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データサイエンス

金子 弘昌 Hiromasa Kaneko

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金子 弘昌(かねこ ひろまさ)は、日本の化学者である。明治大学 理工学部 応用化学科・准教授。専門はケモインフォマティクス、マテリアルズインフォマティクス、プロセスインフォマティクス、プロセスシステム工学、分子設計、材料設計、プロセス設計、ソフトセンサー、データ解析、機械学習、IoT。第25回ケムステVシンポ「データサイエンスが導く化学の最先端」講師

経歴

2007 東京大学 工学部 化学システム工学科 卒業
2009 東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻 修士課程修了
2009 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2011 東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻 博士課程修了
2011 東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻 助教
2017 明治大学 理工学部 応用化学科 専任講師
2020 明治大学 理工学部 応用化学科 専任准教授
兼務 広島大学 先進理工系科学研究科 客員准教授
兼務 大阪大学 太陽エネルギー化学研究センター 招聘准教授
兼務 理化学研究所 客員主幹研究員
兼務 データケミカル株式会社 最高技術責任者/CTO

受賞歴

2015 化学工学会 研究奨励賞受賞【内藤雅喜記念賞】
2016 日本化学会 JCAC論文賞
2018 Best Lecture Award (ICPAC2018)

研究業績

1. ケモインフォマティクス (分子設計)

分子設計で大切なことは、ある化学構造を合成して得られる化合物の物性値・活性値を、合成せずに推定することです。化学構造から物性値・活性値を推定するモデルを、それぞれ物性推定モデル・活性推定モデルと呼びます。物性推定モデル・活性推定モデルを構築して運用する流れは下図の通りです。

まず、化合物の化学構造を数値化します。数値化した特徴量を分子記述子と呼びます。目的の物性・活性を的確に推定する分子記述子を開発することも、研究の方向性の一つです。その後、分子記述子 X と物性・活性 y との間で回帰分析やクラス分類を行い、物性推定モデルや活性推定モデル y = f(X) を構築します。適切に分子設計を行うためには推定精度の高いモデルが必要です。そのためモデルの推定精度を向上させる研究も行っています。

モデルを構築すれば、新たな化学構造を数値化してモデルに入力することで、実際にその化学構造の化合物を合成して物性・活性を測定することなく、物性・活性の値を推定できます。例えば以下が可能になります。

  • 大量に化学構造を生成する
  • 生成した化学構造の記述子を計算する
  • 記述子の値をモデルに入力して物性・活性の値を推定する
  • 推定値が望ましい値になった化学構造だけを選択する
  • 選択した化学構造を実際に合成して、物性・活性を測定・評価する

これによって、効率的に目標の物性・活性の値を達成する化合物を得られます。
以上の分子設計に関して、以下のような研究を進め、成果を挙げています。

  • 目的に応じた分子記述子の設計
  • 推定性能の高いモデルを構築できる手法の開発
  • モデルの適用領域・適用範囲の設定
  • モデルの利活用もしくはモデルの解釈
  • 目標の物性値・活性値を満たすための網羅的な化学構造の生成
  • 化合物としての存在可能性を考慮した化学構造の生成
  • 合成可能性・合成経路を踏まえた化学構造の生成
  • 複数の物性・活性を考慮した化学構造の生成
2. マテリアルズインフォマティクス (材料設計)

分子設計により化合物を開発した後は、それを適切に材料や製品にする必要があります。材料設計・製品設計では、少ない実験・製造回数で望ましい実験条件・製造条件を決めることが望まれます。材料設計・製品設計の流れは下図の通りです。

まずは、実験計画法により最初に実験・製造すべき効果的な実験条件・製造条件の候補を決定します。その候補で実験・製造した後に、実験データを用いて、実験条件・製造条件 X と物性・特性 y との間で回帰分析もしくはクラス分類を行い、X から y を推定するモデル y = f(X) を構築します。このモデルに新たに設定した実験条件・製造条件を入力することで、実験せずに y の値を推定できます。そしてこの推定結果を見て、望ましい物性値になるような実験条件・製造条件を決定します。推定値だけでなく、その推定値の信頼性まで考慮して次の実験条件の候補を選択する方法の1つとして、ベイズ最適化も検討します。

決定された実験条件・製造条件で、次の実験をします。以上のような、モデル構築、次の実験条件の決定、実験を繰り返すことで、物性値が目標を達成する材料を効率的に開発できます。

以上の材料設計に関して、以下のような研究を進め、成果を挙げています。

  • 推定値の信頼性を適切に計算する
  • 次の実験・シミュレーションで目標を達成できる確率を正確に求める
  • 開発時間・開発コストなど複数の要因をふまえた上で、次の実験・シユレーションの候補を選ぶ
  • 実験やシミュレーションを何回か並行してできるときに最適な候補を選択する
3. プロセスインフォマティクス (プロセス設計・管理)

産業プラントでは、製造する製品の品質、例えば濃度や密度を制御する必要がありますが、サンプリング時間や測定時間があるため、濃度や密度の測定値が得られるまでに時間がかかってしまいます。そのためリアルタイムに濃度や密度を制御することができません。そこで、濃度や密度のような測定が難しいプロセス変数 y の値を、温度や圧力のような簡単に測定可能なプロセス変数 X から推定するモデルを活用します。このモデルをソフトセンサーと呼びます。ソフトセンサーの概要は下図の通りです。

過去に化学プラントで測定されたデータを用いて、X と y の間で回帰分析を行います。これによりソフトセンサー y = f(X) が構築されます。新たに測定された X の値をソフトセンサーに入力することで、y の値をリアルタイムに推定できます。この y の推定値を、あたかも y の測定値として使うことで、迅速なプロセス制御を達成できます。

ソフトセンサーには様々な問題があり、プロセス設計・管理に関して以下のような研究を進めており、成果を挙げています。

  • 多くのプロセス変数があるときに管理し、異常を予測する
  • 異常が起きたとき、異常に関与するプロセス変数を診断する
  • 異常の原因を解明する
  • モデルの劣化を未然に防ぎ、予測性能の高いソフトセンサーを構築する
  • ソフトセンサーの信頼性を判断する
  • 物理モデルによりモデルの適用範囲・適用領域を拡張する
  • ソフトセンサーを使って迅速かつ効率的な制御を検討する

コメント&その他

化学・化学工学分野におけるデータ解析・機械学習がプログラミングなしで可能なクラウドサービス Datachemical LAB を開発

プレスリリース: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000099918.html

関連動画

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関連文献

  • Ryo Iwama, Koji Takizawa, Kenichi Shinmei, Eisuke Baba, Noritoshi Yagihashi, Hiromasa Kaneko, Design and analysis of metal oxides for CO2 reduction using machine learning, transfer learning, and Bayesian optimization, ACS Omega, 7(12), 10709–10717, 2022. DOI: 10.1021/acsomega.2c00461
  • Hiromasa Kaneko, Genetic Algorithm-based Partial Least Squares with Only the First Component (GA-PLSFC) for Model Interpretation, ACS Omega, 7(10), 8968–8979, 2022. DOI: 10.1021/acsomega.1c07379
  • Yasuhiro Kanno, Hiromasa Kaneko, Deep Convolutional Neural Network with Deconvolution and a Deep Autoencoder for Fault Detection and Diagnosis, ACS Omega, 7(2), 2458-2466, 2022. DOI: 10.1021/acsomega.1c06607
  • Hiromasa Kaneko, True Gaussian Mixture Regression and Genetic Algorithm-based Optimization with Constraints for Direct Inverse Analysis, Science and Technology of Advanced Materials: Methods, 2(1), 14-22, 2022. DOI: 10.1080/27660400.2021.2024101
  • Toshiharu Morishita, Hiromasa Kaneko, Development of Prediction Models for the Self-Accelerating Decomposition Temperature of Organic Peroxides, ACS Omega, 7(2), 2429-2437, 2022. DOI: 10.1021/acsomega.1c06481
  • Shunsuke Yuyama, Hiromasa Kaneko, Correlation between the Metal and Organic Components, Structure Property, and Gas-Adsorption Capacity of Metal–Organic Frameworks, Journal of Chemical Information and Modeling, 61(12), 5785–5792, 2021. DOI: 10.1021/acs.jcim.1c01205
  • Nobuhito Yamada, Hiromasa Kaneko, Adaptive Soft Sensor Ensemble for Selecting Both Process Variables and Dynamics for Multiple Process States, Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems, 219, 104443, 2021. DOI: 10.1016/j.chemolab.2021.104443
  • Hiromasa Kaneko, Lifting the Limitations of Gaussian Mixture Regression through Coupling with Principal Component Analysis and Deep Autoencoding, Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems, 218, 104437, 2021. DOI: 10.1016/j.chemolab.2021.104437
  • Tomoya Ebi, Abhijit Sen, Raghu N. Dhital, Yoichi M. A. Yamada, Hiromasa Kaneko, Design of Experimental Conditions with Machine Learning for Collaborative Organic Synthesis Reactions Using Transition-Metal Catalysts, ACS Omega, 6(41), 27578–27586, 2021. DOI: 10.1021/acsomega.1c04826
  • Hiromasa Kaneko, Extended Gaussian Mixture Regression for Forward and Inverse Analysis, Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems, 213, 104325, 2021. DOI: 10.1016/j.chemolab.2021.104325

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関連リンク

研究室ウェブサイト: https://datachemeng.com/

Github: https://github.com/hkaneko1985

Twitter: https://twitter.com/hirokaneko226

Datachemical LAB: https://www.datachemicallab.com/

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大学院生です。ケモインフォマティクス→触媒

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