固体NMR(Solid State NMR)とは、核磁気共鳴 (NMR) 分光法の一種で固体そのものを測定する方法である。
測定原理と装置
詳細な原理は割愛するが、基本的な原理は溶液のNMRと同じである。マグネットなどの基本的な装置も同じであるが、サンプル管や測定条件などは異なる。
- サンプル管:溶液の場合細いガラス管を使うが、固体NMRでは専用のサンプル管を使う。NMR内部で管の羽に風を当てて高速で回転させるためローターはない。管の太さは1 mmから10 mmまであり、溶液同様にプローブ指定の太さの管を使う。サンプルは、菅のキャップ兼羽を空けてサンプルを密に詰めて測定する。特殊なサンプル管を使うとゲル状のサンプルを測定することができる。
- 回転数:溶液では平均化される異方性相互作用が固体では平均化されずスペクトルピークの線幅を広げてしまうのでシャープなピークを得るために固体サンプルは高速かつ傾けて回転させる。例えば溶液の場合、回転数は15 Hzが一般的だが、固体の場合には、10000 Hzほどに高速で54°44’(マジック角)に傾いて回転させる。
- 核種:測定できる各種は溶液と同じである。しかし、シャープなピークを得るために独特のパルスシーケンスを使って測定することが多い。例えば、DD(Dipolar Decoupling)とCP(Cross Polarization)という方法があり、DDではシグナルの積分比から各成分の比率を算出することが可能だが後述のCP法と比べ感度が低く、長時間の測定が必要である。一方のCPは1H, 19F などの磁化を13C等の低感度核スピンに移動(cross polarization)させ、感度上昇を高める手法で、結晶性が高く1Hまたは19Fが隣接しているサンプル成分の場合は高感度で測定できる。しかし、結晶性が低く1Hが隣接していないサンプルの成分の場合は感度が下がるため、各成分の積分比の定量性は議論できない。ただし、最近の研究では、multiCPという手法(CPを繰り返して行う手法)により定量性を持たせた手法が、Schmidt-Rohrにより報告されている。このような違いがあるため、DDとCPの両方を測定してデータの議論を行うことが多い。
応用例
- 多孔質物質の構造解析:固体NMRでは、溶媒に溶けない多孔質のサンプルも測定できるため、固体の構造解析に役立つ。例えば、新しい構造を持つゼオライトの合成に成功!で取り上げられた論文では、29Si DD/MAS を測定し、計算による予測と比較することで構造を推定している。
- 炭素膜の評価:Diamond Like Carbon (DLC)は、非晶質のカーボン硬質膜の事を指し、非常に硬く耐摩耗性に優れていることから盛んに研究されている。DLCの評価ではsp3とsp2の割合が重要であるが、他の分析方法ではピークの区別が難しい。しかし固体NMRでは、55 ppm と136 ppmと十分に離れてピークが検出されるため、先ほどのDD法では定量することができる。DLCは薄膜のため、製膜したサンプルを粉末に砕いてサンプル管に入れることで測定できる。
この他にも、固体に吸着した分子の観測や膜タンパク質の解析、ゴムの物性評価などにも応用できる。
関連書籍
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- 固体核磁気共鳴: wikipedia
- 固体NMRスペクトルデータベース:産総研の固体のNMRデータベース
- 核磁気共鳴装置(固体NMR):株式会社UBE科学分析センターの装置、多くの分析会社で固体NMRの分析依頼を受け付けている。
- 共用装置のご案内:NMR共用プラットフォーム内のNMR紹介。高性能な固体NMRが日本各地で稼働している。プラットフォームに申請し条件が合えば、使用することができる。