リロイ・フッド (Leroy E. Hood; 1938年10月10日-)は、アメリカの生物学者である。ワシントン大学教授。DNA・タンパクの自動シーケンサー、自動合成装置などの開発者。彼が開発したこれらの装置は、ゲノミクス・プロテオミクス分野の発展、さらに生物・化学・医学分野の研究に多大な貢献を果たした。
経歴
19XX カリフォルニア工科大学 卒業
1964 ジョンズホプキンス大学 医学博士号取得
1968 カリフォルニア工科大学 博士号取得(指導教官:William J. Dreyer教授)
1970 カリフォルニア工科大学 助教授
1973 カリフォルニア工科大学 准教授
1975 カリフォルニア工科大学 教授
1980-1989 カリフォルニア工科大学生物学科 学科長
1992 ワシントン大学 教授
2000 Institute for System Biology 所長
受賞歴
2002 京都賞
2003 Lemelson–MIT Prize
2006 Heinz Award in Technology, the Economy & Employment
2009 Pittcon Heritage Award
2010 Kistler Prize
2011 National Medal of Science
2014 IEEE Medal for Innovations in Healthcare Technology
2019 クラリベイト・アナリティクス 引用栄誉賞
研究業績
高感度のタンパクシーケンサーの開発
Hood教授は、カリフォルニア工科大学で研究を始めた当時、生物学とテクノロジーの両方に研究人生を捧げたいと考えていた。彼はタンパク化学を学んでいたため、エドマン分解を用いたタンパクのシーケンシンサーを改良することにまず関心を持った。当時の技術では、分析に多量(ミリグラム程度)のサンプル量が必要であったが、(1)エドマン分解を液相でなく気相で行ってサンプルロスを減らすことや、(2)腐食性のエドマン試薬に耐えうるバルブを作ることなど、一連の改良を行い、必要サンプル量をマイクログラムに抑えた高感度の気液相タンパクシーケンサーを開発した(1982年)。
DNA・ペプチド自動合成装置の開発の開発
1970年代の終わり頃、コロラド大学のMarvin Caruthers教授らにより、DNAの化学合成法(ホスホロアミダイト法)が開発された。DNAの自動合成装置の開発に関心のあったHood教授は、Caruthers教授にホスホロアミダイト法の伝授を依頼し、Caruthers教授らが開発した反応を自動化することで、DNA自動合成装置を開発した(1983年)。さらに、タンパクシーケンサーやDNA合成装置の開発における経験を生かし、ペプチド合成装置の開発も行った(1984年)。
自動DNAシーケンサーの開発
1975年、Walter Gilbert教授・Frederick Sanger教授により、それぞれ化学分解・酵素を用いたDNAシーケンシング法が開発された(1980年、ノーベル化学賞)。Hood教授らは、この手法を自動化することに興味を持ち、Sanger教授が発表した手法(ジデオキシ法/サンガー法)をもとに、DNAシーケンサーの開発に取り組んだ。
Hood教授らの手法では、蛍光標識したジデオキシヌクレオチド三リン酸(ddNTP)を、DNA増幅溶液に少量混ぜておく(図1)。ddNTPは、3’位のヒドロキシ基が無いため、DNAポリメラーゼによって取り込まれると、DNAの伸長がそこで停止する(図2)。
このような反応溶液から得られる生成物は、様々な位置にて断片化されたDNA産物である。これを、キャピラリー電気泳動によって長さに応じて分離し、それぞれの塩基に対応する蛍光シグナルを読み取ることで、鋳型DNAの配列を決定することができる。
ddNTPを用いる手法(ジデオキシ法/サンガー法)については、Sanger教授らによって開発されていたが、彼らの手法では放射性同位体標識が用いられ、一度の反応で4種のddNTPのうち一つを加えるという手順であった(つまり、4種の反応を別々に行う必要がある)。Hood教授らは、サンガー法の改良版として、ddNTPを4種の異なる蛍光色素で標識し、それらを同時に加えるという手順を取ることで、一つのキャピラリーにおいて生成物を分離・分析することを可能にした。この他にも、自動化における様々な難点を克服し、1986年に自動DNAシーケンサーの開発に成功した。
一連の装置の開発においては、当時カリフォルニア工科大学に在籍していたMike Hunkapiller博士やLloyd Smith博士(現ウィスコンシン大学教授)なども関わっている。また、これらの装置はApplied Biosystemsという企業を通じて製品化され、幅広く普及することとなった。
名言集
コメント&その他
Hood教授がCaruthers教授にDNA自動合成装置の話を持ちかけた際、Caruthers教授は快く受け入れたものの、なぜわざわざ核酸合成を自動化するのか疑問に思ったと言う。当時は、ゲノミクスやプロテオミクスの分野がまだまだ未開拓であったため、核酸合成装置の需要がいかに大きくなるかは予想されていなかった。
関連動画
関連文献
- Hewick, R. M.; Hunkapiller, M. W.; Hood, L. E.; Dreyer, W. J. J. Biol. Chem. 1981, 256, 7990. Link
- Hunkapiller, M. W.; Hood, L. E. Science 1980, 207, 523. DOI: 10.1126/science.7352258
- Smith, L. M.; Sanders, J. Z.; Kaiser, R. J.; Hughes, P.; Dodd, C. Connell, C. R.; Heiner, C.; Kent, S. B. Nature 1986, 321, 674. Link
- Hood, L. Annu. Rev. Anal. Chem. 2008, 1, 1. DOI: 10.1146/annurev.anchem.1.031207.113113
関連リンク
- DNAシーケンシング: wikipedia
- Leroy Hood:ワシントン大学のページ
- Applied Biosystems:wikipedia(英語)