松田 豊(まつだゆたか, 1985年07月04日-)は、抗体薬物複合体(ADC)の製造技術を開発している化学者である。Exelixis Inc 社 Direcotr of Antibody-drug Conjugate Chemistry。
第37回ケムステVシンポ「抗体修飾法の最前線 ~ADC製造の基盤技術~」 講師。
経歴
2008 慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 卒業
2013 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻 博士課程 単位取得退学
2014 博士(工学)取得
2013 味の素株式会社 バイオファイン研究所 研究員
2018 Ajinomoto Bio-Pharma Services San Diego ADC researcher
2020 味の素株式会社 バイオファイン研究所 研究員
2021 博士(薬学)取得(東京薬科大学 医療衛生薬学科)
2022 Ajinomoto Bio-Pharma Services San Diego ADC Project Manager
2023 Exelixis Inc, Direcotr of Antibody-drug Conjugate Chemistry
受賞歴
2019 第37回メディシナルケミストリーシンポジウム 優秀賞/JMC特別賞
(山田 慧、關 拓也、Brian A. Mendelsohn、奥住 竜哉と共同受賞)
2020 7th Annual World ADC Awards Best Pre-Clinical Publication
(山田 慧、敷田 奈都紀、新保 和高、Zahra Khedri、Brian A. Mendelsohn、伊東 祐二と共同受賞)
研究業績 ~味の素株式会社が保有するADC関連技術~
AJICAP®位置選択的結合技術
化学法を用いて天然型抗体に位置選択的に薬剤を導入する手法であり、次世代 ADC を創出することができる[1]。抗体のFc部位に高い親和性を有するペプチドをベースとした試薬により、抗体 Fc の特定リジン残基への生体直行性官能基の導入(チオール基、アジド基等)を可能とする。この生体直行性官能基は任意の薬物と反応し、位置選択的な抗体薬物複合体を得ることができる。
Fc 部位は全ての抗体に共通して存在する部位であるため、この親和性ペプチドは理論上、あらゆる抗体に適応可能な技術となる。
味の素社の研究グループでは、すでにグラムスケール合成[2]、ペプチドマッピング分析による位置特異性解析[3]、様々な分析法による DAR(Drug to antibody ratio)解析[4]を行い、AJICAP® 位置選択的結合技術により、効率的簡便に位置選択的な抗体薬物複合体製造が可能であることを確認している。また、従来のランダム型ADCとの有効性や安全性の比較を実施し、AJICAP® 位置選択的結合技術によって、抗体薬物複合体の治療指数を拡大できることも報告されている[5]。
さらに、近年ではより工程数を減らし、凝集のリスクを最小化した第二世代法の開発を完了している[6]。
AJICAP®安定性・親水性付与リンカー技術
AJICAP® 安定性・親水性付与リンカー技術は、広範な薬剤に適用可能な技術である。一般的に高い脂溶性を有する薬剤を、AJICAP® リンカーの親水性官能基で遮蔽することにより、劇的に抗体薬物複合体の凝集を抑制することができる。また、高い血中安定性と標的細胞での選択的薬剤放出が可能となり、高い薬効と安全性を有する ADC を創出できる。
このリンカー技術は、AJICAP® 位置選択的結合技術をはじめ広範な結合技術との組み合わせで使用可能である。
フローリアクタによる抗体薬物複合体製造
フローリアクタは封じ込められた空間での反応を可能とするため、抗体薬物複合体に使われるような高活性薬物の曝露リスクを減らすことができる。味の素社のグループは、フローリアクタを用いた抗体薬物複合体製造を始めて報告している[7] 適切なミキサー選定、流速のコントロールにより、抗体、還元剤、薬物のラインをタンデムにつないだフローリアクタ装置を開発し、マシンタイム 5 分以内で抗体から抗体薬物複合体を調製することに成功した。
コメント&その他
- 学生時代は天然物の全合成研究、味の素社入社時は材料化学に従事
- 博士号を二つ有している。一つは過程博士(工学)、一つは論文博士(薬学)。経営学修士も取得予定
- ケムステSlackのニューモダリティのグループでアクティブに活動中
関連動画
第37回ケムステVシンポ「抗体修飾法の最前線 〜ADC製造の基盤技術〜」講演動画
関連文献
[1] Yamada, K.; Shikida, N.; Shimbo, K.; Ito, Y.; Khedri, Z.; Matsuda, Y.; Mendelsohn, B. A. Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 5592. DOI: https://doi.org/10.1002/anie.201814215
[2] Matsuda, Y.; Yamada, K.; Okuzumi, T.; Mendelsohn, B. A. Org. Proc. Res&Dev. 2019, 23, 2647-2654. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.oprd.9b00316
[3] Matsuda, Y.; Malinao, M-C.; Robles, V.; Song, J.; Yamada, K.; Mendelsohn, B. A. J. Chromatgra. B. 2020, 1140, 121981. DOI: https://doi.org/10.1016/j.jchromb.2020.121981
[4] Matsuda, Y.; Robles, V.; Malinao, M-C.; Song, J.; Mendelsohn, B. A. Anal. Chem. 2019, 91, 12724. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.analchem.9b02192
[5] Matsuda, Y.; Seki, T.; Yamada, K.; Ooba, Y.; Takahashi, K.; Fujii, T.; Kawaguchi, S.; Narita, T.; Nakayama, A.; Kitahara, Y.; Mendelsohn, B. A.; Okuzumi T.; Mol. Pharm. 2021, 18, 4058. DOI:https://doi.org/10.1021/acs.molpharmaceut.1c00473
[6] Fujii, T.; Matsuda, Y.; Seki, T.; Shikida, N.; Iwai, Y.; Ooba, Y.; Takahashi, K.; Isokawa, M.; Kawaguchi, S.; Hatada, N. Watanabe, T.; Takasugi, R.; Nakayama, A.; Shimbo, K.;. Mendelsohn, B. A.; Okuzumi T. Yamada, K.; ChemRxiv., 2023. DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-9p5p7
[7] Nakahara, Y.; Mendelsohn, B. A.; Matsuda, Y.; Org. Proc. Res&Dev. 2022, 26, 2766. DOI: https://doi.org/10.1021/acs.oprd.2c00217