[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

長谷川 美貴 Miki Hasegawa

[スポンサーリンク]

長谷川 美貴 (はせがわ みき、1970-)は、日本の化学者である。青山学院大学理工学部教授(写真:こちら)。専門は錯体の光化学。特に希土類錯体を用いた材料で独自の成果を多数挙げている。

経歴

1993 青山学院大学 理工学部 化学科   卒業
1995 青山学院大学大学院 理工学研究科 化学専攻 博士前期課程修了
1998 青山学院大学大学院 理工学研究科 化学専攻 博士後期課程修了
1998 青山学院大学 博士号(理学)取得 (星 敏彦教授)
1998-2002 青山学院大学 理工学部 化学科 助手
2002-2004 青山学院大学 理工学部 化学科 専任講師
2004-2008 青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 専任講師
2008-2011 青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 准教授
2011-現在 青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 教授

受賞歴

2011 日本希土類学会奨励賞(足立賞)

研究業績

希土類発光錯体を用いた新しい発光デバイスの開発
ユーロピウム(Eu)やテルビウム(Tb)などの希土類金属は、f軌道間の遷移による色純度の高い発光を示すが、ff遷移はラポルテ禁制でありモル吸光係数が小さいという問題がある。そこで、大きな吸光係数を持つ有機分子(アンテナ配位子)と希土類金属の錯体を形成し、アンテナ配位子から希土類金属イオンへのエネルギー移動を利用することで、高い発光収率を達成しようとしている。長谷川教授らも、様々なアンテナ配位子を用いたり、多核錯体を用いたりすることによって、より強発光を示す希土類錯体の開発を行っている。

さらに膜内の偏光発光やアップコンバージョンナノ粒子の開発など、これまでの希土類錯体の開発や原理解明で得た知識と経験を基に、新しい発光デバイスの作成にも取り組んでいる。水面上の単分子膜は水面に固体基板を通過させることで基板に単分子累積膜(Langmuir–Blodgett膜;LB膜)として移し取ることができるが、LB膜中に希土類発光錯体および有機分子を取り組むことで、そこから得られる発光がある角度をもって発光する(偏光を示す)ことを見つけた。これを利用することでのぞき見防止機能を持つディスプレー作成の低コスト化につながるとされている。

図はこちらより改変

 

また、希土類金属とナノ粒子を組み合わせた新しい発光材料も開発も行っている。二酸化チタン上にEu、フェナントロリンで構成される系を開発し、Euイオンの還元によって誘発された青色の発光が観測されることを発見した。ツリウム(Tm)酸化物のナノ粒子とイッテルビウム(Yb)イオン、インジゴ系有機色素を持つ系の開発、では太陽光レベルの弱い光でも近赤外光を可視光に変換するアップコンバージョンを発現させることに成功している。

希土類エレメントの開発と集合化への展開
ランタノイド収縮は、一連のランタノイドイオンの原子番号が大きくなるとイオン半径が小さくなることをいう。同じ配位子を用いてもイオン半径が変るとほとんどの系では配位子にひずみが生じ、分子構造は変化する。この10年間、キレート効果を加味した6座配位子を開発するとともに、この骨格はランタニド収縮に従って金属イオンと配位元素の距離は変化するが、分子構造は同じらせん構造を有することを発見している。これにより、溶液中でも希土類の発光を促すアンテナの役割をしている配位子は解離せずに機能し、更に溶解度を上げることができ、湿式で分子膜を作成する画期的な単位骨格(あるいはエレメント)として種々展開できることを証明した
例えば、水溶性置換基の導入により、水中でも消光が抑えられ、母骨格と同程度の発光機能を示す。この錯体はゼブラフィッシュの幼生に対する実験により、毒性が極めて低いことが分かっている。あるいは長鎖アルキル基を導入すると、膜化によりこれまで目視が困難であったグラフェンのような超薄膜の疎水性表面に選択的に吸着し、グラフェンの可視化に成功している

関連文献

  1. Hasegawa, M.; Kunisaki, S.; Ohtsu, H.; Werner, F. Monatsh. Chem. 2009, 140, 751-763. doi: 10.1007/s00706-009-0134-6
  2. Ishii, A.; Hasegawa, M. Sci. Rep. 2015, 5, 11714. doi: 10.1038/srep11714
  3. Ishii, A.; Hasegawa, M. Sci. Rep. 2017, 7, 41446. doi: 10.1038/srep41446
  4. Ogata, S.; Goto, N.; Sakurai, S.; Ishii, A.; Hatanaka, M.; Yoshihara, K.; Tanabe, R.; Kayano, K.; Magaribuchi, R.; Goto, K.; Hasegawa, M. Dalton Trans., 2018, 47, 7135-7143. doi: 10.1039/C7DT04899H
  5. Yoshihara, K.; Yamanaka, M.; Kanno, S.; Mizushima, S.; Tsuchiyagaito, J.; Kondo, K.; Kondo, T.; Iwasawa, D.; Komiya, H.; Saso, A.; Kawaguchi, S.; Goto, K.; Ogata, S.; Takahashi, H.; Ishii A.; Hasegawa, M. New J. Chem., 2019, 43, 6472-6479. doi: 10.1039/C8NJ03976C
  6. Marets N.; Kanno S.; Ogata S.; Ishii A.; Kawaguchi S.; Hasegawa M. ACS Omega, 2019, 4, 13, 15512-15520. doi: 10.1021/acsomega.9b01775
  7. Hasegawa, M. ; Iwasawa, D.; Kawaguchi, T.; Koike, H.; Saso, A.; Ogata, S.; Ishii, A.; Ohmagari, H.; Iwamura, M.; Nozaki, K. ChemPlusChem, 2020, 85, 294-300. doi: 10.1002/cplu.201900692
  8. Hasegawa, M.; Ohmagari, H. Chem. Lett., 2020, online published, doi: 10.1246/cl.200184

関連書籍

[amazonjs asin=”4807914839″ locale=”JP” title=”無機化学 (わかる化学シリーズ 3)”] [amazonjs asin=”4782705670″ locale=”JP” title=”金属錯体の現代物性化学 (錯体化学会選書)”] [amazonjs asin=”478270609X” locale=”JP” title=”Let’s Startケミストリー―Lamb教授の英語ライブ講義で学ぶ”] [amazonjs asin=”4274208680″ locale=”JP” title=”わかる×わかった!物理化学”]

関連動画

第二回ケムステVシンポジウム「光化学へようこそ!~ 分子と光が織りなす機能性材料の新展開 ~」より

関連リンク

3150

投稿者の記事一覧

博士課程学生。専門は超高速分光。光機能分子のあれこれに興味があります。分光屋と材料屋、計算屋の懸け橋になりたいと思っています。

関連記事

  1. 宮田完ニ郎 Miyata Kanjiro
  2. アーサー・L・ホーウィッチ Arthur L. Horwich
  3. ベン・クラヴァット Benjamin F. Cravatt II…
  4. ネイサン・ネルソン Nathan Nelson
  5. 本多 健一 Kenichi Honda
  6. イー・タン Yi Tang
  7. リチャード・ラーナー Richard Lerner
  8. バリー・シャープレス Karl Barry Sharpless

注目情報

ピックアップ記事

  1. DMFを選択的に検出するセンサー:アミド分子と二次元半導体の特異な相互作用による検出原理を発見
  2. FAMSO
  3. マテリアルズ・インフォマティクスにおけるデータの前処理-データ整理・把握や化学構造のSMILES変換のやり方を解説-
  4. 【書評】現場で役に立つ!臨床医薬品化学
  5. 第六回 多孔質材料とナノサイエンス Mike Zaworotko教授
  6. 化学と工業
  7. ニルスの不思議な受賞 Nils Gustaf Dalénについて
  8. ダニエル・ノセラ Daniel G. Nocera
  9. ギース ラジカル付加 Giese Radical Addition
  10. シリコンバレーへようこそ! ~JBCシリコンバレーバイオ合宿~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー