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沼田 圭司 Keiji Numata

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沼田 圭司 (ぬまた けいじ、1980年-)は、日本の化学者である。専門は高分子の生合成と分解。2020年現在、京都大学大学院工学研究科 材料化学専攻 教授。

経歴

1999年 東京学芸大学附属高校 卒業
2003年 東京工業大学 工学部高分子工学科 卒業
2007年 東京工業大学 博士(工学)取得
2008-2010年 JSPS海外特別研究員 Tufts大学
2010-2012年 理化学研究所 上級研究員
2012年-現在 理化学研究所 チームリーダー
2014-2019年 ImPACT プロジェクトリーダー
2016-現在 JST ERATO研究総括
2020年-現在 現職

受賞歴

2020 The 2020 ACS Macro Letters/Biomacromolecules/Macromolecules Young Investigator Award (American Chemical Society)
2019 旭化成賞(高分子学会)
2019 日本植物細胞分子生物学会奨励賞(日本植物細胞分子生物学会)
2018 The BEPS Outstanding Young Scientist Award (Bio-Environmental Polymer Society (BEPS))
2018 文部科学大臣表彰若手科学者賞(文部科学省)
2017 ChemComm Emerging Investigators (Royal Society of Chemistry)
2016 The most highly prolific authors for Biomacromolecules (American Chemical Society)
2015 バイオ・高分子研究会 若手研究者奨励講演賞 (高分子学会バイオ・高分子研究会)
2015 第61回高分子研究発表会ヤングサイエンティスト講演賞(高分子学会関西支部)
2014 Polymer Journal 論文賞-日本ゼオン賞(高分子学会)
2014 高分子研究奨励賞(高分子学会)
2012 平成23年度 理化学研究所 研究奨励賞(理化学研究所)
2009 リンダウノーベル賞受賞者会議(化学)派遣(the Council for the Lindau Nobel Laureate Meetings)
2008 最優秀発表賞 博士の部(高分子学会関東高分子若手会)
2008 土肥賞(博士)(東京工業大学大学院物質科学創造専攻)
2005 土肥賞(修士)(東京工業大学大学院物質科学創造専攻)

詳細はこちらをご参照ください:沼田研究室HP

研究業績

生物素材の構造と機能から、人類の利用に適した構造材料を、創出する。

自然界には、シルク、ケラチン、レジリン等の合成高分子では真似できない特殊な機械的物性を有するタンパク質が多く知られている。一方で、その物性の発現機構には未解明な点が数多く残されており、階層構造に基づいた分子レベルの理解が必須である[Numata Polym. J. 2020]。特に、シルクから構成されるクモ糸は、合成高分子では達成できない高いタフネスを示し、自然界ではクモの巣や牽引糸として利用されている。この高いタフネスは、人類が利用する構造材料としても有用であり、幅広い分野から注目されている。沼田は、シルクの階層構造の形成過程における分子メカニズムに基づき、シルクを模倣した高分子を、酵素触媒や光合成生物を利用して合成することに成功している。

紡糸前後におけるクモ糸のシルクタンパク質の紡糸機構。

 

沼田教授は、高機能素材として知られているシルクに着目して、その構造と機能の解析を進めてきた。シルクは、その両末端であるN末端とC末端の構造が、分子間の相互作用に寄与し、糸の形成が進行することが知られている。一方で、N末端とC末端の間に存在する繰り返し配列は、シルクの大部分を占める配列にも関わらず、その機能と構造の相関は解明されていなかった。彼らは、繰り返し配列が形成するベータシート構造に着目し、シルクの結晶化過程を高分子レオロジー、散乱法、NMR、および顕微鏡観察を用いて解析し、溶液中における結晶形成から、シルクの紡糸過程における結晶化・繊維化機構に関する研究を進めて来た[Biomaterials 2010, Biomacromolecules 2011, 2012, 2016, Macromol Biosci 2014]。

近年、クモ糸の延伸過程における結晶構造変化を世界ではじめて明らかにすると共に、非晶性のシルク繊維の延伸過程における構造変化を明らかにすることに成功した[Soft Matter 2015]。また、原子間力顕微鏡観察、レオロジー解析およびSPring-8小角・広角X線解析により、クモ糸が100nm程度のグラニュール基本骨格として紡糸されることを明らかにした[Biomacromolecules 2017]。サブミクロンスケールの階層構造に関する知見が増える一方で、紡糸前のシルクタンパク質の構造についても、NMRや円二色性の解析結果から、新しい知見が得られている。溶液中において、シルクの繰り返し配列が2回以上繰り返し存在することで、グリシンを多く含む非晶配列が、ポリプロリンIIヘリックスを形成することが明らかとなった[Nat Commun 2018, Chem. Commun 2019]。

この部分的なヘリックス構造の生物学的意義は完全には解明されていないが、紡糸直前に、高濃度化するシルクタンパク質の非特異的凝集を防ぐ役割があると考えられる。また、紡糸過程において、pH変化が繰り返し配列には影響せず、N末端とC末端の構造にのみ、影響することも併せて報告している。

クモ糸の実験系@SPring-8(理研プレスリリースより)

 

これらの成果から、人工的にシルク分子を設計するに際し、少なくとも2回以上の繰り返し配列が存在すれば、ポリプロリンIIヘリックスなどの特異な二次構造を誘起できることを明らかにした。しかしながら、ポリペプチドのようなアミノ酸から成るポリマーを効率良く大量に生産する手法は確立されておらず、紡糸機構の知見を還元するためには、バルクスケールの合成に耐え得る革新的な合成手法が必要であった。そこで、酵素触媒を利用した化学酵素重合を用いることで、ポリペプチドの新規合成戦略を提案し、複数の機能性ポリペプチドを合成してきた。例えば、シルクタンパク質と類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドの合成にも成功している[ACS Macro Lett 2017]。また、天然のクモ糸と同様の紡糸機構を目指し、シルク水溶液からの紡糸も徐々に実現している[Biomacromolecules 2018]。上述のように、クモ糸の紡糸機構に基づき、シルクを模倣したバイオ高分子の設計および合成を、一貫して達成することに成功している。

シルクのような構造タンパク質に加え、木材のような生物素材の開発も、植物のオルガネラゲノムの改変技術を開発することで、進めている。植物細胞に外来遺伝子を導入する技術は、多くの研究者により開発されてきた。その結果、アグロバクテリウム法や遺伝子銃を利用した技術が発展してきた。しかし、オルガネラゲノム、特にミトコンドリアのゲノムを改変することは、既存の技術では容易なことではない。彼らは、異なる機能を有するペプチドを融合したペプチドを用いることで、ミトコンドリアや葉緑体といったオルガネラへの選択的な遺伝子導入が可能なバイオ技術を開発して来た。ペプチドを遺伝子導入に利用する一番の利点は、遺伝子を選択的に導入できる点である。彼らは、細胞膜透過配列に加えて、ミトコンドリア移行配列とポリカチオンから成る融合ペプチドを利用することで、植物ミトコンドリアへ選択的に遺伝子を導入することに世界で初めて成功した[Sci Rep 2015]。同時に、複合体表面において、ミトコンドリア移行配列が正しい二次構造を維持することが、導入効率に顕著に影響することを明らかにした[Biomacromolecules 2016]。近年では、葉緑体やミトコンドリアへの移行配列を用い、葉緑体やミトコンドリアの高い相同組換え機能を利用することで、葉緑体とミトコンドリアのゲノムに外来遺伝子を挿入することにも成功している[Biomacromolecules 2018, Adv. Sci. 2019]。天然の配列に対して非天然のアミノ酸を挿入することで、ペプチドの構造安定性および酵素分解耐性を付与することにも成功しており、新しい高分子化学と生物学の融合がはじまっている[ACS Biomater. Sci. Eng. 2020]。このように、バイオプラスチックや構造タンパク質などの植物生産や [Plant Biotechnol. 2017]、新たな植物材料の開発に向けて少しずつ研究を進めている。

ペプチドによるプラスミドDNAの葉緑体への導入。プラスミドDNAと葉緑体移行配列を含むペプチドを複合化し、さらに細胞膜透過配列を含むペプチドを添加することで、ニつの機能性ペプチドを含むクラスターを形成し、それを植物内部の色素体へ導入することに成功した。(理研プレスリリースより転用)

 

関連動画

2020年6月2日 第四回ケムステバーチャルシンポジウム「持続可能社会をつくるバイオプラスチック」より

 

関連文献

総説

  1. Keiji Numata*. How to define and study structural proteins as biopolymer materials. Polymer Journal.
  2. Mieko Higuchi-Takeuchi*, Keiji Numata*. Marine purple photosynthetic bacteria as sustainable microbial production hosts. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology, Vol 7, 258, 2019.(DOI: 10.3389/fbioe.2019.00258
  3. Chris Holland*, Keiji Numata*, Jelena Rnjak-Kovacina*, Philipp Seib*. The biomedical use of silk: past, present, future. Advanced Healthcare Materials, 1800465, 2019.(DOI: 10.1002/adhm.201800465

原著論文

  1. Kayo Terada, Joan Gimenez-Dejoz, Yu Miyagi, Kazusato Oikawa, Kousuke Tsuchiya*, Keiji Numata*. Artificial Cell-Penetrating Peptide Containing Periodic α-Aminoisobutyric Acid with Long-term Internalization Efficiency in Human and Plant Cells. ACS Biomaterials Science and Engineering, accepted.
  2. Kenjiro Yazawa, Ali D. Malay, Hiroyasu Masunaga, Y. Norma-Rashid, Keiji Numata*. Simultaneous effect of strain rate and humidity on the structure and mechanical behavior of spider silk. Communications Materials, 1:10, 2020.(DOI: 10.1038/s43246-020-0011-8
  3. Chonprakun Thagun, Jo-Ann Chuah, Keiji Numata*. Targeted gene delivery into various plastids mediated by clustered cell-penetrating and chloroplast-targeting peptides. Advanced Science, 6(23), 1902064, 2019.(DOI: 10.1002/advs.201902064
  4. Nur Alia Oktaviani, Akimasa Matsugami, Fumiaki Hayashi, Keiji Numata*. Ion effects on the conformation and dynamics of repetitive domain of a spider silk protein: Implications for solubility and β-sheet formation. Chemical Communications, 55, 9761-9764, 2019.(DOI: 10.1039/C9CC03538A
  5. Joan Gimenez-Dejoz, Kousuke Tsuchiya, Keiji Numata*. Insights into the Stereospecificity in Papain-Mediated Chemoenzymatic Polymerization from Quantum Mechanics/Molecular Mechanics Simulations. ACS Chemical Biology, 14(6) 1280-1292, 2019.(DOI: 10.1021/acschembio.9b00259
  6. Md Monirul Islam, Masaki Odahara, Takeshi Yoshizumi, Kazusato Oikawa, Mitsuhiro Kimura, Masayuki Su’etsugu, Keiji Numata*. Cell-penetrating peptide-mediated transformation of large plasmid DNA into Escherichia coli. ACS Synthetic Biology, 8(5), 1215-1218, 2019.(DOI: 10.1021/acssynbio.9b00055
  7. Nur Alia Oktaviani, Akimasa Matsugami, Ali D. Malay, Fumiaki Hayashi, David L. Kaplan, Keiji Numata*, Conformation and dynamics of soluble repetitive domain elucidates the initial β-sheet formation of spider silk. Nature Communications, 9:2121, 2018.(DOI: 10.1038/s41467-018-04570-5

関連書籍

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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