[スポンサーリンク]

chemglossary

全合成 total synthesis

[スポンサーリンク]

 全合成(Total synthesis)とは、最小単位の原料から天然生物活性物質(天然物)を人工的に化学合成することを意味します。

類語としてはPartial Synthesis(部分合成)Semi-synthesis(半合成)があり、前者はTotal Synthesisの一部だけ達成すること、後者は入手容易で最終物に近い構造の複雑天然物から誘導して最終物の合成を達成することです。また、以前に報告された全合成の中間体化合物を合成し、それ以上は今までの合成と同じ際は、Formal (Total) Synthesis [形式(全)合成]ともいいます。

ある著名な先生は、「Partial Sythesisという言葉は最近は全部作るのが当たり前だからつかっちゃいかん」と言っていました。また、ある先生は「炭素からつくるのが全合成だ」・・・。とらえ方は人それぞれのようです。

全合成は、人間の叡智による、自然界に対する挑戦とも言うべき研究です。医薬品などの複雑化合物を合成するための技術、精密有機合成化学の発展に多大な貢献を果たした、歴史的に意義深い研究領域でもあります。全合成の過程では、天然物の構造修正、新規有用反応の発見、微量天然物の人工的供給など、種々の学術的価値がもたらされます。人類がもちうる有機合成技術の粋を集め、合成困難な化合物にアプローチする・・・それは山登りに例えられるほど、困難なときもあります。

先人達の成果により有機合成技術は相当に発展し、現在では(効率うんぬんを言わなければ)世にあるほとんどの複雑天然物を合成することも不可能ではなくなりつつあります。それゆえ、『もはや見いだせる科学的概念は少ないのではないか?使う時間やお金に比して良いテーマとは言えないのではないか?』と、ひと昔前から「全合成の研究意義」に懐疑的意見が唱えられるようにもなってきています。「作っておしまい」だけでは社会的価値をアピールすることが難しくなってきている、というのも全合成研究における一つの側面です。

 

ケムステ内関連記事

関連文献

[1] “The Art and Science of Total Synthesis at the Dawn of the Twenty-First Century”

Nicolaou, K. C.; Vourloumis, D.; Winssinger, N.; Baran, P. S. Angew. Chem. Int. Ed. 2000, 39, 44. DOI: 10.1002/(SICI)1521-3773(20000103)39:1<44::AID-ANIE44>3.0.CO;2-L

A new millenium has begun—grounds enough to question the present state of the total synthesis of natural products. In this review we answer this question by tracing the evolution of this fine art and science from its birth to the present time. This retrospective on total synthesis should serve to demonstrate how far we have come, yet show that the science of total synthesis is still in its infancy.

[2] “Natural Product Synthesis Special Feature – Perspective”

Nicolaou, K. C.; Snyder, S. A. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 2004, 101, 11929. DOI: 10.1073/pnas.0403799101

For the past century, the total synthesis of natural products has served as the flagship of chemical synthesis and the principal driving force for discovering new chemical reactivity, evaluating physical organic theories, testing the power of existing synthetic methods, and enabling biology and medicine. This perspective article seeks to examine this time-honored and highly demanding art, distilling its essence in an effort to ascertain its power and future potential.

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759812776″ locale=”JP” title=”天然物の全合成―2000‐2008(日本)”][amazonjs asin=”B00DXJLDK6″ locale=”JP” title=”More Dead Ends and Detours: En Route to Successful Total Synthesis”][amazonjs asin=”3527292314″ locale=”JP” title=”Classics in Total Synthesis: Targets, Strategies, Methods”][amazonjs asin=”B00BY52W3S” locale=”JP” title=”Total Synthesis of Natural Products: At the Frontiers of Organic Chemistry”][amazonjs asin=”3527329579″ locale=”JP” title=”Classics in Total Synthesis III: New Targets, Strategies, Methods”]

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 固体NMR
  2. 光薬理学 Photopharmacology
  3. 血液―脳関門透過抗体 BBB-penetrating Antib…
  4. 光学分割 / optical resolution
  5. ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert…
  6. 輸出貿易管理令
  7. キレート効果 Chelate Effect
  8. 重水素 (Deuterium)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【ケムステSlackに訊いてみた⑤】再現性が取れなくなった!どうしてる?
  2. 加藤 昌子 Kato Masako
  3. 萩反射炉
  4. ニルスの不思議な受賞 Nils Gustaf Dalénについて
  5. ガラス器具の洗浄にも働き方改革を!
  6. 銅触媒と可視光が促進させる不斉四置換炭素構築型C-Nカップリング反応
  7. タンパクの骨格を改変する、新たなスプライシング機構の発見
  8. ナフサ、25年ぶり高値・4―6月国産価格
  9. 図に最適なフォントは何か?
  10. 癸巳の年、世紀の大発見

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

中村 真紀 Maki NAKAMURA

中村真紀(Maki NAKAMURA 産業技術総合研究所)は、日本の化学者である。産業技術総合研究所…

フッ素が実現する高効率なレアメタルフリー水電解酸素生成触媒

第638回のスポットライトリサーチは、東京工業大学(現 東京科学大学) 理学院化学系 (前田研究室)…

【四国化成ホールディングス】新卒採用情報(2026卒)

◆求める人財像:『使命感にあふれ、自ら考え挑戦する人財』私たちが社員に求めるのは、「独創力」…

マイクロ波に少しでもご興味のある方へ まるっとマイクロ波セミナー 〜マイクロ波技術の基本からできることまで〜

プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーとして注目されている、電子レンジでおなじみの”マイクロ…

世界の技術進歩を支える四国化成の「独創力」

「独創力」を体現する四国化成の研究開発四国化成の開発部隊は、長年蓄積してきた有機…

四国化成ってどんな会社?

私たち四国化成ホールディングス株式会社は、企業理念「独創力」を掲げ、「有機合成技術」…

アザボリンはニ度異性化するっ!

1,2-アザボリンの光異性化により、ホウ素・窒素原子を含むベンズバレンの合成が達成された。本異性化は…

マティアス・クリストマン Mathias Christmann

マティアス・クリストマン(Mathias Christmann, 1972年10…

ケムステイブニングミキサー2025に参加しよう!

化学の研究者が1年に一度、一斉に集まる日本化学会春季年会。第105回となる今年は、3月26日(水…

有機合成化学協会誌2025年1月号:完全キャップ化メッセンジャーRNA・COVID-19経口治療薬・発光機能分子・感圧化学センサー・キュバンScaffold Editing

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年1月号がオンライン公開されています。…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー