和田 猛 (わだ たけし)は、日本の有機化学者である。専門は核酸化学、糖化学、ペプチド化学。2021年現在、東京理科大学薬学部教授。Wave Life Sciences科学顧問(ファウンダー)、日本核酸化学会会長。第23回ケムステVシンポ講師。
経歴
1986年3月 東京理科大学理学部応用化学科 卒業(植木 正彬教授)
1988年3月 東京工業大学大学院総合理工学研究科生命化学専攻 修士課程修了(畑 辻明教授)
1991年3月 東京工業大学大学院総合理工学研究科生命化学専攻 博士課程修了(畑 辻明教授)
1991年4月 東京工業大学生命理工学部生命理学科 助手(関根 光雄教授)
1999年2月 東京大学工学部化学生命工学科 助教授(西郷 和彦教授)
1999年4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 助教授(西郷 和彦教授)
2004年4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻 准教授
2008年6月 (株)キラルジェン 科学顧問(兼務)
2013年4月 東京理科大学薬学部生命創薬学科 教授
2013年12月 Wave Life Sciences 取締役(兼務)
2017年2月 Wave Life Sciences 科学顧問(兼務)
2020年9月 日本核酸化学会 会長
受賞歴
1991年 手島記念研究賞
1991年 第8回井上研究奨励賞
1995年 第8回有機合成化学協会 武田薬品工業 研究企画賞
2018年 日本核酸医薬学会 学会賞
研究業績
・塩基部無保護核酸合成法[1]
核酸は水酸基、アミノ基、リン酸基などの求核性官能基を多数有するので、化学合成に際してそれらに適切な保護基を導入する必要がある。本研究ではヌクレオシドホスホン酸誘導体とホスホニウム型縮合剤を用いる水酸基選択的な縮合反応を実現し、核酸塩基とリン酸部位に保護基を必要としない核酸合成法を開発した。本法により、従来の核酸塩基部保護基の除去に用いられる過酷な塩基性条件下分解するような官能基を有する核酸誘導体の合成が可能となった。
・ホスホロチオエート核酸の立体選択的合成[2,3]
核酸医薬として汎用されるホスホロチオエート核酸は、不斉リン原子を有するために、従来の合成法では多くの立体異性体の混合物を与える。本研究では、5員環状リン化合物であるオキサザホスホリジン誘導体を用いるホスホロチオエートDNA [2]およびホスホロチオエートRNA [3]の立体選択的合成法を開発した。本法により、リン原子の立体化学が厳密に制御された核酸医薬品の製造が可能となった。
・リン原子修飾核酸の立体選択的合成[4]
本研究ではリン原子に種々の置換基が導入されたリン原子修飾核酸の立体選択的合成法を開発した。従来、核酸医薬として汎用されるホスホロチオエート核酸は、生体内のタンパク質との非特異的相互作用により重篤な副作用が発現する場合があるが、本研究により、より毒性が低く核酸医薬として有効なリン原子修飾核酸の立体選択的合成が可能となった。
・siRNAに結合するカチオン性オリゴ糖・オリゴペプチドの創製[5,6]
核酸医薬として用いられるsiRNA(二本鎖RNA)の高次構造を認識し、二重らせんの主溝に結合するカチオン性人工オリゴ糖(ODAGal)[5]とカチオン性人工ペプチド(Dab)[6]を開発した。これらの分子はsiRNAを熱力学的に安定化し、核酸分解酵素であるヌクレアーゼに対する耐性を高める作用がある。また、毒性発現の原因となる核酸とタンパク質との相互作用を阻害し、核酸医薬の副作用を軽減する。これらの分子と適切なリガンド分子を結合することにより、siRNAの標的臓器への送達・集積が可能となる。また、蛍光標識化合物と結合させることにより、核酸医薬の体内動体の追跡に用いることもできる。
関連文献
- Wada, T.; Sato, Y.; Honda, F.; Kawahara, S.; Sekine, M. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 12710-12721. DOI: 10.1021/ja9726015
- Oka, N.; Yamamoto, M.; Sato, T.; Wada, T. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 16031-16037. DOI: 10.1021/ja805780u
- Nukaga, Y.; Yamada, K.; Ogata, T.; Oka, N.; Wada, T. J. Org. Chem. 2012, 77, 7913-7922. DOI: 10.1021/jo301052v
- Iwamoto, N.; Oka, N.; Sato, T.; Wada, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 496-499. DOI: 10.1002/anie.200804408
- Hara, R. I.; Maeda, Y.; Sakamoto, T.; Wada, T. Org. Biomol. Chem. 2017, 15, 1710-1717. DOI: 10.1039/C6OB02690G
- Maeda, Y.; Iwata, R.; Wada, T. Bioorg. Med. Chem. 2013, 21, 1717-1723. DOI: 10.1016/j.bmc.2013.01.053
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