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Spin-component-scaled second-order Møller–Plesset perturbation theory (SCS-MP2)

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SCS-MP2

Spin-component-scaled second-order Møller–Plesset perturbation theory (SCS-MP2) とは、MP2 計算をもとに、電子相関の補正をより高精度な QCISD(T) の結果と合うように調節して算出した方法。2003 年に Stephen Grimme が発表した。

Grimme, S. Improved second-order Møller–Plesset perturbation theory by separate scaling of parallel- and antiparallel-spin pair correlation energies. J. Chem. Phys. 2003, 118, 9095. DOI: 10.1063/1.1569242

MP2 計算ではより高次のMøller–Plesset法と比べて電子相関の補正にずれが大きい。この補正を、逆スピン(opposite spin, OS, alpha spin–beta spin) と 同スピン (same spin, SS, alpha spin–alpha & beta spin–beta spin) の電子相関による寄与に係数(それぞれ COS CSS )をかけることで調節している。

計算とエネルギー算出の方法

通常のMP2 計算の出力を使って SCS-MP2 エネルギーを求めることができる。Gaussian での入力と出力の例[1]は以下の通り。

入力(MP2 で一点計算する):

#p MP2/6-31G** geom=check guess=read scf=(maxcyc=250,tight) SCRF=(PCM, Solvent=Methanol,read) iop(5/33=2) nosymm gfinput 5d

出力(エネルギー該当部分を抜粋):

SCF Done: E(RHF) = -383.641996926 A.U. after 12 cycles

…中略…

Spin components of T(2) and E(2):
alpha-alpha T2 = 0.5736104110D-01 E2= -0.1594807297D+00
alpha-beta T2 = 0.3117674447D+00 E2= -0.9286360360D+00
beta-beta T2 = 0.5736104110D-01 E2= -0.1594807297D+00
The integrals were generated 1 times.
ANorm= 0.1194357370D+01
E2 = -0.1247597495D+01 EUMP2 = -0.38488959442123D+03
(D はE に直して excel などで計算する。例えば -0.3848D+03 = -0.3848 x 103)

実際、普通のMP2計算では、

EUMP2 (in hatree) = ERHF + E2

E2 = EMP2OS + EMP2SS

= E2ab + E2aa + E2bb

というように計算がなされている。SCS-MP2 では

EUMP2 (in hatree) = ERHF + E2SCS-MP2

E2SCS-MP2 = COSEMP2OS + CSSEMP2SS

= 6/5 E2ab + 1/3 (E2aa + E2bb)

のように計算する。COS = 6/5,  CSS = 1/3, の値は QCISD(T) と一致するように決められた。(COS = CSS = 1 のとき、普通のMP2と同じ値になる。 )このパラメーターを使うとエネルギーは MP2 や B3LYP より QCISD(T) からの誤差が小さくなることが論文中で報告されている。

解釈

H2 や He などの典型的な2電子相関系でMP2 は、80%から85% 程度までしか相関エネルギーを再現できていないことを踏まえて、一重項2電子系では相関エネルギーは逆スピン二重励起によるものであるため、SCS-MP2 では COS を 6/5 として補っている。全体としてスピン相関のエネルギーに対する寄与を2電子相関分におさめるために、同スピン励起の係数は 1/3 に減らすことによってフィッティングをしている。

その後

分子間相互作用の評価ではCCSD(T)と比較して弱点も指摘されている[2]。系に応じて COS CSS の改良値が提案されている(COS = 1.15 & CSS = 0.75 など)。

Fink, R. F. Spin-component-scaled Møller–Plesset (SCSMP) perturbation theory: A generalization of the MP approach with improved properties. J. Chem. Phys. 2010, 133, 174113. DOI: 10.1063/1.3503041

イオン性液体(Ionic Liquid)用のパラメーターも開発されている。

Rigby, J.; Izgorodina, E. I. New SCS- and SOS-MP2 Coefficients Fitted to Semi-Coulombic Systems. J. Chem. Theory Comput. 2014, 10, 3111–3122. DOI: 10.1021/ct500309x

参考文献

  1. Matsuoka, A.; Sandoval, C. A.; Uchiyama, M.; Noyori, R. Naka, H. Why p-Cymene? Conformational Effect in Asymmetric Hydrogenation of Aromatic Ketones with a η6-Arene/Ruthenium(II) Catalyst. Chem. Asian J. 2015, 10, 112–115. DOI: 10.1002/asia.201402979
  2. Bachorz, R. A.; Bischoff, F. A.; Höfener, S.; Klopper, W.; Ottiger, P.; Leist, R.; Frey, J. A.; Leutwyler, S. Phys. Chem. Chem. Phys. 2008, 10, 2758–2766. DOI: 10.1039/b718494h
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