佐伯 昭紀(さえき あきのり、1977年―)は、日本の物理化学者である。専門分野は、高分子化学、光化学、放射線化学、時間分解分光、エネルギー変換、機能材料化学。大阪大学大学院工学研究科 教授。
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経歴
学歴
1995年 山口県徳山高等学校理数科卒業
1999年 大阪大学工学部原子力工学科卒業
2001年 大阪大学大学院工学研究科原子力工学専攻修士課程修了
2003年 大阪大学大学院工学研究科物質化学専攻博士後期課程 中途退学
2007年 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 博士(工学)取得
職歴
2001–2003年 日本学術振興会特別研究員(DC1)大阪大学大学院工学研究科
2002年 米国アルゴンヌ国立研究所 訪問学生
2003–2009年 大阪大学産業科学研究所 助手、助教
2009年 大阪大学産業科学研究所 特任助教、特任准教授
2010–2014年 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 助教(テニュアトラック)
2014–2019年 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 准教授
2019年– 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 教授
2020年– 大阪大学先導的学際研究機構「触媒科学イノベーション」(兼任)
兼任
2009–2013年 JSTさきがけ研究者「太陽光と光電変換機能」(九州工業大学 早瀬修二総括)
2015–2019年 JSTさきがけ研究者「マテリアルズインフォ」(東京大学 常行真司総括)
受賞歴
2008年 IUPAC Prize for Young Chemists
2010年 応用物理学会講演奨励賞
2013年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2013年 大阪大学総長奨励賞
2014年 大阪大学総長奨励賞
2015年 大阪大学総長奨励賞
2019年 高分子学会日立化成賞
研究業績
光電変換材料のための評価装置の開発
有機太陽電池(OPV)は、有機であるがゆえに多様な化学的・物理的構造を有し、合成・精製方法や構造的な理由から、電荷キャリア・エキシトンのトラップサイトとなる不純物や構造欠陥が多く含まれている。デバイスの性能はこのような多くの因子が複雑に関係するため、材料開発には多大な時間と労力を必要としてきた。そこで、Xe-flashランプからの白色光を励起光に、マイクロ波を分析光とした評価装置(Xe-flash time-resolved microwave conductivity: TRMC)を開発し、未知の材料と薄膜作製条件であっても、デバイスを作成することなく迅速で安定に性能を診断・予測することを可能にした(図1左)。
OPV高分子は電子供与性π共役ユニット(D)と受容π共役ユニット(A)を共重合させることで分子内電荷移動吸収を発現させ、適切なエネルギー準位をチューニングする。これまでに多くのDA高分子が設計・合成されているが、DとAの分類は必ずしも明確ではないことに着目し、通常はAとして考えられるベンゾビスチアゾール(BBTz)を弱Aと見なし、強いA基であるベンゾチアジアゾール(BT)を重合した新規高分子を設計・合成した。上記マイクロ波法で化学構造とプロセスのスクリーニングを行うことで、開発当初は全く性能が出なかった材料を変換効率6.5%まで向上させることに成功した(図1右)。
機械学習と実験スクリーニングによる有機太陽電池材料開発
有機太陽電池の高分子の分子構造は無数の組み合わせが存在し、かつ混合膜の構造は計算で予測できないため、光電変換効率注などの品質向上を目指すうえで人海戦術的な実験や計算化学では限界がある。そこで、高分子フラーレン太陽電池の混合膜材料としてこれまで報告されている高分子の化学構造、および素子性能に関わる物性値を手作業で1200個集め、このデータを基に機械学習アルゴリズムの1つであるランダムフォレストによる分類器を構築した。この分類器を使って新たな材料候補となる高分子の構造を抽出することに成功し、従来の計算化学では不可能であった溶解性を付与するアルキル鎖の選別も可能になった。さらに、高分子・非フラーレン太陽電池でもこの機械学習モデルを構築し、収集した高分子構造を分解・再構築することで20万種類の新規高分子を仮想的に合成して超高速スクリーニングを行った。その結果をもとに4種類の高分子を実際に合成・評価し、そのうちの一つは予測値に近い10%の変換効率が得られ、機械学習の有効性を実証した(図2)。
ペロブスカイト太陽電池材料の光電気・誘電物性
鉛(Pb)ペロブスカイト太陽電池は光を吸収し、電荷(正孔と電子)に変えるペロブスカイト層や、正孔と電子をそれぞれ陽極と陰極に分別するための正孔輸送層などから構成される。太陽電池の光電変換効率を高めるには、ペロブスカイト層だけでなく電荷輸送層の開発も重要である。そこで、マイクロ波法(TRMC)を用いて、ペロブスカイト発電層から正孔輸送層への正孔移動効率を直接評価できる方法を確立し、さらにデータ科学的統計法を融合することで、“性能を決める変数”を抽出することに成功した(図3左)。
また、有毒なPbをスズ(Sn)で代替する研究も注目されている。Pb/Snの混合金属およびI/Brの混合ハライドを有するペロブスカイトをTRMCで評価したところ、ある混合条件で特異な過渡伝導度が出現することを見出した。TRMCは交流電場を用いるため伝導度に実部と虚部を有し、通常の電荷キャリアは正の実部と負の虚部を示すが、上記のペロブスカイトは正負の符号が時間とともに逆転する異常な応答を示した(図3右)。独自の周波数変調・温度変化・比較試料の評価から、この異常信号が電荷キャリアトラップと有機カチオンの配向が関与する誘電率の過渡減少であることを見出した。
名言集
コメント&その他
関連動画
佐伯研究室PV
関連文献
- Kranthiraja, K.; Saeki, A.* Experiment-Oriented Machine Learning of Polymer:Non-Fullerene Organic Solar Cells, Adv. Funct. Mater. 2021, in press. DOI: 10.1002/adfm.202011168
- Nagasawa, S.; Al-Naamani, E.; Saeki, A.* Computer-Aided Screening of Conjugated Polymers for Organic Solar Cell: Classification by Random Forest, Phys. Chem. Lett. 2018, 9, 2639-2646. DOI: 10.1021/acs.jpclett.8b00635
- Al-Naamani, E.; Gopal, A.; Ide, M.; Osaka, I.; Saeki, A.* Exploring Alkyl Chains in Benzobisthiazole-Naphthobisthiadiazole Polymers: Impact on Solar-Cell Performance, Crystalline Structures, and Optoelectronics, ACS Appl. Mater. Interfaces 2017, 9, 37702-37711. DOI: 10.1021/acsami.7b10619
- Ishida, N.; Wakamiya, A.; Saeki, A.* Quantifying Hole Transfer Yield from Perovskite to Polymer Layer: Statistical Correlation of Solar Cell Outputs with Kinetic and Energetic Properties, ACS Photonics 2016, 3, 1678-1688. DOI: 10.1021/acsphotonics.6b00331
- Saeki, A.*; Yoshikawa, S.; Tsuji, M.; Koizumi, Y.; Ide, M.; Vijayakumar, C.; Seki, S. A Versatile Approach to Organic Photovoltaics Evaluation Using White Light Pulse and Microwave Conductivity, Am. Chem. Soc. 2012, 134, 19035-19042. DOI: 10.1021/ja309524f
最近の総説
- Saeki, A.*; Kranthiraja, K. A high throughput molecular screening for organic electronics via machine learning: present status and perspective, J. Appl. Phys. 2020, 59, SD0801. DOI: 10.7567/1347-4065/ab4f39
- Saeki, A.* Evaluation-oriented exploration of photo energy conversion systems: from fundamental optoelectronics and material screening to the combination with data science, Polym. J. 2020, 52, 1307-1321. DOI: 10.1038/s41428-020-00399-2 [OPEN ACCESS]