同じ反応容器内で複数の変換を進行させる合成法をワンポット合成(one-pot synthesis)と呼ぶ。
このワンポット合成を効率良く使い、なるべく多くの化学変換を単一容器で行うような合成経路を組み上げると、反応スキーム上には表れない精製工程、廃棄物、所用時間などの極小化が達成される。これは化学プロセスの実用性向上に重要な寄与をする。
このような考え方を合成化学のポットエコノミー(pot economy)と呼ぶ。東北大学理学部の林雄二郎によって提唱された[1] 。
ワンポット合成を検討すべき局面
- 中間体が不安定
- 中間体が悪臭を持ち、有害、有毒
- 中間体が平衡混合物である
- 原料と中間体の間に平衡がある
- 副生成物が臨む中間体か最終目的物に変換可能である
- 後続の反応に同じ試薬を活用できる
ワンポット反応の制限
- ワンポット合成に使われる反応は高収率でなるべく副生成物を生じないものが良い(後続の反応に干渉するため)
- 留去しにくい高沸点溶媒は、後続反応に不適な場合がある(除去の際の高温が中間体を壊してしまうケースも)
- 減圧留去できない試薬は、後続の反応条件に適合したものを使う必要がある
ポットエコノミーの体現例
溶媒留去・交換なしで全ての反応をワンポットで実施することで、オセルタミビル(タミフル)を総収率36%で合成できる[2]。高いポットエコノミーを実現した例。
参考文献
- “Pot economy and one-pot synthesis” Hayashi, Y. Chem. Sci. 2016, 7, 866. DOI: 10.1039/c5sc02913a
- “One-Pot Synthesis of (−)-Oseltamivir and Mechanistic Insights into the Organocatalyzed Michael Reaction” Mukaiyama, T.; Ishikawa, H.; Koshino, H.; Hayashi, Y. Chem. Eur. J. 2013, 19, 17789. DOI: 10.1002/chem.201302371