ロベルト・カー (Roberto Car 1947年1月3日 トリエステ生まれ) はイタリアの化学者、物理学者。プリンストン大学教授。
略歴
1971 ミラノ工科大学 博士号
1973 ミラノ大学 博士研究員
1977 ローザンヌ連邦工科大学 助手
1981 IBMトーマス J ワトソン研究所
1984 トリエステ国際高等研究院 助教授
1990 同 教授
1991 ジュネーブ大学 教授
1999 プリンストン大学教授 (Ralph W. *31 Dornte Professor)
受賞歴
1990 EPS欧州物理学賞
1995 Aneesur Rahman Prize (アメリカ物理学会)
2008 フンボルト賞
2009 ディラックメダル、シドニー・ファーンバック賞
2016 アメリカ化学会賞
2021 ベンジャミン・フランクリンメダル
2024 クラリベイト引用栄誉賞
研究
分子動力学法の新展開 ab-initio molecular dynamics
現実的かつ精密に物質の動的挙動を解析する手法として、1985年にロベルト・カー(Roberto Car)とミケーレ・パリネッロ(Michele Parrinello)によっていわゆるCar–Parrinello分子動力学法(CPMD)が開発された。従来の手法を超えるパフォーマンスを提供し、特に電子と原子核の運動を同時にシミュレーションするという点で、従来の方法論とは一線を画すものであった。
Car–Parrinello法の大きな特徴は、電子の動きも動的に扱うことであり、通常の分子動力学とは異なり、電子と原子核の間にある強い相互作用を精密に扱い、化学反応や物性の変化をより現実的にシミュレーションできるようになった。
また、この手法は密度汎関数理論(DFT)に基づいており、電子の分布やエネルギーを効率的に計算できる。DFTと分子動力学を組み合わせることで、Car–Parrinello法は、特定の系での電子の動きを正確に追跡しつつ、物質の動的性質をリアルタイムで解析することを可能にした。
Car–Parrinello法の大きな利点の一つは、計算の効率化である。従来の手法では、原子核がわずかに動くたびに、電子の波動関数を再計算する必要があったが、CPMDでは、電子の波動関数が原子核の動きに即座に追随するように設定されている。これにより、計算コストを大幅に抑えつつ、電子の動的な変化を精度良くシミュレートすることができる。ただし、Car–Parrinello法にもいくつかの制約がある。計算コストは従来の分子動力学よりも高く、長時間スケールや大規模な系のシミュレーションには限界があった。しかし、これらの制約を考慮しても、CPMDは他の手法と比べて圧倒的な精度と効率性を誇るため、最先端の化学・物理シミュレーション技術として高い評価を受けた。