企業の研究員や研究室のスタッフになると、必要な機器や物品を自ら購入する機会が多々ある。その際に知っておくと便利な取引・ファイナンス用語をまとめた。
基礎取引編
個人が一般的なお店で物を購入する場合には、現金やクレジットカード、電子マネーで支払い、購入したものを持ち帰るだろう。しかし、大学で企業で必要な物品を購入する場合には、現金で購入することはほぼなく、購入手続きを踏んで発注し、後日業者が納入してくるのが普通である。その過程で下記のような用語が使われる。
見積書(Quotation):物を購入する際には価格が重要である。その価格を知るためにサプライヤーに作成を依頼する書類である。一般的に、見積書には商品の詳細、価格、納期、支払い条件、荷造運賃、納入場所、有効期限、連絡先が書かれている。
- 有効期限:見積書には有効期限があり、その期日までに注文すればその価格を保証できるという意味である。通常は、数か月くらいあるが、限定商品などはこの期限が短く設定される。
- 荷造運賃:荷造りや配送料は、価格に含まれているか否かを示されている。海外から輸入する場合は、少し複雑になる(後に詳述する)。
- 支払い条件:いつどのような方法で代金を支払えばいいかということで、支払い方法は銀行振込が一般的である。
購入する側にとってみれば見積書の作成依頼は物品を購入する最初のステップであり、高額な買い物の場合、複数の会社から見積書をもらって比較することもある。売る側からすれば、見積書の作成依頼はカスタマーからの購入の意思表示であり、商談が進んでいることのヒントである。一方で、見積書で他社と比較されるので見積書の作成は営業部門の腕の見せどころである。
化学品の取引の場合には数量によって価格が大きく変わることが特徴である。その理由の一つは、数量が多くなると効率がより良い運送方法がとれるからである。
支払い条件:いつ代金を支払うかは、下記のような独特言い回しで定義される。
- 月末締翌月末払:月末までに請求された代金を次の月の末に払う
- 月末締翌々月末払:月末までに請求された代金を次の次の月の末に払う
- 月末締め翌月末起算90日期日手形支払:約束手形を購入側が発行し90日後にそれを現金と交換する。約束手形は一定の期日に一定の金額を支払うことを約束する有価証券のことで、支払期日に支払う現金がないと手形不渡りとなり、会社の信用が落ち、倒産に陥る場合もある。
基本的に、会社や大学のルールに合った支払い条件でなければ物品の代金を支払うことはできないので、新規の業者を使う場合にはチェックが必要である。売る側としてみれば、早く代金を回収できた方がよいので、1を選択するカスタマーは喜ばれる。しかし、カスタマー次第で2や3の場合もある。
海外とのやり取りでは、NetXX(例えば30)といったような表記をされる。これは、商品が届いてから30日以内に支払いをするという意味である。
注文書(Purchase Order):物品を購入する側が購入する意思を示す書類である。見積書同様、どの商品をどの価格で購入するかを明記している。不正を防ぐため注文書は、購買部といった別の部門が作成するかマネジメントの承認が必要なことが多い。高額な物品ほど重要な注文書だが、少額の場合は手間を省くために簡略化している場合もある。多くの大学の場合、試薬などの50万円以下の物品購入関しては教員が発注でき、それ以上の場合には事務部門が注文書を作成し発注する。
速く納品できるように注文書の提出前に手配をしてくれる業者もいるが、後にトラブルになることもあるので、既定の手順を踏むことは重要である。
検収:言葉の意味は、送り届けられた品を、数量・種類などを点検して受け取ることである。試薬や器具の場合には、業者が物品を持ってきたときに納品=検収となる。しかし、分析機器を購入した場合には、納品されても機械を動かしてみないと使えるかどうかわからない。そのため、納品後テストを行ってから検収を行い請求書を発行してもらうという流れになる。法律的には、検収をすると代金を支払う義務が発生し、不具合を理由に返品することはできなくなる。また代金を支払わないと損害賠償を求められる。大学の場合、検収所に業者が立ち寄って、事務方が納品書に記載されている物品と実物が正しいことを確認して検収となる。
輸入編
物品を海外から購入する場合、輸送の取り扱いにひと手間かかる。関税の支払いと荷物の責任によって
- DAT(ターミナル持込渡し)/Delivery at Terminal
- DAP(仕向地持込渡し)/Delivery at Place
- DDP(関税込み持込渡し)/Delivery Duty Paid
と貿易取引の規則で規定されている。1と2は、物品の業者=輸出者の責任が目的地の港や空港に到着した時点までなので、関税の支払いから国内の運送方法までを購入者=輸入者が行わなければいけない。多くの場合、港に着いた時点で通関をアレンジしている会社から電話がかかってきてどうするかを聞かれる。3の場合には、FedexやDHLなどの国際貨物が荷物を届けてくれる場合が多いが、通関を通す責任は輸入者にあるので、特化物や毒劇といった試薬を輸入する場合には、輸入側による書類の提出が必要になる。
会計編
企業では年間で予算が決まっているため、予算管理は重要である。年始になると「今年のOPEXはXXX円でCAPEXはXXX円だから出張は控えるが、新しい分析機器の購入を検討しよう。」などと話すことがある。
OPEX:Operating Expenseのことで業務費や運営費などをしめす。研究開発では、試薬、器具、出張費などはOPEXから捻出される。
CAPEX:Capital expenditureのことで対価として資本とみなされる物品・財を得ることや、それらの資産価値を維持するための支出の総称で、設備投資に近い意味である。30万円以上の機器は減価償却資産となり、耐用年数に応じて費用を分割して申告し税金を払うルールになっている。
研究する立場で見れば、OPEXが残っているからほしい機器を買ってしまえばいいじゃないかと思うことがあるが、たくさん設備を購入すると翌年以降に引きずるため、バランスのとれた予算配分をマネジメントが考えていると理解している。
関連書籍
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- 京都大学における発注・検収: 京都大学での業者への購買ルール、他の大学同様のルールを制定し公開している
- 国立大学法人会計の仕組み:国立大学の会計システムの概要
- 小学生でもわかるとうれしい減価償却費入門:減価償却の仕組み
- 耐用年数表:耐用年数の一覧表。分析機器は一律5年である