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光薬理学 Photopharmacology

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薬剤に光スイッチ構造を導入することで、その時空間的効果を光照射によって制御し、副作用や毒性の少ない薬剤開発を目指す学問領域を光薬理学(photopharmacology)とよぶ[1-3]。 (画像引用:Wooley Lab, Szymanski Lab

薬物療法は副作用・毒性および耐性出現などの問題を抱えるが、これは薬物作用の選択性に乏しいこと、薬物活性を時空間制御できないことによって引き起こされている。

薬物構造を光照射で変形させ、その活性をON/OFFさせることが出来れば、時空間制御のもとに異なる生物活性をもたらすことができる。これにより高精度の治療、全身毒性の低下、薬物抵抗性の減弱などが期待できる。 また、低分子化合物を使うため、オプトジェネティクス研究を進める生命化学ツール[4]としても有望である。

論文[2]より引用

光薬理学は未だ基礎研究のステージにある。

近い将来顕在化するだろう発展を阻むボトルネックは、生体環境使用に適した光スイッチ骨格の多様性欠如にある。具体的には下記のような分子構造の開発が、基礎研究の立場からも求められている。

  • 三次元的な広がり(sp3豊富もしくは湾曲sp2構造)を有する光スイッチ骨格
  • 長波長(可視光~近赤外光)で駆動する光スイッチ骨格[5]

現在、光応答性薬物に組み込まれる分子構造は、アゾベンゼンやジアリールエテンなど、合成的に誘導体合成技術がよく確立されているものが用いられる。しかしながらこういった分子は概ね平面性が高く、溶解度や標的相補性に難がある。また駆動に短波長光(UV~可視光)が必要だったり、可逆性やbistable状態の安定性にもしばしば問題を抱える。

近年では中分子創薬の観点から環状ペプチド医薬・核酸医薬が注目を集めているが、これにアゾベンゼンを組み込む形で光応答性薬物へと導いた研究例も報告されつつある[6,7]。

関連文献

  1. “Photopharmacology: Beyond Proof of Principle” Velema, W. A.; Szymanski, W.; Feringa, B. L. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 2178. DOI: 10.1021/ja413063e
  2. “Emerging Targets in Photopharmacology” Lerch, M. M.; Hansen, M. J.; van Dam, C. M.; Szymanski, W.; Feringa, B. L. Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 10978. DOI:10.1002/anie.201601931
  3. “A Roadmap to Success in Photopharmacology” Broichhagen, J.; Frank, J. A.; Trauner, D.  Acc. Chem. Res. 2015, 48, 1947. DOI: 10.1021/acs.accounts.5b00129
  4. “Optochemical Genetics” Fehrentz, T.; Schonberger, M.; Trauner, D. Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 12156. DOI: 10.1002/anie.201103236
  5. “Visible-Light-Activated Molecular Switches” Bléger, D.; Hecht, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 11338. DOI: 10.1002/anie.201500628
  6. “Recent developments in reversible photoregulation of oligonucleotide structure and function” Lubbe, A. L.;  Szymanski, W.; Feringa, B. L. Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 1052. doi:10.1039/C6CS00461J
  7. (a)  “Discovery of light-responsive ligands through screening of light-responsive genetically-encoded library“ Jafari, M. R.; Deng, L.; Ng, S.; Matochko, W.; Tjhung, K.; Zeberof, A.; Elias, A.; Klassen, J. S.; Derda, R. ACS Chem. Biol. 2014, 9, 443. DOI: 10.1021/cb4006722 (b) ”Allene Functionalized Azobenzene Linker Enables Rapid and Light-Responsive Peptide Macrocyclization” Jafari, M. R.; Lakusta, J.;  Lundgren, R. J.; Derda, R. Bioconjugate Chem. 2016, 27, 509. DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.6b00026

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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