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千葉 俊介 Shunsuke Chiba

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千葉俊介 (ちばしゅんすけ、1978年05月19日–)は日本の有機化学者である。シンガポール南洋理⼯⼤学教授

経歴

2001 早稲田大学理工学部応用化学科卒業 (清水功雄教授)
2003 東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程修了 (奈良坂紘一教授)
2005 東京大学大学院理学系研究科化学専攻COE特任助手
2006 博士(理学)取得 (奈良坂紘一教授)
2007–2012 南洋理工大学理学院化学生物化学科助教
2012–2016 南洋理工大学理学院化学生物化学科准教授
2016– 南洋理工大学理学院化学生物化学科教授

受賞歴

2008 SPMS Teaching Excellence Award
2011 SPMS Teaching Excellence Award
2010 Asian Core Program Lectureship Award (Thailand)
2010 Asian Core Program Lectureship Award (Japan)
2011 SPMS Young Researcher Award
2012 Asian Core Program Lectureship Award (Korea)
2012 Asian Core Program Lectureship Award (China)
2012 第62回日本化学会進歩賞受賞
2013 英国王立化学会フェロー
2013 Asian Core Program Lectureship Award (Taiwan)
2014 GSK-SNIC Award in Organic Chemistry
2014 三井化学触媒科学奨励賞
2014 Asian Core Program Lectureship Award (Malaysia)
2015 Thieme Chemistry Journal Award
2017 Zasshikai Lectureship (The University of Tokyo)
2018 ナイスステップな研究者2018
2019 Mukaiyama Award
2020 A Fellow of Singapore National Institution of Chemistry

研究概要

2007年の研究室立ち上げ以降、アルケニルアジドの変換反応や、銅触媒による酸化的変換反応、典型金属ヒドリドを用いる反応、可視光レドックス触媒反応など、様々な新規反応を開発している。また、天然物の全合成や、ケミカルバイオロジー分野にも研究の幅を広げている。

アルケニルアジドの変換反応を駆使した含窒素ヘテロ環構築法の開発

千葉らはアルケニルアジドが炭素ラジカルアクセプターとしてはたらく性質を見いだし、様々な含窒素ヘテロ環合成法を開発した。マンガン触媒存在下、1,3-ジカルボニル化合物とアルケニルアジドを反応させると、[3+2]環化を経てピロールが合成できる[1a]。炭素ラジカル源をシクロプロパノール誘導体とすれば[3+3]環化によりピリジンやδ-ラクタム、アザビシクロ骨格など様々な含窒素ヘテロ環へと誘導できる[1b,1c]。さらに千葉らは、本ヘテロ環構築法をインドールアルカロイドMelinonine-Eの全合成に応用している。

また、アルケニルアジドとトリフルオロメチルラジカルから生成するイミニルラジカルを利用した種々の反応も開発している。アルケニルアジドとトリフルオロメチルトリメチルシランに対し、フッ化セシウムとジアセトキシヨードベンゼン(PIDA)を作用させると、イミニルラジカルの二量化を経由してアジンが得られる。このアジンはトリフルオロメチル基が導入されたさまざまな化合物へと誘導できる。例えば酸加水分解によりケトンが、還元に続くアセチル化ではアミドがそれぞれ得られる。さらに、ロジウム触媒を用いたアルキンとの[4+2]環化反応によりイソキノリンが、塩基処理によりピラゾールが合成できる[2a]。また、生成するイミニルラジカルの芳香族ラジカル置換反応によりアザピセンなどの含窒素多環芳香族化合物(aza-PAH)も合成できる[2b]

千葉らはアルケニルアジドがエナミン様の求核剤として振る舞うことに着目し、アミドや1-ピロリンの合成に利用できることを報告した。ルイス酸存在下、アルケニルアジドに対し求電子剤としてアルデヒドやアルジミン、二級もしくは三級アルコールを作用させると、アルケニルアジドの求核付加反応が進行しイミノジアゾニウムイオンを形成する。その後窒素の脱離を伴う置換基の1,2-移動でニトリリウムイオンが生成し、最後に加水分解によりアミドが得られる[3a,3b]。用いる求電子剤をα,β-不飽和カルボニル化合物とすると、イミノジアゾニウムイオン形成後、四員環中間体を経て1-ピロリンが得られる[3c]

銅触媒による酸化的変換を駆使した含窒素ヘテロ環合成法の開発

千葉らは酸素雰囲気下、銅触媒を用いる酸化的変換反応により様々な含窒素ヘテロ環が構築できることを報告した。アリールニトリルとGrignard試薬から調製したイミンに対し、酸素雰囲気下、銅触媒を作用させるとイミニル銅中間体が得られる[4a,4b]。続く分子内での環化やベンジル位酸化によってフェナントリジンや1H-イソインドール-1-オール、ジケトンを合成できる。また、α-アジドカルボニル化合物からも同様のイミニル銅種が生成可能であり、分子内酸化的脱芳香族化を伴いアザスピロシクロヘキサジエノンが得られる[4c]

さらに、N-アリルエナミンカルボキシラートを酸素雰囲気下で銅/ビピリジル触媒と反応させると3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキセン骨格を構築できる[5a]。エナミンが二価の銅種と反応し銅アザエノラートを生成し、四員環メタラサイクル形成を経てアザビシクロ骨格が得られる。興味深いことに同基質に対し銅触媒存在下、DABCOと炭酸カリウムを加えると4-ホルミルピロールが得られる。塩基の役割は明らかにされていないが、ジヒドロピロール環形成後、過酸化銅種の異性化を経て4-ホルミルピロールを与える反応機構が提唱されている。基質にN-アルケニルアミジンを用いると銅ジアザエノラートを生成後、1,3-ジアザアリルラジカルを与える。その後、銅ナイトレンを経て、[3+2]付加環化によって二環性アミジンが得られる[5b]。また、N-アルキルアミジンを基質とすると1,3-アザアリルラジカル生成に続く1,5-水素ラジカル移動、フェントン型開裂を経てジヒドロオキサゾールが生成する[5c]

水素化ナトリウム/ヨウ化ナトリウム(リチウム)複合体を用いたヒドリド還元反応の開発

水素化ナトリウムに代表されるアルカリ金属ヒドリドは汎用されるブレンステッド塩基であるが、一般的にアルカリ金属ヒドリドがヒドリド還元剤として用いられることはない。千葉らは、水素化ナトリウムとヨウ化ナトリウムもしくはヨウ化リチウムから調製したNaH-Na(Li)I複合体が、塩基ではなくヒドリド還元剤としてはたらくことを見いだした。これまでにニトリルの水素化[6a,6b]、アミドの還元[6c]、芳香族C–Hナトリウム化に続くFries型転位反応[6d]、ハロアレーンの水素化脱ハロゲン化[6e]、メトキシアレーンの求核的アミノ化[6f]などを報告している。

また、水素化ナトリウムに塩化亜鉛もしくはヨウ化亜鉛を加えると、構造と反応性の異なる亜鉛ヒドリド種が生成し、アミドの還元に利用できることを報告した[7]。NaHとZnCl2からは塩素架橋された亜鉛ヒドリド二量体が生成し、アミドをアミンへ還元する。一方、NaHとZnI2からは亜鉛ヒドリドポリマーが生じ、アミドはアルコールに還元される。この化学選択性はヒドリド付加後の四面体型中間体のC–O結合開裂とC–N結合開裂の相対的な速度で決まると考えられる。DFT計算の結果、亜鉛ヒドリド二量体存在下ではC–O結合切断が優先しアミンが、亜鉛ヒドリドポリマー存在下ではC–N結合切断が優先しアルコールが得られることが示唆された。

ポリスルフィドアニオンを可視光レドックス触媒として用いたラジカルカップリング反応の開発

千葉らは、ポリスルフィドアニオンが可視光レドックス触媒として機能することを見いだし、ハロアレーンからアリールラジカルを生成することに成功した[8a,8b]。(多)硫化カリウム触媒存在下、ハロアレーンに塩基を加え、可視光を照射すると、アリールラジカルが生成する。生成したラジカルは(ヘテロ)アレーンとのビアリールカップリングや、ホウ素化、水素化、オレフィンのヒドロアリール化に利用することができる。ビアリールカップリングの推定反応機構は次のように考えられている。可視光照射により励起された[S42–]*がハロアレーン1を一電子還元し、アレーンラジカルアニオンIを生成する。S4は系中に存在するS32–によって一電子還元されS42–が再生する。ラジカルアニオンIのメソリティック開裂により生じたアリールラジカルIIは、(ヘテロ)アレーン2と反応しラジカル中間体IIIを与える。その後、励起された[S3•–]*による酸化と脱プロトン化により、カップリング体3が得られる。

コメント&その他

  • 毎日学生の居室に行き一人ずつと研究ディスカッションをする[9]
  • ポケモンGOにハマっていて学内のレイドバトルに参加するほど[9]
  • 最初の実験はGrignard試薬の調製[10]
  • モットーは“enjoy life!”[10]
  • 好きな飲み物はアラスカ産のワイン[10]
  • 好きな画家は C. Escher[10]
  • 休日は家族とビーチで過ごすのが好き[10]

関連文献

  1. (a)Wang, Y.-F.; Toh, K. K.; Chiba, S.; Narasaka, K. Mn(III)-Catalyzed Synthesis of Pyrroles from Vinyl Azides and 1,3-Dicarbonyl Compounds. Org. Lett.2008, 10, 5019–5022. DOI: 10.1021/ol802120u (b) Wang, Y.-F.; Chiba, S. Mn(III)-Mediated Reactions of Cyclopropanols with Vinyl Azides: Synthesis of Pyridine and 2-Azabicyclo[3.3.1]non-2-en-1-ol Derivatives. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 12570–12572. DOI: 10.1021/ja905110c (c) Wang, Y.-F.; Toh, K. K.; Ng, E. P. J.; Chiba, S. Mn(III)-Mediated Formal [3+3]-Annulation of Vinyl Azides and Cyclopropanols: A Divergent Synthesis of Azaheterocycles. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 6411–6421. DOI: 10.1021/ja200879w
  2. (a) Wang, Y.-F.; Lonca, G. H.; Chiba, S. PhI(OAc)2-Mediated Radical Trifluoromethylation of Vinyl Azides with Me3SiCF3. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 1067–1071. DOI: 10.1002/anie.201307846 (b) Wang, Y.-F.; Lonca, G. H.; Le Runigo, M.; Chiba, S. Synthesis of Polyfluoroalkyl Aza-Polycyclic Aromatic Hydrocarbons Enabled by Addition of Perfluoroalkyl Radicals onto Vinyl Azides. Org. Lett. 2014, 16, 4272–4275. DOI: 10.1021/ol501997n
  3. (a) Zhang, F.-L.; Wang, Y.-F.; Lonca, G. H.; Zhu, X.; Chiba, S. Amide Synthesis by Nucleophilic Attack of Vinyl Azides. Angew. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 4390–4394. DOI: 10.1002/anie.201400938 (b) Zhang, F.-L.; Zhu, X.; Chiba, S. Tf2NH-Catalyzed Amide Synthesis from Vinyl Azides and Alcohols. Org. Lett. 2015, 17, 3138–3141. DOI: 10.1021/acs.orglett.5b01458 (c) Zhu, X.; Chiba, S. Construction of 1-Pyrroline Skeletons by Lewis Acid-Mediated Conjugate Addition of Vinyl Azides. Chem. Commun. 2016, 52, 2473–2476. DOI: 10.1039/c5cc10299e
  4. (a) Zhang, L.; Ang, G. Y.; Chiba, S. Copper-Catalyzed Synthesis of Phenanthridine Derivatives under an Oxygen Atmosphere Starting from Biaryl-2-Carbonitriles and Grignard Reagents. Org. Lett. 2010, 12, 3682–3685. DOI: 10.1021/ol101490n (b) Zhang, L.; Ang, G. Y.; Chiba, S. Copper-Catalyzed Benzylic C-H Oxygenation under an Oxygen Atmosphere via N-H Imines as an Intramolecular Directing Group. Org. Lett. 2011, 13, 1622–1625. DOI: 10.1021/ol200425c (c) Chiba, S.; Zhang, L.; Lee, J.-Y. Copper-Catalyzed Synthesis of Azaspirocyclohexadienones from α-Azido-N-arylamides under an Oxygen Atmosphere. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 7266–7267. DOI: 10.1021/ja1027327
  5. (a) Toh, K. K.; Wang, Y.-F.; Ng, E. P. J.; Chiba, S. Copper-Mediated Aerobic Synthesis of 3-Azabicyclo[3.1.0]hex-2-enes and 4-Carbonylpyrroles from N-Allyl/Propargyl Enamine Carboxylates. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 13942–13945. DOI: 10.1021/ja206580j (b) Wang, Y.-F.; Zhu, X.; Chiba, S. Copper-Catalyzed Aerobic [3+2]-annulation of N-Alkenyl Amidines. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 3679–3682, DOI: 10.1021/ja2120629 (c) Wang, Y.-F.; Chen, H.; Zhu, X.; Chiba, S. Copper-Catalyzed Aerobic Aliphatic C–H Oxygenation Directed by an Amidine Moiety. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 11980–11983. DOI: 10.1021/ja305833a
  6. (a) Too, P. C.; Chan, G. H.; Tnay, Y. L.; Hirao, H.; Chiba, S. Hydride Reduction by a Sodium Hydride–Iodide Composite. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 3719–3723. DOI: 10.1002/anie.201600305 (b) Hong, Z.; Ong, D. Y.; Muduli, S. K.; Too, P. C.; Chan, G. H.; Tnay, Y. L.; Chiba, S.; Nishiyama, Y.; Hirao, H.; Soo, H. S. Understanding the Origins of Nucleophilic Hydride Reactivity of a Sodium Hydride-Iodide Composite. Chem. Eur. J. 2016, 22, 7108–7114. DOI: 10.1002/chem.201600340 (c) Chan, G. H.; Ong, D. Y.; Yen, Z.; Chiba, S. Reduction of N,N-Dimethylcarboxamides to Aldehydes by Sodium Hydride-Iodide Composite. Helv. Chim. Acta 2018, 101, e1800049. DOI: 10.1002/hlca.201800049 (d) Huang, Y.; Chan, G. H.; Chiba, S. Amide-Directed C–H Sodiation by a Sodium Hydride/Iodide. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 6544–6547. DOI: 10.1002/anie.201702512 (e) Ong, D. Y.; Tejo, C.; Xu, K.; Hirao, H.; Chiba, S. Hydrodehalogenation of Haloarenes by a Sodium Hydride–Iodide Composite. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 1840–1844. DOI: 10.1002/anie.201611495(f) Kaga, A.; Hayashi, H.; Hakamata, H.; Oi, M.; Uchiyama, M.; Takita, R.; Chiba, S. Nucleophilic Amination of Methoxy Arenes Promoted by a Sodium Hydride/Iodide Composite. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, 56, 11807–11811. DOI: 10.1002/anie.201705916
  7. Ong, D. Y.; Yen, Z.; Yoshii, A.; Imbernon, J. R.; Takita, R.; Chiba, S. Controlled Reduction of Carboxamides to Alcohols or Amines by Zinc Hydrides. Ang.ew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 4992–4997. DOI: 10.1002/anie.201900233
  8. (a) Li, H.; Tang, X.; Pang, J. H.; Wu, X.; Yeow, E. K. L.; Wu, J.; Chiba, S. Polysulfide Anions as Visible Light Photoredox Catalysts for Aryl Cross-Couplings. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 481−487. DOI: 10.1021/jacs.0c11968 (b) Li, H.; Liu, Y. L.; Chiba, S. Anti-Markovnikov Hydroarylation of Alkenes via Polysulfide Anion Photocatalysis. Chem. Commun. 2021, 57, 6264−6267. DOI: 10.1039/D1CC02185K
  9. 現役の千葉研の学生さんから情報提供していただきました。
  10. 関連リンクAuthor Profile Shunsuke Chibaより

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