[スポンサーリンク]

chemglossary

光線力学療法 Photo Dynamic Therapy (PDT)

[スポンサーリンク]

光増感剤(photosensitizer)とレーザーを用いる治療法。主に癌の治療に用いられている。

癌の治療法としては、これまで外科手術、放射線治療、投薬治療が用いられて来た。PDTは、正常細胞を傷つけずに癌細胞のみを破壊する、より高い選択性を持つことが期待されている。

 

光線力学療法マウス

(図は、文献1より抜粋、筆者改変)

 

PDTの利点

  1. 外科手術が不可能な場所の病巣にも適応可能
  2. 高齢であることや、体力が無いことにより外科手術、放射線治療、投薬治療に耐えられない人にも適応可能。
  3. 光増感剤(photosensitizer)のみでは、臓器に毒性が無い。(化学療法では、吐き気、免疫機能の低下などの副作用がある。また、放射線治療では、正常細胞に炎症、傷害を起こすという副作用がある。)
  4. 非侵襲的治療法である。
  5. 膀胱癌、食道癌、頭、首、脳腫瘍、肺癌、皮膚癌、前立腺癌、乳癌、腹腔癌などの固形癌に適応可能である。
  6. 癌のみでなく、心臓、皮膚、眼の疾患や伝染病などへの応用も研究されている。
  7. 静脈注射または腹腔内投与できる。

 

PDTのメカニズム

光増感剤(PS)は、特定の波長の光を照射される事により、基底状態(S0)より一重項状態(S1)へと励起される。その後、項間交差により三重項状態(S3)となり、酸素にエネルギーを与えながら基底状態(S0)へと戻る。このときエネルギーを受け取った酸素は、一重項状態(一重項酸素)となり、種々の活性酸素種を発生させる。この活性酸素種が癌細胞を攻撃すると考えられている。

PDT mechanism

 

(図は、文献1より抜粋)

実際の治療では、光増感剤(photosensitizer)投与後、血中濃度が最大となった時に、患部に対して光照射が行われる。光増感剤(photosensitizer)は、基底状態に戻ると毒性を示さないと考えられている。

 

 

光増感剤(photosensitizer)とその歴史

初めて光線力学療法の現象が観測されたのは、1900年にRabbらによってである。

光線力学療法の概念が出来たのは1903年であり、eosinが用いられ、主に皮膚がんの患者らに適応された。

現代では、光線力学療法において初めて実用化された光増感剤(photosensitizer)は、photofrinと呼ばれるヘマトポルフィリン誘導体(HpD)である。

ヘマトポルフィリン誘導体(HpD)は有用な光増感剤(photosensitizer)であるが、以下のような問題点がある。

吸収波長があまり超波長ではなく(600 nm程度)であり、吸収も弱い。そのため、体内深部にある病巣には適応不可能である。また、光過敏症等の副作用もある。

これらの欠点を克服した第二世代光増感剤(photosensitizer)が登場した。それは、Levulan, Radachlorin, Visudyne, Foscan等である。

 

Eosin

 

参考文献

[1] Chem. Soc. Rev., 2011, 40, 340–362. DOI10.1039/B915149B

Avatar photo

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. 二重可変領域抗体 Dual Variable Domain Im…
  2. 機能指向型合成 Function-Oriented Synthe…
  3. 多重薬理 Polypharmacology
  4. 【金はなぜ金色なの?】 相対論効果 Relativistic E…
  5. メソリティック開裂 mesolytic cleavage
  6. クライン・プレログ表記法 Klyne-Prelog Nomenc…
  7. 波動-粒子二重性 Wave-Particle Duality: …
  8. mRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「アジア発メジャー」狙う大陽日酸、欧州市場に参入
  2. カスケード反応で難関天然物をまとめて攻略!
  3. 「産総研・触媒化学融合研究センター」ってどんな研究所?
  4. “かぼちゃ分子”内で分子内Diels–Alder反応
  5. 大学入試のあれこれ ①
  6. コーンブルム酸化 Kornblum Oxidation
  7. トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン : Tris(pentafluorophenyl)borane
  8. アセトアミノフェン Acetaminophen
  9. FT-IR(赤外分光法)の基礎と高分子材料分析の実際【終了】
  10. ザンドマイヤー反応 Sandmeyer Reaction

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2014年11月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP