kuriki, Y.; Kamiya, M.; Terai, T.; Ueno, T; Hanaoka, K.; Matsuzaki, H.; Hata, K.; Watanabe, T.; Nagano, T.; Urano, Y. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 3465-3472. DOI:10.1021/jacs.6b11376
3. Sakamoto, S.; Komatsu, T.; Watanabe, R.; Zhang, Y.; Inoue, T.; Kawaguchi, M.; Nakagawa, H.; Ueno, T.; Okusaka, T.; Honda, K.; Noji, H.; Urano, Y. Sci. Adv. 2020, 6, aay0888. DOI: 10.1126/sciadv.aay0888
4. Nagano, N.; Ichihashi, Y.; Komatsu, T.; Matsuzaki, H.; Hata, K.; Watanabe, T.; Misawa, Y.; Suzuki, M.; Sakamoto, S.; Kagami, Y.; Kashiro, A.; Takeuchi, K.; Kanemitsu, Y.; Ochiai, H.; Watanabe, R.; Honda, K.; Urano, Y. Chem. Sci. 2023, 14, 4495-4499. DOI: 10.1039/D2SC07029D
5. Ukegawa, T.; Komatsu, T.; Minoda, M.; Matsumoto, T.; Iwasaka, T.; Mizuno, T.; Tachibana, R.; Sakamoto, S.; Hanaoka, K.; Kusuhara, H.; Honda, K.; Watanabe, R.; Urano, Y. Adv. Sci. 2023, 11,  2306559. DOI: 10.1002/advs.202306559
6. Sakamoto, S.; Hiraide, H.; Minoda, M.; Iwakura, N.; Suzuki, M.; Ando, J.; Takahashi, C.; Takahashi, I.; Murai, K.; Kagami, Y.; Mizuno, T.; Koike, T.; Nara, S.; Morizane, C.; Hijioka, S.; Kashiro, A.; Honda, K.; Watanabe, R.; Urano, Y. Cell Rep. Methods 2024, 4, 100688. DOI: 10.1016/j.crmeth.2023.100688.

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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