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前田 和彦 Kazuhiko Maeda

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前田 和彦(MAEDA Kazuhiko)は、無機固体化学、ナノ材料、光触媒、光電気化学を専門とする日本の化学者である。エネルギー変換型光触媒・光電極の研究に一貫して取り組み、最近では水分解光触媒・光電極の研究開発に加えて、二酸化炭素固定化のための金属錯体/半導体融合光触媒に関する研究も推進している。2021年現在、東京工業大学 准教授。

経歴

2003年3月…東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 卒業
2005年3月…東京工業大学大学院 総合理工学研究科 物質電子化学専攻 修士課程修了
2007年9月…東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻 博士後期課程修了
2007年4月~2009年3月…日本学術振興会特別研究員(DC2 & PD)
2007年10月~2008年3月…東京大学 博士研究員 (学振PD)
2008年4月~2009年3月…米国ペンシルベニア州立大学 化学科 博士研究員(学振PD)
2009年4月~2012年7月…東京大学 大学院工学系研究科 助教
2010年10月~2014年3月… JSTさきがけ研究者(兼任)
2012年8月~2016年3月…東京工業大学 大学院理工学研究科 化学専攻 准教授
2016年4月~現在…東京工業大学 理学院化学系 准教授

受賞歴

2006年10月…4th COE 21 International Symposium on Human-Friendly Materials Based on Chemistry, Best Poster Award
2007年4月…日本化学会第87回春季年会, 学生講演賞
2008年3月…東京大学工学系研究科長賞(最優秀)
2008年3月…東京大学総長賞(および総長大賞)
2008年8月…BCSJ Award(日本化学会)
2010年4月…日本化学会第90回春季年会, 優秀講演賞(学術)
2010年7月…TOCAT6/APCAT5, Best Oral Presentation Award
2010年9月…第106回触媒討論会, 若手優秀講演賞
2012年2月…6th PCCP Prize for Outstanding Achievement of Young Scientists in Physical Chemistry and Chemical Physics
2012年4月…第109回触媒討論会, 優秀ポスター発表賞
2012年4月…日本化学会第92回春季年会, 優秀講演賞(学術)
2012年9月…第110回触媒討論会, 若手優秀講演賞
2013年12月…第63回日本化学会進歩賞
2014年5月…The Chemical Conversion of Light Energy Prize 2014
2015年7月…Lee Hsun Young Scientist Lecture Series Award on Materials Science
2015年8月…平成27年度東工大挑戦的研究賞・学長特別賞
2016年3月…平成27年度東工大理学部若手教育賞
2016年4月…文部科学大臣表彰若手科学者賞
2016年12月…第11回凝縮系科学賞(実験部門)
2016年12月…第13回日本学術振興会賞
2017年3月…平成28年度東工大の星「STAR」
2017年12月…平成29年度東工大工系教育賞
2018年2月…平成29年度東工大教育賞優秀賞
2018年11月…Clarivate Analytics Highly Cited Researchers 2018(化学分野)
2019年6月…東京理科大学物理学園賞
2019年11月…Clarivate Analytics Highly Cited Researchers 2019(化学分野)
2020年10月…第9回新化学技術研究奨励賞
2020年11月…Clarivate Analytics Highly Cited Researchers 2020(化学分野)

研究業績

新しい複合アニオン系半導体光触媒の創出

半導体光触媒を用いた水の分解は人工光合成実現の観点から極めて重要な反応で、特に、太陽光の主成分である400nm以上の可視光を吸収して水を効率良く分解する光触媒反応系の構築が強く望まれている。
前田らは、ひとつの化合物内に複数のアニオン種が含まれる“複合アニオン系化合物”に着目し、新物質合成を通じた光触媒への応用展開を目指している。金属酸化物に代表される単アニオン化合物は、金属カチオン−酸素多面体を基本ユニットとして構成されるが、その限定された配位構造により、材料としての物性・機能性も限定される。その一方で、酸素の一部を電気陰性度の異なる他のアニオンで置換すると新たな配位構造が生まれ、これに起因した革新的機能の発現が期待できる(図1)。

図1. 物質化学のフロンティア、複合アニオン化合物

最近では、酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2が可視光応答可能な狭いバンドギャップを特異的に有し、水の酸化還元、そしてCO2還元に対しても安定な可視光応答型光触媒となることも見出した(図2)。これまで、酸素とフッ素をアニオン種として含む酸フッ化物は可視光応答型光触媒としてほとんど検討されてこなかったが、このような予想外の結果をもたらすのも複合アニオン化合物の魅力と言える。Pb2Ti2O5.4F1.2を透明導電性ガラス上に積層させて電極にすると、太陽光照射下で長時間安定に水を分解できることも見出している。光が関わらない“普通の”水の電気分解では、反応の進行に最低でも1.23 Vの電圧を陽極−陰極間にかける必要がありが、Pb2Ti2O5.4F1.2は1.23 Vよりもずっと低い電圧で、安定的に水を水素と酸素に完全分解できることを発見している。

図2. Pb2Ti2O5.4F1.2の結晶構造と光吸収特性、光触媒・光電気化学水分解への応用

金属酸化物ナノシートの特徴を活かした水分解光触媒系の構築

特定の層状遷移金属酸化物を単層剥離して得られるナノシートは、厚さが約1 nm、側部長が数100 nmから数µm程度という特異な構造をもった単結晶で、それ自体が半導体特性を有するため光触媒として機能する。しかし、金属酸化物のバンドギャップは一般に大きいため、紫外光しか吸収できないことが問題である。この問題の解決法として、可視光の吸収が可能な色素分子(金属錯体等)を金属酸化物上に吸着させ、可視光吸収により励起状態となった色素からの電子移動を利用して、水から水素を製造するシステムが提案されてきた(図3)。このシステムは色素増感太陽電池と同じ原理で駆動することから、色素増感型光触媒と呼ばれ、半世紀に渡って世界中で研究されてきたものの、効率の向上が課題となっていた。

図3. 酸化物と色素分子を組み合わせた可視光駆動型水分解光触媒

前田らは、HCa2Nb3O10ナノシートの積層空間にPtナノクラスターを取り込んだ材料(Pt/HCa2Nb3O10)にルテニウム色素を吸着させたものが、水素生成光触媒として有効に働くことを発見した。このPt/HCa2Nb3O10を、酸化タングステン系の酸素生成光触媒とヨウ素系電子伝達剤(I3/I)の存在下で用いると、可視光により水を水素と酸素に完全分解することができる(図4)。さらに、アモルファス状の酸化アルミニウムをあらかじめ付着させた、酸化アルミニウム修飾Pt/HCa2Nb3O10ナノシートを使用することで、水分解反応が大幅に促進されることを突き止めた。この反応機構をレーザー分光で調べたところ、酸化アルミニウムの存在によって、ヨウ化物イオン(I)からルテニウム錯体の電子供給過程が高速化されていることが確認され、このことが高活性化に寄与していることが明らかとなった。最終的な触媒性能を示すターンオーバー頻度は毎時1960に、みかけの量子収率は2.4%(420 nmでの値)に達した。これらの値は、これまでに報告されてきた類似の光触媒系を大きく超え、世界最高値となっている。類似の層状HCa2Nb3O10を用いて同様の操作を行っても高活性には至らず、ナノシートの活用が高活性化において不可欠であることもわかった。

図4. 酸化アルミニウム修飾Pt/HCa2Nb3O10ナノシートとルテニウム色素を組み合わせた複合材料を水素生成光触媒とした水の可視光完全分解システム

 

有機高分子半導体カーボンナイトライドを光触媒とした二酸化炭素還元

主たる半導体光触媒が金属を含む無機化合物(TiO2など)に限定されていた中、2009年、有機高分子半導体であるカーボンナイトライド(C3N4)が従来の無機半導体光触媒と同様な光触媒機能をもち、水を酸化還元できる安定な光触媒となることを発見した。C3N4は空気中で安定な粉末として取り扱える一方で、高分子としての素地をも併せ持つことから、そのバンド構造やそれに起因する光吸収特性は分子レベルでチューニングすることができる(図5)。

図5. Ru(II)錯体とカーボンナイトライドを融合した可視光駆動二酸化炭素還元光触媒

前田らは、C3N4とある種の金属錯体を組み合わせたハイブリッド型二酸化炭素光還元システムも開発した。本系では、可視光を吸収して励起状態になったC3N4から金属錯体への電子注入が起こり、二酸化炭素を還元することで反応が進行する。そのみかけの量子収率は従来知られていた無機半導体からなる系を凌駕し、耐久性を示すターンオーバー数は6000に達し、無機半導体からなる従来系の60倍以上に及ぶ。さらには、それ自体が優れた二酸化炭素還元光触媒となるRu(II)二核錯体と組み合わせると、二光子励起で駆動する高耐久性光触媒システムとなることも見出した(図6)。

図6. Ru(II)二錯体とカーボンナイトライドからなる人工Zスキーム

名言集

コメント&その他

・好きな食べ物:納豆
・好きな小説:Agatha Christie
・両親から教わった最も大事なこと:残さず食べろ
・ちょっとしたマイブーム:スーパーマーケットで美味しい辛口白ワインを探すこと
・もしも研究者でなかったら・・・歴史家だったかもしれない
・これまで経験した最高にexcitingな発見:堂免先生の下でGaN:ZnO固溶体を合成し、これを光触媒とすることで、当時夢の反応と言われた可視光水分解を世界で初めて達成したこと
・好きな映画:天空の城ラピュタ、カリオストロの城、紅の豚

関連動画

関連文献

  1. “GaN:ZnO Solid Solution as a Photocatalyst for Visible-Light-Driven Overall Water Splitting”: K. Maeda, T. Takata, M. Hara, N. Saito, Y. Inoue, H. Kobayashi, K. Domen, J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 8286. DOI: 10.1021/ja0518777
    単一の光触媒で水を水素と酸素に再現性良く分解した世界で最初の例
  2. “Photocatalyst releasing hydrogen from water”: K. Maeda, K. Teramura, D. Lu, T. Takata, N. Saito, Y. Inoue, K. Domen, Nature 2006, 440, 295. DOI: 10.1038/440295a
    (結果として)その後の光触媒の研究分野に大きな影響をもたらした水分解用の助触媒に関する先駆的成果
  3. “A metal-free polymeric photocatalyst for hydrogen production from water under visible light”: X. Wang, K. Maeda, A. Thomas, K. Takanabe, X. Gang, J. M. Carlsson, K. Domen, M. Antonietti, Nat. Mater. 2009, 8, 76. DOI: 10.1038/nmat2317
    有機物の半導体光触媒作用を世界に先駆けて発見
  4. “Modification of Wide-Band-Gap Oxide Semiconductors with Cobalt Hydroxide Nanoclusters for Visible- Light Water Oxidation”: K. Maeda, K. Ishimaki, Y. Tokunaga, D. Lu, M. Eguchi, Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 8309. DOI: 10.1002/anie.201602764
    身近な化合物ほど意外な超機能が隠されていると教えてくれた一報
  5. “A Stable, Narrow-Gap Oxyfluoride Photocatalyst for Visible-Light Hydrogen Evolution and Carbon Diox- ide Reduction”: R. Kuriki, T. Ichibha, K. Hongo, D. Lu, R. Maezono, H. Kageyama, O. Ishitani, K. Oka, K. Maeda, J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 6648. DOI: 10.1021/jacs.8b02822
    従来の常識を覆した酸フッ化物の可視光応答光触媒作用

関連書籍

関連リンク

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投稿者の記事一覧

ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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