[スポンサーリンク]

chemglossary

表現型スクリーニング Phenotypic Screening

[スポンサーリンク]

表現型スクリーニング(Phenotypic Screening)とは、特定の生物現象に影響を与える化合物探索法の一種である。特に細胞動物モデル全体での表現型変化を観察することで、薬効評価する手法を指す。

実のところ昔ながらの評価法でもあるが、下記に示す諸々の背景事情を理由に、表現型スクリーニングは現代改めて注目を集めるようになっている。

新規作用機序を示す薬物の同定・創薬的ブレイクスルーの必要性

現代的創薬では、単離・生成された医薬標的(タンパク質など)と薬物の結合強度を構造最適化によって強めていくアプローチ、すなわち標的ベースのスクリーニング(Target-based Screening)が主流となっている。副作用や毒性の発現率を下げたり、薬理応答を明確化できるなど、開発現場視点からの利点が多いためである。

しかしながら昨今の医薬創出率の低下を受け、この評価法は新たな医薬創製に直結しにくいのでは?ブレイクスルーとなる発見は出にくいのでは?という疑問が呈されつつもある。

一方で、新規作用機序を有する医薬品の多くは表現型スクリーニングによって見出されている。実際に過去20年のfirst-in-class医薬は、表現型スクリーニングによって見いだされているとの統計がある[1]。

システム生物学・ネットワーク薬理学の発展/多重薬理の追究機運

生物機能は個々の遺伝子・タンパク質・シグナル経路が複雑に絡み合うことで発現されている。すなわちそもそも医薬標的はisolateされた状態で存在していない。また現実には、認可済薬物であっても、複数のターゲットに並行的作用しているものは多くある(多重薬理)。

また、ハイスループットスクリーニングは化学平衡下の標的相互作用を原理的基盤とするが、多くの医薬はnon-equilibrium kineticsを示す事実も知られている。

これを受けて、複数箇所の生体システムに作用しうる薬物を意図的に探索する考え方が注目を集めつつある。このような薬物探索を行うには、標的ベーススクリーニングは不向きである。

オミクス研究の進歩

疾病細胞と正常細胞の間の構成成分の差異を見るオミクス研究が、質量分析技術の革新などを経て、近年大幅な発展を遂げている。

このため従来は解析困難とされてきた、化合物投与がもたらす表現型変化の追跡および原因帰属が、以前に比べて効率的に進められるようになっている。

幹細胞作成技術の進歩

現在はiPS細胞を初めとする幹細胞製造技術が発展し、好みの細胞を自在に準備できる可能性が高まっている。このため従来はコスト・時間的に難しいとされてきた、疾病細胞をアッセイ対象とするスクリーニングが現実的手段になりつつある。

関連動画

関連文献

  1. ”How were new medicines discovered ?” Swinney, D. C.; Anthony, J. Nat. Rev. Drug Discov. 2011, 10, 507. doi:10.1038/nrd3480
  2. “Phenotypic screening in cancer drug discovery ― past, present and future “ Moffat, J. G.; Rudolph, J.; Bailey, D. Nat. Rev. Drug Discov. 2014, 13, 588.  doi:10.1038/nrd4366
  3. “Developing predictive assays: The phenotypic screening “rule of 3”.” Vincent, F.;  Loria, P.; Pregel, M.; Stanton, R.; Kitching, L.; Nocka, K.; Doyonnas, R.; Steppan, C.; Gilbert, A.; Schroeter, T.;  Peakman, M.-C.  Sci. Trans. Med. 2015, 7, 293ps215. DOI:10.1126/scitranslmed.aab1201
  4. “The phenotypic screening pendulum swings.”. Mullard, A. Nat. Rev. Drug Discov. 2015, 14, 807. doi:10.1038/nrd4783
  5. “Identifying compound efficacy targets in phenotypic drug discovery.” Schirle, M.; Jenkins, J. L. Drug Discov. Today 2016, 21, 82. doi: 10.1016/j.drudis.2015.08.001
  6. “Opportunities and challenges in phenotypic drug discovery: an industry perspective” Moffat, J. G.; Vincent, F.; Lee, J. A.; Prunotto, M. Nat. Rev. Drug Discov. 2017, 16, 531. doi:10.1038/nrd.2017.111

関連書籍

[amazonjs asin=”B073XQ5ZB7″ locale=”JP” title=”Drug Repositioning: Approaches and Applications for Neurotherapeutics (Frontiers in Neurotherapeutics Series)”][amazonjs asin=”0470878274″ locale=”JP” title=”Drug Repositioning: Bringing New Life to Shelved Assets and Existing Drugs”][amazonjs asin=”B01B6Q7XP6″ locale=”JP” title=”Small Molecule Medicinal Chemistry: Strategies and Technologies”][amazonjs asin=”1603275444″ locale=”JP” title=”Cell-Based Assays for High-Throughput Screening (Methods in Molecular Biology)”]

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. NMR管
  2. 生物学的等価体 Bioisostere
  3. クリックケミストリー / Click chemistry
  4. 活性ベースタンパク質プロファイリング Activity-Base…
  5. 二光子吸収 two photon absorption
  6. 導電性ゲル Conducting Gels: 流れない流体に電気…
  7. 色素増感型太陽電池 / Dye-sensitized Solar…
  8. Undruggable Target と PROTAC

注目情報

ピックアップ記事

  1. アミノ酸「ヒスチジン」が脳梗塞に有効――愛媛大が解明
  2. 池田 菊苗 Kikunae Ikeda
  3. 科学は夢!ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞2015
  4. 還元的にアルケンを炭素官能基で修飾する
  5. そこのB2N3、不対電子いらない?
  6. ニュースタッフ追加
  7. 化学構造式描画のスタンダードを学ぼう!【応用編】
  8. フローシステムでペプチド合成を超高速化・自動化
  9. 八島栄次 Eiji Yashima
  10. アーウィン・ローズ Irwin A. Rose

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

次世代の二次元物質 “遷移金属ダイカルコゲナイド”

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー