[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

山本 隆文 YAMAMOTO Takafumi

[スポンサーリンク]

山本 隆文(YAMAMOTO Takafumi)は、固体化学を専門とする日本の化学者である。酸化物などの無機化合物を軸に新物質を行っている。近年では、無機化合物だけではなく、有機分子を固体中に含んだ有機-無機ハイブリッド化合物の合成も行っている。2024年現在、東京工業大学 准教授。第45回ケムステVシンポ講師。

経歴

2008年3月…京都大学 理学部 化学教室 卒業
2010年3月…京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 修士課程修了
2012年11月…京都大学大学院 工学研究科 物質エネルギー化学専攻 博士後期課程修了
2010年4月~2012年11月…日本学術振興会特別研究員(DC1)
2012年12月~2019年3月…京都大学大学院 工学研究科 物質エネルギー化学専攻 助教
2019年4月~現在…東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授

研究業績

1.トポケミカル反応を用いた新規物質開拓

トポケミカル反応は、前駆体(ホスト)の構造を保った状態で、構造の一部を変換する反応である。山本らは、金属水素化物を用いたトポケミカル還元反応を用い、酸素欠陥の秩序配列を制御し、BaFeO2JACS誌2012)を代表とした、従来の高温反応では得られない様々な平面四配位鉄酸化物を報告してきた(図1)。アンモニアガスを用いたトポケミカル窒化反応によって得られるアニオン欠損秩序型酸窒化物SrVO2.2N0.6では(図1)、薄膜基板からの応力で欠損面の方位や周期性を制御できることが可能であることを明らかにし、界面化学も組み入れた新しい結晶構造制御のアプローチを提案した(Nat.Commun.誌2020)。

2.高圧を用いた構造と物性の制御

結晶における圧力応答への理解は物質合成や物性制御の鍵となる。山本らは、地球科学の分野で古くから知られている二元系物質の圧力誘起B1-B2(NaCl-CsCl)構造相転移に着目し、岩塩型構造を構造中の一部に含むインターグロース構造にその概念を拡張した(図2; JACS誌2011など)。また、トポケミカル反応によって得られるSrVO2Hにおいて、特異な圧力誘起金属-絶縁体相転移を発見した。さらに、その異方的な結晶構造に着目し、ヒドリドと酸素における結合性の違いを明らかにし、酸水素化物における設計指針を示した(Nat.Commun.誌2017, Inorg.Chem.誌2019)。

3.新規高圧合成法を用いた酸水素化物の新展開

超高圧下で反応に直接関与しない添加物(SrCl2)を加える高圧フラックス法を開発し、この手法によって、従来不可能だったバナジウム酸水素物の単相合成を実現した(図3; JACS誌2023)。得られた物質はLiの可逆的な脱挿入が可能で、リチウムイオン電池の負極材料として高い性能を示すことも明らかにした。

4.新規高圧合成法を用いた酸水素化物の新展開

分子(イオン)も一つの元素種としてとらえることで、周期表の枠を超えた物質探索が展開できる。山本らは、無機固体化学の知見を有機-無機ハイブリッド化合物にも広げていくことで、さらなる研究の発展が望めると考えた。特に、単原子にはない特徴、すなわち分子の異方性に着目し研究を進めた。具体的には、異方的な分子アニオンSCNは、N端が鉛と結合を作りづらい性質があり、無機骨格に欠陥を生成させる欠陥生成剤として機能することを見出した(JACS誌2023)。さらに、SCNの導入量の違いで現れる欠陥秩序型シリーズ構造を見出し、欠陥量をパラメータとしたバンドギャップ制御にも成功した(ACS Mater.Lett.誌2024)(図4)。これまで酸化物ペロブスカイトで広く行われてきた欠陥秩序パターンの制御(図1)を、分子ユニットを活用することによって、初めて酸化物以外の系に拡張した。

5.高速な酸化還元反応に伴う動的な構造変化の観察

今後の物質探索や物性制御において、最先端の放射光技術を活用したセラミックスの動的な構造変化の直接観察は極めて重要となる。山本らは、ガス雰囲気の変化によって高速に酸素を挿入脱離する層状ペロブスカイト酸化物Sr3Fe2O7-δに着目し、高速に進行するトポケミカル酸化還元反応を放射光を用いた時分割X線回折測定で観察した。その結果、1秒程度の寿命しかない動的な中間状態を特定するとともに、表面のPd担持の有無で還元反応の反応経路が変化することも明らかにした(Adv.Sci.誌2023)。真空雰囲気に一気にガスを導入することで高速な雰囲気制御を実現し、これまで観察されたことのなかった高速な結晶構造変化の観察を実現した。この技術によって、反応機構の解明や短寿命な非平衡相の発見が可能になることを示したとともに、表面反応の制御による物質選択という新しい合成アプローチを提案した。

関連動画

第45回ケムステVシンポ『超セラミックス ~分子性ユニットを含む新しい無機材料~』

関連リンク

spectol21

投稿者の記事一覧

ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

関連記事

  1. キャロライン・ベルトッツィ Carolyn R. Bertozz…
  2. ヌノ・マウリド Nuno Maulide
  3. ジェフリー・ムーア Jeffrey S. Moore
  4. ドナルド・トマリア Donald Tomalia
  5. トビン・マークス Tobin J. Marks
  6. シェリル・サイ Shiou-Chuan (Sheryl) Tsa…
  7. イヴァン・フック Ivan Huc
  8. 上田 善弘 Yoshihiro Ueda

注目情報

ピックアップ記事

  1. アノードカップリングにより完遂したテバインの不斉全合成
  2. Baird芳香族性、初のエネルギー論
  3. ほぅ、そうか!ハッとするC(sp3)–Hホウ素化
  4. 文献検索サイトをもっと便利に:X-MOLをレビュー
  5. エッシェンモーザー・タナベ開裂反応 Eschenmoser-Tanabe Fragmentation
  6. 危ない試薬・面倒な試薬の便利な代替品
  7. 阪大と理研ビタミン、透明な生分解性フィルムを開発
  8. 細胞同士の相互作用を1細胞解析するための光反応性表面を開発
  9. ジン=クアン・ユー Jin-Quan Yu
  10. 北原武 Takeshi Kitahara

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2024年8月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

ミトコンドリア内タンパク質を分解する標的タンパク質分解技術「mitoTPD」の開発

第 631 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 生命科学研究科 修士課程2…

永木愛一郎 Aiichiro Nagaki

永木愛一郎(1973年1月23日-)は、日本の化学者である。現在北海道大学大学院理学研究院化学部…

11/16(土)Zoom開催 【10:30~博士課程×女性のキャリア】 【14:00~富士フイルム・レゾナック 女子学生のためのセミナー】

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。11/16…

KISTEC教育講座『中間水コンセプトによるバイオ・医療材料開発』 ~水・生体環境下で優れた機能を発揮させるための材料・表面・デバイス設計~

 開講期間 令和6年12月10日(火)、11日(水)詳細・お申し込みはこちら2 コースの…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP