相良剛光(Yoshimitsu Sagara, 1981年–)は、光機能性超分子を専門とする日本の化学者である。機械的刺激(力)に応じて蛍光特性が変化する材料を、当該分野の黎明期から先駆的に開発している。最近の研究対象は、超分子メカノフォア、および、低次元のメカノクロミック蛍光材料。2024年現在、東京工業大学 准教授。第46回ケムステVシンポ講師。
経歴
2004.3. 東京大学 工学部 化学生命工学科 卒業
2009.3. 東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 博士後期課程修了
2009.4.~ 2010.3. 日本学術振興会 特別研究員PD (DC2から資格変更)
2010.4.~ 2013.3. 日本学術振興会 特別研究員PD
2013.7.~ 2015.6. 日本学術振興会 海外特別研究員(留学先:Adolphe Merkle Institute, スイス)
2015.7.~ 2020.3 北海道大学 電子科学研究所 助教
2017.10.~ 2021.3 JSTさきがけ「光極限」領域研究員(兼任)
2020.4.~ 東京工業大学 物質理工学院 准教授
2021.4.~ JST創発研究者
受賞歴
2022年 公益財団法人 島津科学技術振興財団 島津奨励賞
2021年 公益財団法人 新世代研究所 ATI 研究奨励賞
2020年 東工大挑戦的研究賞 末松特別賞
2019年 高分子学会 パブリシティ賞
2019年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2018年 公益財団法人 江野科学振興財団 田中ゴム科学技術賞
2012年 日本液晶学会論文賞A
2012年 日本MRS 奨励賞を受賞
2009年 ポスター賞(第18回ポリマー材料フォーラム)
2009年 東京大学・工学系研究科 工学系研究科長賞
2008年 日本液晶学会 虹彩賞
研究業績
分子集合構造変化に基づく「メカノクロミック蛍光材料」の開発
分子集合体の蛍光特性は、その分子集合構造に大きく依存する。 そのため、その集合構造を機械的刺激(力)で変えることができれば、分子内の共有結合を切断することなく、材料の蛍光特性を変化させることができる(図1)。[1][2] 2007年に機械的刺激と熱刺激印加により相互に蛍光色を変換できる結晶性材料を初めて報告し、[3]2008年には液晶においてもせん断によって蛍光色が変化することを示した。[4] さらに、 単一の蛍光団しか含んでいないにもかかわらず、機械的刺激を含む外部刺激により相互に変換できる三種類の蛍光色を示す液晶材料も報告した。[5]
低次元化されたメカノクロミック蛍光材料
上述した分子集合構造変化を利用したメカノクロミック蛍光材料を、力の印加を可視化・評価する実用的なメカノ蛍光プローブとして応用するためには、微小な力の検出ができ、かつ閾値を設けることが重要となる。そこで、水の中で力を受けて蛍光色が変化するメカノクロミック蛍光ミセルを開発した。[6]このミセルは10~15個程度のダンベル状の両親媒性分子で構成されており、一定のサイズを持つ。また、ごく最近、機械的刺激を印加して水溶性を獲得する1次元のメカノクロミック蛍光超分子ファイバー(図2)も報告している。[7]
超分子メカノフォア
さらに、この概念を1分子レベルまで落とし込んだ、「超分子メカノフォア」を報告している。メカノフォアとは、機械的刺激を受けて様々な応答を示す分子骨格である。既報のメカノフォアの多くは、吸収・蛍光特性の変化を誘起するために共有結合を切断する必要があった。一方、超分子メカノフォアでは、蛍光団や消光団の相関配置を変化させて、蛍光特性変化を達成する。まず2018年に、インターロック構造を利用したロタキサン型超分子メカノフォアを報告した(図3)。[8]このメカノフォアを導入したポリウレタンエラストマーを伸縮すると、瞬時、かつ可逆的に蛍光色がOn/Offスイッチする。その後、蛍光団を変更すれば、蛍光色を簡単に変更することができ、[9]さらにストッパーのサイズを変えることで、蛍光特性の可逆変化のみならず不可逆変化までも起きることを見出した。[10]また、異なるモチーフとして、環状化合物であるシクロファンに着目し、エキシマー蛍光⇔モノマー蛍光のスイッチ、および、電荷移動錯体からの蛍光⇔モノマー蛍光のスイッチを利用したシクロファン型超分子メカノフォアを報告している。[11][12]
名言集
コメント&その他
関連動画
引っ張ると白色蛍光を示すゴム材料 ケムステ・スポットライトリサーチ
「メカノセンシング発光材料の創製と応用探索」相良剛光研究室 – 物質理工学院
関連文献
[1] Sagara, Y.; Kato, T. Nat. Chem. 2009, 1, 605. DOI: 10.1038/nchem.411.
[2] Sagara, Y.; Yamane, S.; Mitani, M.; Weder, C.; Kato, T. Adv. Mater. 2016, 28, 1073. DOI: 10.1002/adma.201502589.
[3] Sagara, Y.; Mutai, T.; Yoshikawa, I.; Araki, K. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 1520. DOI: 10.1021/ja0677362.
[4] Sagara, Y.; Kato, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 5175. DOI: 10.1002/anie.200800164.
[5] Sagara, Y.; Kato, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 9128. DOI: 10.1002/anie.201100914.
[6] Sagara, Y.; Komatsu, T.; Ueno, T.; Hanaoka, K.; Kato, T.; Nagano, T. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 4273. DOI: 10.1021/ja412670g.
[7] Liu, Q.; Zhang, T.; Ikemoto, Y.; Shinozaki, Y.; Watanabe, G.; Hori, Y.; Shigeta, Y.; Midorikawa, T.; Harano, K.; Sagara, Y. Small 2024, 20, 2400063. DOI: 10.1002/smll.202400063
[8] Sagara, Y.; Karman, M.; Verde-Sesto, E.; Matsuo, K.; Kim, Y.; Tamaoki, N.; Weder, C. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 1584. DOI: 10.1021/jacs.7b12405.
[9] Sagara, Y.; Karman, M.; Seki, A.; Pannipara, M.; Tamaoki, N.; Weder, C. ACS Cent. Sci. 2019, 5, 874. DOI: 10.1021/acscentsci.9b00173.
[10] Muramatsu, T.; Okado, Y.; Traeger, H.; Schrettl, S.; Tamaoki, N.; Weder, C.; Sagara, Y. J. Am. Chem. Soc. 2021, 14, 9884. DOI: 10.1021/jacs.1c03790.
[11] Sagara, Y.; Traeger, H.; Li, J.; Okado, Y.; Schrettl, S.; Tamaoki, N.; Weder, C. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 5519. DOI: 10.1021/jacs.1c01328.
[12] Thazhathethil, S.; Muramatsu, T.; Tamaoki, N.; Weder, C.; Sagara, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2022, 61, e202209225. DOI: 10.1002/anie.202209225.
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