一重項分裂singlet fissionとは、ひとつの励起一重項状態からスピン許容遷移によりふたつの励起三重項状態が出来る過程のことを言う。
singlet fissionの歴史
singlet fissionの概念が最初に提示されたのは1965年[1]のことであった。1968年にはテトラセンの蛍光の量子収率が低いことに対する説明として用いられ[2]、1969年にそれが正しいことが証明された[3]。その後singlet fissionの研究が続けられ、この概念に対する定義的なレビューが1973年に出版された。[4]
しかし、singlet fissionへの関心が高まり、論文数が増加するようになったのは、それまでとは異なる 種類の化合物においてもsinglet fissionが観測されるようになってからである。1980年にはカロテノイド[5]で、1989年にはポリマー[6]にてsinglet fissionが確認された。
singlet fissionの理論
singlet fissionは、下に示す式で表す事が出来る。
1(TT)は、隣接した三重項状態の分子ふたつを表しており、ふたつの分子あわせて一重項状態を取っており、”correlated triplet pair“と呼ばれる。
singlet fissionは可逆な現象であり、ふたつの三重校状態からS0、S1へと戻る仮定の事を”triplet–triplet annihilation”と呼ぶ。 1(TT)からS0+S1へと戻る時の速度定数をK–1、1(TT)からT1+T1へと進む時の速度定数をK2と表す。singlet fissionが起こり易さをε = k2/k-1として表す。
下図に示すような化合物において一重項分裂が確認されている。
singlet fissionの応用
singlet fissionは、太陽電池photovoltaicsへの応用研究が行われている。singlet fissionでは、ひとつの光子によってふたつの分子が励起三重項状態に なるため、従来の太陽電池よりも効率の良い太陽電池の素材を開発できる可能性がある。
参考文献
- Singh, S.; Jones, W. J.; Siebrand, W.; Stoicheff, B. P.; Schneider, W. G. J. Chem. Phys. 1965, 42, 330.
- Swenberg, C. E.; Stacy, W. T. Chem. Phys. Lett. 1968, 2, 327.
- Geacintov, N.; Pope, M.; Vogel, F. E., III. Phys. ReV. Lett. 1969, 22, 593./ Merrifield, R. E.; Avakian, P.; Groff, R. P. Chem. Phys. Lett. 1969, 3, 386.
- Swenberg, C. E.; Geacintov, N. E. Org. Mol. Photophysics 1973, 18, 489.
- Rademaker, H.; Hoff, A. J.; Van Grondelle, R.; Duysens, L. N. M. Biochim. Biophys. Acta, Bioenerg. 1980, 592, 240.
- Austin, R. H.; Baker, G. L.; Etemad, S.; Thompson, R. J. Chem. Phys. 1989, 90, 6642.