[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

橘 熊野 Yuya Tachibana

[スポンサーリンク]

橘 熊野(たちばな ゆや、1975年–)は、日本の化学者である。専門は環境材料、高分子化学、有機化学、超分子化学。現在、群馬大学大学院理工学府 准教授。

経歴

1999 大阪府立大学工学部 卒業(高田 十志和 教授)
2001 大阪府立大学大学院工学研究科 博士前期課程 修了(高田 十志和 教授)
2004 東京工業大学大学院理工学研究科 博士後期課程 博士(工学)(高田 十志和 教授)
2004-2009 和歌山県工業技術センター 研究員(技術吏員)
2009-2011 独立行政法人産業技術総合研究所 特別研究員(国岡 正雄 グループリーダー)
2010-2011 Michigan State University (USA) 客員研究員(Prof. Ramani Narayan)(兼務)
2011-2019 群馬大学大学院工学研究科 助教(粕谷 健一 教授)
2013-2017 JSTさきがけ研究者「CO2資源化」領域(兼務)
2015 Université de Mons (Belgium) 客員研究員(Prof. Philippe Dubois)(兼務)
2018- 群馬大学食健康科学教育研究センター(兼務)
2019- 群馬大学大学院理工学府 准教授(粕谷 健一 教授)

受賞歴

2003 日本化学会第83春季年会 学生講演賞
2014 平成26年度繊維学会年次大会 若手優秀発表賞
2018 横山科学技術賞

研究業績

環境調和型材料の研究を幅広く実施しており、入口(原料)の研究として、バイオベース高分子の化学合成に関する研究を、出口(廃棄処理)の研究として、生分解性高分子の分解性制御に関する研究を実施している。

バイオベース高分子

バイオベース高分子の開発にとって、コストと供給量を考慮した上で原料を選択する必要がある。フルフラールは非可食バイオマス資源であるヘミセルロースから生産可能であり、安価かつ豊富な供給量を有する化合物である。橘らは、有機化学的手法を用い、フルフラールを化学変換することでバイオベースモノマーの合成を行なっている。汎用プラスチックのモノマーとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)モノマーのテレフタル酸や、ポリブチレンサクシネート(PSB)モノマーである1,4-ブタンジオールとコハク酸を合成している(図1)。また、オキサビシクロ骨格やビフラン骨格を有するモノマー合成し、生分解性高分子や高強度材料を開発している(図2)。

図1. フルフラールからのバイオベースモノマー合成。

図2. フルフラール由来バイオベース高分子の合成。

 

生分解性高分子

環境中の微生物によって二酸化炭素などに分解される生分解性高分子は、社会実装が進められている。しかしながら、どのような化学構造なら生分解性を発現するか、環境流出時にすみやかに生分解性を発現させるにはどのようにすればいいのかなど、解決すべき課題が残っている。橘らは、直鎖の脂肪族ポリエステルなどを系統的に合成し、その生分解性を評価することで、化学構造と生分解性の相関を明らかにしてきている(図3)。また、還元応答性を示すジスルフィド結合を高分子主鎖中に導入することで,環境流出時に受ける還元応答に応答して生分解性を発現させることに成功している(図4)。

図3. 高分子の化学構造と生分解性の相関。

図4. 環境刺激で分解する高分子。

 

関連文献

    1. Hayashi, S.; Narita, A.; Wasano, T.; Tachibana, Y.; Kasuya, K. Synthesis and Cross-Linking Behavior of Biobased Polyesters Composed of Bi(Furfuryl Alcohol). Polym. J. 2019, 121, 109333. https://doi.org/10.1016/j.eurpolymj.2019.109333.
    2. Tachibana, Y.; Hayashi, S.; Kasuya, K. I. Biobased Poly(Schiff-Base) Composed of Bifurfural. ACS Omega 2018, 3 (5), 5336–5345. https://doi.org/10.1021/acsomega.8b00466.
    3. Tachibana, Y.; Yamahata, M.; Kimura, S.; Kasuya, K. I. Synthesis, Physical Properties, and Biodegradability of Biobased Poly(Butylene Succinate-co-Butylene Oxabicyclate). ACS Sustain. Chem. Eng. 2018, 6 (8), 10806–10814. https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.8b02112.
    4. Tachibana, Y.; Baba, T.; Kasuya, K. ichi. Environmental Biodegradation Control of Polymers by Cleavage of Disulfide Bonds. Degrad. Stab. 2017, 137, 67–74. https://doi.org/10.1016/j.polymdegradstab.2017.01.003.
    5. Baba, T.; Tachibana, Y.; Suda, S.; Kasuya, K. Evaluation of Environmental Degradability Based on the Number of Methylene Units in Poly(Butylene n-Alkylenedionate). Degrad. Stab. 2017, 138, 18–26. https://doi.org/10.1016/j.polymdegradstab.2017.02.007.
    6. Tachibana, Y.; Baba, T.; Kasuya, K. Environmental Biodegradation Control of Polymers by Cleavage of Disulfide Bonds. Degrad. Stab. 2017, 137, 67–74. https://doi.org/http://dx.doi.org/10.1016/j.polymdegradstab.2017.01.003.
    7. Tachibana, Y.; Kimura, S.; Kasuya, K. I. Synthesis and Verification of Biobased Terephthalic Acid from Furfural. Rep. 2015, 5, 1–5. https://doi.org/10.1038/srep08249.
    8. Tachibana, Y.; Torii, J.; Kasuya, K.; Funabashi, M.; Kunioka, M. Hardening Process and Properties of an Epoxy Resin with Bio-Based Hardener Derived from Furfural. RSC Adv. 2014, 4 (99), 55723–55731. https://doi.org/10.1039/C4RA11636D.
    9. Tachibana, Y.; Yamahata, M.; Kasuya, K. Synthesis and Characterization of a Renewable Polyester Containing Oxabicyclic Dicarboxylate Derived from Furfural. Green Chem. 2013, 15 (5), 1318–1325. https://doi.org/10.1039/c3gc36938b.

    Tachibana, Y.; Masuda, T.; Funabashi, M.; Kunioka, M. Chemical Synthesis of Fully Biomass-Based Poly(Butylene Succinate) from Inedible-Biomass-Based Furfural and Evaluation of Its Biomass Carbon Ratio. Biomacromolecules 2010, 11 (10), 2760–2765. https://doi.org/10.1021/bm100820y.

関連動画

2020年6月2日 第四回ケムステバーチャルシンポジウム「持続可能社会をつくるバイオプラスチック」より

関連書籍

[amazonjs asin=”4759813942″ locale=”JP” title=”持続可能社会をつくるバイオプラスチック:バイオマス材料と生分解性機能の実用化と普及へ向けて (CSJカレントレビュー)”]

関連リンク

Avatar photo

kanako

投稿者の記事一覧

アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

関連記事

  1. Qi-Lin Zhou 周其林
  2. 高橋 大介 Daisuke Takahashi
  3. スティーヴン・バックワルド Stephen L. Buchwal…
  4. 林 民生 Tamio Hayashi
  5. トビアス・リッター Tobias Ritter
  6. トビン・マークス Tobin J. Marks
  7. ギー・ベルトラン Guy Bertrand
  8. ポール・アリヴィサトス Paul Alivisatos

注目情報

ピックアップ記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスで用いられる統計[超入門]-研究者が0から始めるデータの見方・考え方-
  2. 有機合成化学協会誌2021年3月号:水素抽出型化学変換・環骨格一挙構築・新規アルコキシメチル基・π拡張非交互炭化水素・フローマイクロリアクター
  3. 研究テーマ変更奮闘記 – PhD留学(後編)
  4. ケミストリー通り
  5. 第二回ケムステVシンポジウム「光化学へようこそ!~ 分子と光が織りなす機能性材料の新展開 ~」を開催します!
  6. 飲む痔の薬のはなし1 ブロメラインとビタミンE
  7. 「ハーバー・ボッシュ法を超えるアンモニア合成法への挑戦」を聴講してみた
  8. 快適な研究環境を!実験イス試してみた
  9. カンブリア爆発の謎に新展開
  10. ロジャー・コーンバーグ Roger Kornberg

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー