非リボソームペプチド(non-ribosomal peptide, NRP)とは、微生物の二次代謝産物の中で、リボソームを経由せずに合成されるペプチドを指す。
通常のペプチド・タンパク質はセントラルドグマ(mRNAからの翻訳)に従ってリボソームが合成するが、NRPは専用の非リボソームペプチド合成酵素(non-ribosomal peptide synthase, NPRS)によって合成される。
NRPは、コドンにコードされていないアミノ酸を含んだり、環状・分枝状構造を取ったり、糖鎖や脂肪鎖の修飾を受けたりと、通常のペプチドよりも遥かに多様な分子構造を示す。応じてその生物活性・薬理活性も多様なものとなる。例えばシクロスポリン(免疫抑制剤)、バンコマイシン(抗生物質)などはNRPの一種である。
合成経路の記述
NPRSの実態は長大な遺伝子領域でコードされる巨大なタンパク質複合体であり、アミノ酸を代謝基質とする。特徴的な繰り返し構成単位をモジュールと呼び、異なる機能を担うドメインに分割できる。主には縮合ドメイン(C)、アデニル化ドメイン(A)、チオール化ドメイン(T)の3つが支配的な役割を担う。終点に達するとチオエステラーゼドメイン(TE)による切り出しが起きる。様々な修飾反応や環化を起こす機能も、それぞれのNRPSに特有のものとして存在する。
下記にSurfactin生合成経路の概要を示す。規則正しいモジュール構造がもたらすアミノ酸伸長→ペプチドの受け渡し→切り出し→環化によって合成される様子が記述される。
最近ではNRPの生合成経路を理解し、合成生物学の技術をもってNRPSを改変する(モジュールを組み替える)ことで、新規化合物の創出に役立てようとする研究も盛んである。
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参考文献
- Schwarzer, D.; Finking, R.; Marahie, M. Nat. Prod. Rep. 2003, 20, 275. DOI: 10.1039/B111145K
- mRNAを鋳型としないペプチド合成反応(PDF)