生物の機能主体であるタンパク質では、決まった構造モチーフが種を超越して高度に保存されている。生物活性天然物は必然として、タンパク質と結合する、生体関連性の高い構造的特徴を、進化選択された形で備えている。
Waldmannらはこの洞察に基づき、天然物から生体関連性の高い分子骨格要素を抽出し、それを反映させた化合物ライブラリを設計することで、実効性の高い生物活性化合物を与えるケミカルスペースの開拓が促進されるとの考え方を提唱した。これがすなわち、生物指向型合成(Biology-Oriented Synthesis, BIOS)である。
これまで医薬応用を見据えて検討されてきた人工骨格と比較すると、天然物は
- 剛直・縮環骨格を持つ
- 脂溶性が低い
- 酸素官能基は多く、窒素官能基は少ない
- 立体中心が多い
- sp3炭素が多い
という特徴を持ちつつ、高い構造多様性を有する。これらはいずれも既存の化学反応では効率的供給が難しい構造特性の典型である。ゆえに天然物骨格を基盤とするリード探索は、既存法では到達できなかった未踏ケミカルスペースを目指すことに繋がると考えられる。
天然物が生体関連性を担保しつつも多様な機能を発現している根源を、母骨格パタンは比較的少数ながら、実質的な多様性は官能基パタンが担っていると捉える視点も、BIOSの教えるところである。
関連文献
- “Biology-Oriented Synthesis” Wetzel, S.; Bon, R. S.; Kumar, K.; Waldmann, H. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 10800. DOI: 10.1002/anie.201007004
- “Biology-Oriented Synthesis: Harnessing the Power of Evolution” van Hattum, H.; Waldmann, H. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 1185. DOI: 10.1021/ja505861d