[スポンサーリンク]

chemglossary

熱分析 Thermal analysis

[スポンサーリンク]

熱分析 (Thermal analysis)とは、熱に関する物質の物性を調べる方法である。構造に関する情報は得られないが、物質の熱に対する挙動を理解することができる。

熱分析とは

Wikipediaでは熱分析とは、物質の温度を制御しながら、その応答を分析する手法の総称と記されている。学生実験で、融点測定器を使って合成した有機化合物の融点を測定した経験があるかもしれないが、これは広義の熱分析といえる。

融点測定器(モノタロウより)

この熱分析の中で現在広く使われている分析は、

  • 熱重量分析(Thermogravimetric analysis:TGA):温度を変えて質量変化を測定
  • 示差熱分析(Differential thermal analysis:DTA):温度を変えて基準物質との温度差を測定
  • 示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC):温度を変えて測定試料と基準物質との間の熱量の差を計測
  • 熱機械分析(Thermomechanical analyzer:TMA):温度を変えて試料寸法の変化を測定

などが挙げられる。以降、それぞれの分析手法について解説していく

熱質量分析

温度を変える(一般的には室温から高温)ことで物質の質量の変化を測定する手法である。市販装置では加熱炉の中に精密な天秤が組み込まれていて、各温度に対する質量が測定される。

TGの構造、駆動コイルにより質量を検出している(引用:日立ハイテク

例えば、シュウ酸カルシウムを室温から1000度まで加熱すると、下記の反応で質量が減少する

  • CaC2O4・H2O → CaC2O4 + H2O ↑
  • CaC2O4 → CaCO3 + CO ↑
  • CaCO3 → CaO + CO2

これをTGで実測すると下の図のようになる。

シュウ酸カルシウムのTG曲線、図では脱離した化学種が明示されているが、このような情報は、発生したガスを分析することで判明できる。

このように基本的には物質の蒸発や昇華する温度帯を調べることができる。また、一定の温度で加熱することで蒸発量の測定や、材料同士のTG曲線の比較により不純物の有無を構造解析を行わずに調べることができる。多くの機器では密閉性が高い加熱炉の構造になっており、空気だけでなく不活性雰囲気ガスを流すことで不活性雰囲気下で測定することが可能である。また、加熱により発生したガスをFT-IRやガスクロ、質量分析器で分析できるような装置も市販されている。

示差熱分析

DTAは、測定したいサンプルと標準サンプルを加熱炉に入れ温度を変化させ二つのサンプルの温度の差を測定する手法である。サンプルに何も起こらなければ、測定サンプルと標準サンプルは同じ温度変化を示すが、変化が起きると示す温度に差が生まれる。これにより発熱や吸熱を伴う相変化や酸化、ガラス転移、結晶化する温度を観測できる。標準サンプルは測定する温度帯で何も変化しない物質である必要があり、例えば酸化アルミニウムが使われる。

先ほどの熱試料とこの示差熱を同時に測定する手法をTG-DTAと呼び、それを行うことができる装置も広く市販されている。TGとDTA曲線の変化パターンによりなにが起きているかを推測することができる。

TGとDTA曲線による現象の理解、例えば、TGで質量の減少が見えDTAで下のピークが見えた場合は、熱分解や脱水、昇華・蒸発の可能性がある。(引用:カネカリサーチ

示差走査熱量測定

DSCは、DTAと同じで標準サンプルとの温度の差を測定する手法である。違いは温度の測定方法であり、DTAは直接サンプルの温度を測定していたが、DSCではサンプルは熱抵抗体の上に置かれ、温度も熱抵抗体の温度を測定している。そのためサンプルと標準物質の温度差は単位時間当りの熱量になる。そのためピークの面積を計算するとその変化に使われた熱量がわかり、ほかの実験結果と比較することができる。

DSCの構造(引用:日立ハイテク

インジウムのDSC曲線、156度のピークは融点であり、サンプル量とピーク面積により-28.42J/gと計測されている。

TG-DTA同様にTG-DSCと呼ばれる二つの熱分析を同時に行う装置も市販されている。また、炉内を加圧できるDSCも市販化されていて、反応暴走時の検証や酸化安定性の評価などを行うことができる。

これらTGA、DTA、DSCの分析は、液体や固体のサンプルを小さな容器に入れて測定する。容器の素材は、アルミニウムからアルミナ、ステンレスなど様々なあり測定試料の腐食性と測定温度帯によって決定する。また密閉できる容器もあり気体への相変化を伴う測定や自己反応性のサンプルの測定も可能である。

熱機械分析

熱機械分析では、試料を押しつぶしたり引っ張りながら温度を変化させ、その機械的変化を測定する手法である。例えばゴムは温度によって弾性が異なるが、この分析ではそれを数値を用いて連続的に測定できる。

ポリクロロプレンゴムのTMA曲線

荷重をかけてサンプルをセットし温度を変化させる。サンプルに変化があると荷重をかけているプローブが動くのでその動いた距離を測定する。様々なプローブがあり用途に応じたものを使う。

TMAの構造

プローブのバリエーション

このように熱分析は、原理は単純だが様々な様々な用途に使える分析である。一つの測定でも温度条件を変えれば結果は変わるため、結果を深く考察する必要がある分析方法である。

関連書籍

[amazonjs asin=”B06Y53MTFW” locale=”JP” title=”熱分析 第4版 (KS化学専門書)”] [amazonjs asin=”4621084445″ locale=”JP” title=”プラスチック分析 入門”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. フラストレイティド・ルイスペア Frustrated Lewis…
  2. 秘密保持契約(NDA)
  3. 振動円二色性スペクトル Vibrational Circular…
  4. リピンスキーの「ルール・オブ・ファイブ」 Lipinski…
  5. 水晶振動子マイクロバランス(QCM)とは~表面分析・生化学研究の…
  6. 生物学的等価体 Bioisostere
  7. カール・フィッシャー滴定~滴定による含水率測定~
  8. 界面活性剤 / surface-active agent, su…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ソープ・チーグラー反応 Thorpe-Ziegler Reaction
  2. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎
  3. メルドラム酸 Meldrum’s Acid
  4. 第54回国際化学オリンピックが開催、アジア勢が金メダルを独占
  5. トリフルオロメタンスルホン酸ベンゾイル:Benzoyl Trifluoromethanesulfonate
  6. 博士課程の夢:また私はなぜ心配するのを止めて進学を選んだか
  7. 特定の刺激でタンパク質放出速度を制御できるスマート超分子ヒドロゲルの開発
  8. モザイクワクチン HIVから人類を守る救世主となるか
  9. カーボンナノベルト合成初成功の舞台裏 (3) 完結編
  10. 化学五輪、「金」の高3連続出場 7月に東京開催

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年2月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728  

注目情報

最新記事

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

第18回日本化学連合シンポジウム「社会実装を実現する化学人材創出における新たな視点」

日本化学連合ではシンポジウムを毎年2回開催しています。そのうち2025年3月4日開催のシンポジウムで…

理研の一般公開に参加してみた

bergです。去る2024年11月16日(土)、横浜市鶴見区にある、理化学研究所横浜キャンパスの一般…

ツルツルアミノ酸にオレフィンを!脂肪族アミノ酸の脱水素化反応

脂肪族アミノ酸側鎖の脱水素化反応が報告された。本反応で得られるデヒドロアミノ酸は多様な非標準アミノ酸…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー