宮田 完ニ郎 (みやた かんじろう) は、日本の有機化学者である。東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻・准教授 専門は医薬品化学。
経歴
2016年1月-現在:東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻・准教授
2013年1月-2017年3月:東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター・准教授
2009年4月-2012年12月:東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター・助教
2007年4月-2009年3月:東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻・特任助教
2006年4月-2007年3月:東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻・特任助手
2006年3月:東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 博士課程修了 博士(工学)取得
2005年4月-2006年3月:東京大学大学院工学系研究科・日本学術振興会特別研究員(DC2)
受賞歴
2010年2月 第8回京都SMI中辻賞(京都SMI)
2020年2月 2019年度工学系研究科長表彰(東京大学大学院工学系研究科)
2018年7月 Nano Research Young Innovator Awards in NanoBiotech 2018(Nano Research誌)
2017年7月 平成29年度日本核酸医薬学会奨励賞(DDS) (日本核酸医薬学会)
2015年7月 2014 DDTR Outstanding Research Paper Award (Controlled Release Society)
2015年7月 第7回日本DDS学会奨励賞(日本DDS学会)
2012年11月 2012年度バイオマテリアル科学奨励賞(日本バイオマテリアル学会)
2010年5月 平成21年度高分子研究奨励賞(高分子学会)
2009年7月 第25回日本DDS学会優秀発表賞(日本DDS学会)
研究業績
・ 世界最小スケールのナノ医薬
体の中で血流を介した物質(あるいは薬)のデリバリーを考える際、サイズは非常に大きなパラメーターになります。最近の研究では、これまで小さいと考えられていた100 nm径のナノ粒子の腫瘍組織浸透性はそれほど高くなく、広範囲のがん細胞には薬をデリバリーできないことが指摘されています。一方で、サイズを約10 nm以下まで小さくしてしまうと、腎臓から速やかに尿中へと排泄されてしまいます。そこで私達は、腎排泄を回避しつつ腫瘍組織浸透性にも優れるナノ医薬として、約18 nmという最小スケールの高分子/核酸医薬複合体『ユニットポリイオンコンプレックス(uPIC)』を創りました。このuPICは1分子の核酸医薬と2分子の高分子から構成されますが、高分子の長さと形を精密に調整することが肝です。得られたuPICは、難治がんとして知られる膵臓がんや脳腫瘍モデルにも効率良く核酸医薬をデリバリーでき、現在は臨床第I相試験が行われています。
・ 血液–脳関門を突破して脳内に到達するナノ医薬
私達の脳の毛細血管は、血液–脳関門(blood-brain barrier, BBB)と呼ばれる密な血管構造を形成しています。そのため、一般的な薬や高分子は、血流から脳には届きません。上述の約18 nmのuPICを用いても、脳への効率的な集積は見られませんでした。一方で、脳は糖分などの栄養を大量に必要とするため、脳の毛細血管内皮細胞は、特定の栄養分子を積極的に取り込む機能を有しています。私達は、この脳に元々備わった輸送機構に着目し、核酸医薬を内包したナノ医薬の表面をグルコース分子で修飾しました。その結果、ある一定の密度でグルコース修飾されたナノ医薬は、BBBを通過して(脳の血管内皮細胞の中を通過して)、これまでに類を見ない程効率良く脳の中に移行することを見出しました。このナノ医薬技術に関しては、現在、東大発のバイオベンチャーが実用化を目指して開発を進めています。
、
・ 肺組織に留まるナノ医薬
上記二つの研究は、到達困難な組織に薬をデリバリーするための研究でした。私達は、逆のアプローチも行っています。すなわち、投与した生体組織に薬を留めるためのナノ医薬研究です。ドラッグデリバリーシステムならぬ、ドラッグリテンションシステムです。具体的には、気管内に投与した核酸医薬を肺胞組織に留め、肺胞上皮細胞(あるいは肺がん細胞)内へと移行させるナノ医薬の設計です。通常の核酸医薬(あるいは中分子医薬)は、サイズが約5 nmと小さいことから、気管内投与後に速やかに血流中に移行して全身に広がり、大部分が腎臓から排泄されます。この血流への移行を防ぐために、核酸医薬を表層に搭載したナノ粒子『核酸ボール』を創りました。50 nm径の核酸ボールを気管内に投与したところ、肺以外の組織への分布が劇的に抑えられました。その結果、肺に同所移植したがん細胞に効率良く核酸医薬を導入することができました。また、この核酸ボールの特長として、サイズを50〜800 nmの範囲で調節できることが挙げられます。現在、核酸ボールのサイズの違いに基づく肺細胞種選択性の有無を調べています。
・ mRNAデリバリーによるゲノム編集を実行するナノ医薬:ACS Cent. Sci. 5, 1866-1875 (2019)
2020年のノーベル化学賞に象徴されるように、近年、CRISPR-Casによるゲノム編集に大変な期待が集まっています。このゲノム編集を治療応用するためには、Casをコードした遺伝子あるいはCasそのもの、およびガイドRNAを標的とする細胞内に導入する必要があります。私達は、非天然ポリアミノ酸の化学構造設計を通じて、Cas9をコードしたmRNAとガイドRNAをin vivoで細胞に導入する技術を開発しています。これまでに、非天然ポリアミノ酸とmRNA/ガイドRNAから形成される複合体をマウス脳室内へ投与することで、脳室の上衣層でゲノム編集を誘導することに成功しています。現在は、単一遺伝子変異によって生じる遺伝性難病の治療を目指して研究を進めています。
コメント&その他
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関連リンク
宮田研究室ホームページ:https://www.bmm.t.u-tokyo.ac.jp/index.html