[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

真鍋良幸 Manabe Yoshiyuki

[スポンサーリンク]

真鍋良幸 (Manabe Yoshiyuki)は日本の有機化学者。大阪大学大学院理学研究科 助教。第35回ケムステVシンポ「有機合成が拓く最先端糖化学」講師。

経歴

学歴

2006年 東北大学理学部卒業

2008年 東北大学大学院理学研究科修士課程化学専攻修了(上田実教授)

2011年 東北大学大学院理学研究科博士課程化学専攻修了(上田実教授)

【学位】東北大学大学院化学専攻,博士(理学)

職歴

2008年~2010年 東北大学大学院理学研究科化学専攻(上田実教授):日本学術振興会特別研究員(DC1)

2011年~2012年 九州大学大学院理学研究院化学部門(大石徹教授):博士研究員

2012年~現在  大阪大学大学院理学研究科化学専攻(深瀬浩一教授):助教

代表論文

  1. Shirakawa, A.; Manabe, Y.; Marchetti, R.; Yano, K.; Masui, S.; Silipo, A.; Molinaro, A.; Fukase, K. Chemical Synthesis of Sialyl N-Glycans and Analysis of Their Recognition by Neuraminidase. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 24686-24693.
  2. Aiga, T.; Manabe, Y.; Ito, K.; Chang, T-C.; Kabayama, K.; Ohshima, S.; Kametani, Y.; Miura, A.; Furukawa, H.; Inaba, H.; Matsuura, K.; Fukase, K. Immunological Evaluation of Co‐assembling a Lipidated Peptide Antigen and Lipophilic Adjuvants as Self‐adjuvanting Anti‐breast Cancer Vaccine Candidates. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 17705-17711.
  3. Manabe, Y.; Marchetti, R.; Takakura, Y.; Nagasaki, M.; Nihei, W.; Takebe, T.; Tanaka, K.; Kabayama, K.; Chiodo, F.; Hanashima, S.; Kamada, Y.; Miyoshi, E.; Dulal, H. P.; Yamaguchi, Y.; Adachi, Y.; Ohno, N.; Tanaka, H.; Silipo, A.; Fukase, K.; Molinaro, A. The core fucose on an IgG antibody is an endogenous ligand of Dectin-1. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 18697-18702.
  4. Sianturi, J.; Manabe, Y.; Li, H-S.; Chiu, L-T.; Chang, T-C.; Tokunaga, K.; Kabayama, K.; Tanemura, M.; Takamatsu, S.; Miyoshi, E.; Hung, S-C.; Fukase, K. Development of a-Gal Antibody Conjugates to Increase Immune Response by Recruiting Natural Antibodies. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 4574-4578.
  5. Chang, T.-C.; Manabe, Y.; Fujimoto, Y.; Ohshima, S.; Kametani, Y.; Kabayama, K.; Nimura, Y.; Lin, C.-C.; Fukase, K. Syntheses and Immunological Evaluation of Self-Adjuvanting Clustered N-Acetyl and N-Propionyl Sialyl-Tn Combined with A Thelper Cell Epitope as Antitumor Vaccine Candidates. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 8219-8224.

研究業績:糖鎖の高次機能に迫るケミカルバイオロジー研究

糖鎖は,核酸,タンパク質に続く第3の生命鎖と呼ばれ,シグナル伝達や免疫制御,感染,老化,がんなど多くの生命現象に関与する.一方,糖鎖は複雑で多様な構造を持ち,生体内で不均一に存在する.加えて,糖鎖は核酸やタンパク質のように合成法が確立されていない.そのため,糖鎖の構造に基づく機能の解析はほとんど進んでおらず,また,糖鎖を利用した生体機能制御も十分には検討されていない.糖は単糖,二糖といった比較的小さなフラグメントでもその認識タンパク質(レクチン)との相互作用を介して活性を示すが,“糖鎖”としてより複雑な構造を持つことで,多点認識やコンフォメーション制御により,その機能が高次化する.また,細胞表層を覆う糖鎖はグリコカリックス(糖衣)呼ばれ,さまざまな生体分子との複雑な相互作用ネットワークを形成し,より高次の生体機能制御を実現する.このような単糖や二糖とは異なる高次的な糖鎖機能こそ,糖鎖の本質的な機能であるとの考えの下,合成化学を基盤としたケミカルバイオロジー研究を展開している.すなわち,複雑な構造の糖鎖・複合糖質を合成し,これを用いることで初めて実現できる糖鎖機能の解析・制御を目指して研究を行っている.

1Nグリカンのライブラリ合成と機能解析

N-結合型糖鎖(N-グリカン)はタンパク質のアスパラギン残基に対する翻訳後修飾糖鎖で,多様な構造を持ち,その構造に基づいて機能する.N-グリカンの機能の分子レベルで解析を目指し,その化学合成に取り組んできた.N-グリカン合成では,分枝構造の構築がカギとなる.分枝マンノースの3位と6位に非還元末端フラグメントをそれぞれグリコシル化する収束的なルートを採用した.大きなフラグメント同士を立体的に込み合った位置で連結する難度の高いこのグリコシル化を, エーテル溶媒を用いたカチオン中間体の配位安定化[1]や遠隔位アシル基の配位を利用した立体制御(遠隔基関与)などを利用し[2],高い収率,立体選択性で実現した.これより,N-グリカンの実践的合成が可能となり,世界初の4分枝シアリルN-グリカンの化学合成を達成した[3].さらに,合成したN-グリカンを用いて,糖鎖認識タンパク質(レクチン)によるN-グリカンの分子認識を調べている.

2α-gal-抗体複合体によるがん細胞に対する免疫誘導

多くの動物はα-galを有するが,ヒトはこれを持たない.一方,ヒトはこの糖鎖に対する抗体(抗Gal抗体)を大量に持つ.そのため,α-galは激しい免疫反応を引き起こす.そこでα-galと抗がん抗体を複合化し,これを用いて,がんに対する超急性拒絶反応の誘導に成功した[4].この際,α-galをデンドリマー化し,天然の多価効果をミミックしたことで,高い抗がん活性を実現した.本研究で開発したα-gal-抗体複合体は,抗体の薬効向上をもたらし,抗体の再開発につながると期待される.

3.複合化ワクチンの合成と機能評価

シアリルTn(STn)はがんに特異的に発現する“がん細胞の顔”と言える糖鎖構造である.この糖鎖をがん抗原として用いるがんワクチンを開発した[5].がんワクチン開発においては,がん抗原選択的な免疫反応の誘導が課題である.通常のワクチンは,抗原と免疫制御因子の混合物を用いるが,本研究では,免疫制御因子(アジュバント,T細胞エピトープ)を抗原と共有結合で連結することで,これらを同一の免疫細胞に作用させ,この問題を解決した.合成したワクチンは期待通り,がん細胞を特異的に認識する抗体の産生を強く誘導した.このような機能集積型の複合化分子は,生物機能の精密制御を実現し,高い選択性と効果を両立できるニューモダリティー分子で,本研究はその有効性を明確に示している.

参考文献

  1. Nagasaki, M.; Manabe, Y.; Minamoto, N.; Tanaka, K.; Silipo, A.; Molinaro, A.; Fukase, K. Chemical Synthesis of a Complex-Type N-Glycan Containing a Core Fucose. Org. Chem. 2016, 81, 10600-10616.
  2. Manabe, Y.; Shomura, H.; Minamoto, N.; Nagasaki, M.; Takakura, Y.; Tanaka, K.; Silipo, A.; Molinaro, A.; Fukase K. Convergent synthesis of a bisecting GlcNAc-containing N-glycan. Asian. J. 2018, 13, 1544-1551.
  3. Shirakawa, A.; Manabe, Y.; Marchetti, R.; Yano, K.; Masui, S.; Silipo, A.; Molinaro, A.; Fukase, K. Chemical Synthesis of Sialyl N-Glycans and Analysis of Their Recognition by Neuraminidase. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 24686-24693.
  4. Sianturi, J.; Manabe, Y.; Li, H-S.; Chiu, L-T.; Chang, T-C.; Tokunaga, K.; Kabayama, K.; Tanemura, M.; Takamatsu, S.; Miyoshi, E.; Hung, S-C.; Fukase, K. Development of a-Gal Antibody Conjugates to Increase Immune Response by Recruiting Natural Antibodies. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 4574-4578.
  5. Chang, T.-C.; Manabe, Y.; Fujimoto, Y.; Ohshima, S.; Kametani, Y.; Kabayama, K.; Nimura, Y.; Lin, C.-C.; Fukase, K. Syntheses and Immunological Evaluation of Self-Adjuvanting Clustered N-Acetyl and N-Propionyl Sialyl-Tn Combined with A Thelper Cell Epitope as Antitumor Vaccine Candidates. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 8219-8224.
Avatar photo

Maitotoxin

投稿者の記事一覧

学生。高分子合成専門。低分子・高分子を問わず、分子レベルでの創作が好きです。構造が格好よければ全て良し。生物学的・材料学的応用に繋がれば尚良し。Maitotoxinの全合成を待ち望んでいます。

関連記事

  1. ロバート・ランガー Robert S. Langer
  2. ブルクハルト・ケーニッヒ Burkhard König
  3. 本多 健一 Kenichi Honda
  4. ポール・アリヴィサトス Paul Alivisatos
  5. ロバート・グラブス Robert H. Grubbs
  6. クリストフ・レーダー Christoph Rader
  7. Wen-Jing Xiao
  8. エリック・フェレイラ Eric M. Ferreira

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日本初の化学専用オープンコミュニティ、ケムステSlack始動!
  2. 世界の「イケメン人工分子」① ~ 分子ボロミアンリング ~
  3. ニュースタッフ追加
  4. 高分子と低分子の間にある壁 1:分子量分布
  5. 硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築
  6. Nature Chemistry:Research Highlight
  7. ケイ素置換gem-二クロムメタン錯体の反応性と触媒作用
  8. UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立
  9. ショッテン・バウマン反応 Schotten-Baumann Reaction
  10. 高効率な可視-紫外フォトン・アップコンバージョン材料の開発 ~太陽光や室内LED光から紫外光の発生~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年12月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー