両者ともに、一般的には吸収スペクトルを帰属する際に用いられる用語である。この帯域に吸収を持つ色素にはポルフィリン、フタロシアニン等がある。ポルフィリンがSoret帯で強い吸収を示す(Q帯の吸収は小さい)のに対し、フタロシアニンはQ帯で最も強い吸収を示す。
ソーレー帯
ソーレー帯、Soret band、Soret peakとも言う。可視光の400 nm付近の紫から青色領域のことを指す。発見者であるジャック・ルイス・ソーレー(Jacques-Louis Soret)[1]にちなんで命名された。
例として生体内酵素であるCytochrome P450は、種々の金属を含んだポルフィリン環を酵素内に有しており、通常の酵素では見られない長波長領域に吸収を示す。
Q帯
Q帯は、600 nmから900 nmの波長の光領域に対応する(電磁波と捉えると33から50 GHzの領域を指す)。フタロシアニンは、700 nm付近のQ帯に鋭い極大吸収を有する。金属を含むフタロシアニンでは一本の吸収帯を示すが、無金属体や、置換基の導入などにより対称性の下がったフタロシアニンのQ帯のピークは、軌道の縮退が解けるために分裂する(下記)。
自由電子モデルによる分子軌道
ポルフィリンやフタロシアニンのπ共役系は16員環で18電子を有している。分子軌道による解釈では、最低軌道以外を除く準位にはそれぞれ一次独立な二つの軌道が存在し、これらは縮退した組をなしている。これらの軌道にエネルギーの低い軌道から順に電子を入れていくと、HOMOはml =±4、LUMOはml =±5になる。
このモデルでHOMOからLUMOへの電子遷移を考えてみると、Δml = ±1とΔml = ±9という二通りが考えられる。エネルギー差を見ると同じように見えるが、電子間相互作用の違いにより、全角運動量の大きいΔml = ±9 の方がエネルギーが低い。このように二組の励起状態が得られる。ポルフィリン、フタロシアニンの可視・赤外領域に現れる吸収(Q帯)と紫外領域に現れる吸収(Soret帯)、はそれぞれΔml = ±9、Δml = ±1の励起状態に帰属される。
Δml は、角運動量に対する量子数。
Q帯という命名は、角運動量Δml = ±9の9、つまり日本語の”きゅう”に由来する。