材料適合性(Material compatibility)とは、取り扱う素材に対して温度や取り扱う液体、気体からの影響を受け、問題があるかないかを示す用語である。
例えば、ガラスの容器に有機溶媒や酸を入れても何も起きないが、塩基を入れるとガラスが溶けてしまう。これはつまり、ガラスの塩基への材料適合性は悪いということになる。
材料適合性は、化学産業ではとても重要であるだけでなく身の回りの物にも考慮されて製品が作られている。
材料が変化する要因
ガラスが溶けるのは化学反応が起きるからで、化学反応性は材料適合性の一つの因子である。樹脂の場合、反応は起きなくても膨潤したり流体が透過したりする。このよう物理的変化も材料適合性の因子である。また、この物理的変化は、液体の種類だけでなく温度などによっても影響を受ける。
実験室での実例
例えば、ロータリーエバポレーターの接続パーツには、Oリングが使われている。通常はバイトン素材のが使われているが、バイトンはエーテル系の溶媒に対して膨潤しやすいので、冷却塔のチラーの温度が高くポンプ手前のトラップで溶媒を回収している場合には、耐食性に強いパーフロのOリングを使用したほうがリークの可能性が低い。Oリングは、金属やガラス同士を漏れなく接続するために多用されている真空部品では重要な材料である。
ニトリルやラテックス製の手袋は密着性が高く使いやすいが、多くの有機溶媒に対して耐久性がないため推奨されていない。そのため、溶媒が多く手にかかる作業を行う場合にはポリエチレンの手袋の方が望ましい。もちろんポリエチレンの手袋は滑りやすいという短所もある。
材料適合性が原因での事故例
有名な例は、チャレンジャー号爆発事故である。これは1986年1月28日、アメリカ合衆国のスペースシャトルチャレンジャー号が射ち上げから73秒後に分解し7名の乗組員が死亡した事故で、Oリングが低温で硬化して高圧の燃料が漏れだし機体が分解した。Oリングの製造メーカーは、もしリングの温度が12℃以下になった場合、気密性を正常に保つだけの柔軟性を有するかを判断するのに十分なデータを持っていなかった。特に打ち上げの当日はとても寒く、気温が氷点下になっていたにもかかわらず打ち上げを強行したため、Oリングは破断した。この事故を受けてNASAでは、Oリングの周りにヒーターを取り付け、適合温度以下にならないようにした。
Oリングの問題は、自動車でもたびたび起きていてリコールによって自動車会社は改修を行っている。原因が上記のように明らかな場合は少なく、長年使ったことによりエンジンオイルや燃料への耐久性が予想より低いことが判明してリコールを行うことが多い。
事故から学ぶ教訓
化学実験室では、上記のような深刻な事故が材料不適合によって起きる可能性は少ないが、空気と反応するような化学物質を使用している場合、材料不適合により材料が破断し空気が流入する可能性があり、内部が真空状態の場合、化学物質が急に空気と反応し、ガラス器具の破裂や火災が起きることはありうる。そのため、Oリングやホースなど化学物質が接触する材料すべてに関して下記の点に注意すべきである。
- 真空ラインの真空度は毎回チェックし真空度が悪い場合には、リーク個所を探す。
- Oリングやシール材は、正しい型番のものを使用する。
- 消耗パーツは、外見に異常があれば即交換し、異常がなくても突然の破断に備えて適宜交換する。
- 材料の耐薬品性と耐熱性をチェックし適合する材料を使う。
- 冷媒である液体窒素の取り扱いに注意する。多くのポリマーは、低温に弱い。そのため液体窒素がかかると脆くなる。
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