ある生物活性を示す化合物の構造展開の初期段階においては、活性を示す化合物数が少なく、活性の範囲も限られため、精密な構造活性相関を得ることは難しい。
そこで化合物群の物理化学パラメータ空間をできる限りくまなくカバーすべく、特定の置換基の組み合わせを使って構造展開するための指針が知られている。
その一つがトップリス ツリー(Topliss Tree)である[1,2]。各種パラメーターで表される物性値の生物活性に対する効果を定性的経験則に照らし合わせ,高活性な誘導体をデザインしていく方法論となっている。
あくまで定性的かつ経験則に過ぎないが、情報の少ないところから出発せざるを得ない現場の創薬化学者にとっては使いやすい指針である。
芳香環置換基についてのTopliss Tree
図に示すような手順でツリーの下方向に合成展開を進めていくと、効率よい探索が行えると言われている。ツリーの見方と背景となる洞察を以下に記す。
まずリード化合物が無置換フェニル基を持つという仮定から出発する。
次は4-クロロ置換体を作って活性を測定する。クロロ基の導入は比較的容易であり、また適度な疎水性の増大による活性の増大が見込めるためである。
4-クロロ体の活性が親化合物である無置換体に比して下がったか、変化しなかったか、上昇したかによって、次に合成すべき化合物を決定する。
たとえば活性が低下した場合には、やはり合成容易である4-メトキシ置換体を作って活性を比較する。
4-クロロ基導入によって活性が低下する原因としては、クロロ置換基の疎水性が大きすぎる、電子求引性が不利である、4位置換そのものが立体的に不利である、などの理由が考えられる。
4-メトキシ置換体の導入によって活性が向上すれば、電子供与性が有利であると判断し、次は4-ジメチルアミノ基を合成する。活性が同程度か下がる場合には4位置換自体が不利であると判断し、3-クロロ体を合成する。
他の部分もこういった洞察に類する根拠で組み立てられている。
脂肪族側鎖置換基についてのTopliss Tree
見方は芳香環の場合と同じ。メチル基で活性が出た際に、続いてイソプロピルへと変換する。その後は活性上下に応じてフローチャート下方向へと構造展開していく。
関連文献
- (a) “Utilization of operational schemes for analog synthesis in drug design” Topliss, J.G. J. Med. Chem. 1972, 15, 1006. DOI: 10.1021/jm00280a002 (b) Topliss. J. G.; Martin,Y. C. in “Drug Design”, Vol. V, E. J. Ariens, Ed., Academic Press, New York, 1975, 1-21. (c) Topliss, J. G. J. Med. Chem. 1977, 20, 463. DOI: 10.1021/jm00214a001 (d) PDF
- “QSAR パラメーターとその応用” 赤松美紀, 日本農薬学会誌 2013, 38, 195. DOI: 10.1584/jpestics.W13-07
関連書籍
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- Using experimental data to update the Topliss Tree
- 定量的構造活性相関(PDF, 京都大学OCW 講義資料)