[スポンサーリンク]

エネルギー化学

宮坂 力 Tsutomu Miyasaka

[スポンサーリンク]

宮坂 力 (みやさか つとむ、1954年9月10日-)は、日本のエネルギー化学・物理化学者である。国際的な通称はTom。2019年5月現在、桐蔭横浜大学 特任教授。

経歴

1972 早稲田高等学院卒業
1976 早稲田大学理工学部応用化学科 卒業(土田研究室)
1978 東京大学大学院工学系研究科 工業化学修士課程修了(本多健一教授)
1980-1981 カナダ・ケベック大学大学院 生物物理学科 客員研究員
1981 東京大学大学院工学系研究科合成化学博士課程修了
1981富士写真フィルム入社
2001-2017 桐蔭横浜大学大学院工学研究科教授
2017-現在 桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科 特任教授

受賞歴

2002 (財)化学技術戦略推進機構「アカデミアショーケース」
2004 横浜市ベンチャービジネスプランコンテスト「アカデミー賞」
2011 Scientific American 50 selection
2016 グリーンサステナブルネットワーク文部科学大臣賞
2017 クラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞 化学分野 受賞
2019 応用物理会業績賞

研究概要

鉛ハライドペロブスカイト化合物の色素増感太陽電池への応用

2009年に有機無機ハイブリッド鉛ハライドペロブスカイトCH3NH3PbX3(X=I or Br)を色素増感太陽電池の増感剤として用い、変換効率3.8%を報告した[1]。この論文は鉛ハライドペロブスカイトを太陽電池材料として着目した世界で初めての研究で、光電変換材料としての潜在能力に気付くきっかけとなった研究だった。当初はそれほど注目されなかったものの、2012年に全固体化した薄膜太陽電池の作製に成功して安定性と効率が大きく向上し[2]、世界的に研究に火が付いた。ペロブスカイト太陽電池とも呼ばれるこの物質群は光電変換材料の開発の歴史の中でもかつてない速度で急成長を遂げており、本格的に研究され始めて5年のうちにシリコン太陽電池に迫る20%以上の効率を達成している。

宮坂力はこの成果について、ノーベル賞受賞者候補とも呼ばれるクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞を2017年に受賞している。

図1:(左)増感剤としてペロブスカイト物質を用いたTiO2粒子の模式図。 (右)CH3NH3PbX3(X=Br, I)を用いた色素増感太陽電池の量子効率曲線。CH3NH3PbI3を用いたデバイスは可視光領域でバランスよく発電ができ、3.8%の光電変換効率を達成した。文献[1]のTOC画像より引用。

なお、ペロブスカイト太陽電池の成果以外にも、バクテリオロドプシンを用いた生体を模倣した光応答デバイスの研究[3,4]や非晶質SnO2を用いたリチウム貯蔵物質の開発[5]といった優れた業績を残している。

コメント

趣味はバイオリンの演奏や弦楽器の研究。日独化学会の混成オーケストラのコンサートマスターを経験されている。
バイオリンの名器に関する論文を英国の権威ある弦楽器専門誌に寄稿している。
2019年6月現在2009年に発表された論文は引用回数8500超であつ

関連文献

  1. ”Organometal halide perovskites as visible-light sensitizers for photovoltaic cells” Kojima, A.; Teshima, K.; Shirai, Y.; Miyasaka, T. J. Ame. Chem. Soc. 2009, 131, 6059. DOI: 10.1021/ja809598r
  2. ”Efficient hybrid solar cells based on meso-superstructured organometal halide perovskites” Lee, M. M.; Teuscher, J.; Miyasaka, T.; Murakami, T. N.; Snaith, H. J. Science 2012, 338, 643. DOI: 10.1126/science.1228604
  3. ”Quantum Conversion and Image Detection by a Bacteriorhodopsin-Based Artificial Photoreceptor” Miyasaka, T.; Koyama, K.; Itoh, I. Science 1992, 255, 342. DOI: 10.1126/science.255.5042.342
  4. ”Antibody-Mediated Bacteriorhodopsin Orientation for Molecular Device Architectures” Koyama, K.; Yamaguchi, N.; Miyasaka T. Science 1994, 265, 762. DOI: 10.1126/science.265.5173.762
  5. ”Tin-Based Amorphous Oxide: A High-Capacity Lithium-Ion–Storage Material” Idota, Y.; Kubota, T.; Matsufuji, A.; Maekawa, Y.; Miyasaka, T. Science 1997, 276, 1395. DOI: 10.1126/science.276.5317.1395

関連リンク

関連書籍

[amazonjs asin=”4781310184″ locale=”JP” title=”新コンセプト太陽電池と製造プロセス 《普及版》 (エレクトロニクス)”]

spectol21

投稿者の記事一覧

ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

関連記事

  1. エリック・メガース Eric Meggers
  2. ガレン・スタッキー Galen D. Stucky
  3. デイヴィッド・マクミラン David W. C. MacMill…
  4. 松原 亮介 Ryosuke Matsubara
  5. デミス・ハサビス Demis Hassabis
  6. アメリ化学会創造的有機合成化学賞・受賞者一覧
  7. 香月 勗 Tsutomu Katsuki
  8. 長谷川 靖哉 Yasuchika Hasegawa

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「さくら、さくら」劇場鑑賞券プレゼント結果発表!
  2. 第129回―「環境汚染有機物質の運命を追跡する」Scott Mabury教授
  3. “click”の先に
  4. マット・フランシス Matthew B. Francis
  5. コールドスプレーイオン化質量分析法 Cold Spray Ionization Mass Spectrometry (CSI-MS)
  6. 1,2-/1,3-ジオールの保護 Protection of 1,2-/1,3-diol
  7. リチウムにビリリとしびれた芳香環
  8. アニオン重合 Anionic Polymerization
  9. MEDCHEM NEWS 31-3号「ケムステ代表寄稿記事」
  10. メディビック、抗がん剤「グルフォスファミド」の第II相試験を開始

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー