[スポンサーリンク]

世界の化学者データベース

トマス・リンダール Tomas R. Lindahl

[スポンサーリンク]

トマス・ロバート・リンダール (Tomas Robert Lindahl、1938年1月28日-)は、スウェーデンの生化学者である。フランシス・クリック研究所 名誉研究員。(写真:Vimeo動画より)

「DNA修復機構の解明」の業績により2015年のノーベル化学賞を受賞した。

経歴

1967 カロリンスカ研究所 博士号取得
1970 カロリンスカ研究所 MD取得
19xx プリンストン大学 博士研究員(Jacques Fresco教授)
19xx ロックフェラー大学 博士研究員(Gerald Edelman教授)
1978 グーテンベルク大学 教授
1981 ICRF Mill Hill Laboratory, Mutagenesis Laboratory 所長
1986-2006 ICRF Clare Hall Laboratories ディレクター
20xx フランシス・クリック研究所 名誉研究員

受賞歴

2007 Royal Medal
2009 INSERM Prix Etranger
2010 Copley Medal
2015 ノーベル化学賞

研究概要

DNA修復機構の解明に関する研究[1]

当初科学者たちはDNAを非常に安定な物質と捉えていたが、1970年代にリンダールはそれが想像よりも不安定で、自然に壊れうる分子であることを実証した。例えば脱アミノ化や酸化、非酵素的メチル化などの標的となり得ること、遺伝子変異の起点になり得る示唆を与えた[2]。

とりわけウラシル(シトシンの脱アミノ化体)が高頻度で見られることから、これと関わる酵素過程が存在するとの着想を得、大腸菌からウラシル-DNAグリコシラーゼ(UNG)の発見に至った[3]。これはDNAの塩基除去修復(base excision repair)に関与する酵素群のうち、最初に見つかったものである。

(画像:Wikipediaより)

(画像:Wikipediaより)

このようにしてリンダールは、DNAが化学的に不安定であること、損傷したDNAを修復する機構を細胞が備えていることを発見し、DNA修復という生物現象の研究領域を切り開いた。

この業績により、ポール・モドリッチアジズ・サンジャルとともに2015年のノーベル化学賞を共同受賞した。

 

関連動画

Tomas Lindahl – Clare Hall Laboratories, Cancer Research UK from IFOM on Vimeo.

 

関連論文

  1. Lindahl T. “My Journey to DNA Repair.” Genomics, Proteomics & Bioinformatics 2013, 11, 2. doi: 10.1016/j.gpb.2012.12.001
  2. (a) Lindahl, T.; Nyberg, B. “Rate of depurination of native deoxyribonucleic acid.” Biochemistry 1972, 11, 3610. (b) Lindahl, T.; Andersson, A. “Rate of chain breakage at apurinic sites in double-stranded deoxyribonucleic acid.” Biochemistry 1972, 11, 3618.
  3. (a) Lindahl, T. “An N-glycosidase from Escherichia coli that releases free uracil from DNA containing deaminated cytosine residues.” Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1974, 71, 3649. (b) Lindahl, T. “New class of enzymes acting on damaged DNA” Nature 1976, 259, 64.
  4. Lindahl, T. “Instability and decay of the primary structure of DNA”. Nature 1993, 362, 709. doi:10.1038/362709a0

 

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. フランク・グローリアス Frank Glorius
  2. 赤﨑 勇 Isamu Akasaki
  3. カルロス・バーバス Carlos F. Barbas III
  4. 大井貴史 Takashi Ooi
  5. 日本学術振興会賞受賞者一覧
  6. アロイ・フュルスナー Alois Furstner
  7. スティーブン・ジマーマン Steven C. Zimmerman…
  8. Thieme-IUPAC Prize in Synthetic …

注目情報

ピックアップ記事

  1. 京大北川教授と名古屋大学松田教授のグループが”Air Liquide Essential Molecules Challenge”にて入賞
  2. アミンの新合成法
  3. アゾ化合物シストランス光異性化
  4. 化学研究ライフハック:ソーシャルブックマークを活用しよう!
  5. Impact Factorかh-indexか、それとも・・・
  6. ムスカリン muscarine
  7. 塩化インジウム(III):Indium(III) Chloride
  8. 中嶋直敏 Nakashima Naotoshi
  9. 水素社会~アンモニアボラン~
  10. 2009年8月人気化学書籍ランキング

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP