臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉へ行ってきました。
はじめに
昨年の初めに下呂温泉博物館に行って以来、温泉にはまっています。というわけで温泉巡りをしてきたので、ゆるく紹介していこうと思います。今回は、硫黄系の温泉を巡る旅ということで、群馬県草津温泉と新潟県月岡温泉へ行ってきました。本記事では草津温泉について紹介し、次回の記事で月岡温泉への冒険譚をつづろうと思います。

草津温泉の位置と今回の硫黄系温泉を巡る旅の目的地の位置的関係.
草津温泉の基本情報
群馬県北西部に位置する草津温泉は、自然に湧出する温泉としては日本最大の湧出量を誇る温泉地です。岐阜県の下呂温泉と兵庫県の有馬温泉と並ぶ日本三名泉に名を連ねています。草津温泉の温泉街の中心には、「湯畑 (ゆばたけ)」と呼ばれる草津温泉のシンボルともいうべき設備があります。湯畑は温泉の源泉を木の桶や地表に流して、湯の温度を調節したり、その沈殿物を集めるための設備です。湯畑で集められた沈殿物は、「湯の花」と呼ばれ、天然の入浴剤としてお土産に市販されています。また湯畑の源泉は、共同浴場や各温泉施設へと送られていきます。

草津温泉の温泉街の中心にある湯畑.
草津温泉には全部で6種類の源泉がありますが、それらすべてに 3 つの共通の特徴があります。1つ目は、硫黄成分すなわち硫化水素が含まれることです。なので湯畑周辺はときどき局所的に硫化水素のにおいがしっかりとします。高専のときの学生実験で、キップの装置から発生する硫化水素をつかった無機イオンの定性実験が思い出されました。ちなみに硫化水素は有毒で、日本ではその許容濃度は10 ppm と定められています。10 ppm を超えると人体に悪影響を与えます。においを感知できるのは、においに敏感な人で 0.01 ppm 程度、0.3 ppm 程度ならだれでも匂いを検知できる程度、そして 3ppm を超えると不快に感じるそうです(下の表も参照) 。不快であるとは感じなかったので、おそらく周辺の硫化水素濃度は3ppm 以下で許容濃度よりもはるかに低いとは思います1 。

参照: 【事故を防ぐ】硫化水素濃度の基準値は? 測定方法についても解説 (スリーアールソリューション)
2つ目の特徴は、熱いことです。源泉の温度は、50 °C 近いものがほとんどです。このように高温の源泉は、温泉として入るには熱すぎます。ただし、温度を下げるために水で薄めてしまったのでは温泉の成分も薄めてしまい望ましくありません。そこで、大きな板で湯をかき混ぜて冷ますのが伝統的な風習になっています。このように大きな板で湯を冷ます行為は「湯もみ」といい、湯畑前の「熱乃湯」でショーとして観ることができます。
草津温泉の 3 つ目の特徴は、高い水素イオン濃度です。すなわち強酸性です。湯畑に流れる源泉の pH は 2.1 程度の酸性です。草津温泉には湯畑以外にもいくつか源泉がありますが、どれも pH 2 付近の強酸性で、日本全国で見てもかなり強い酸性の温泉です。そのため殺菌力に優れており、皮膚の病気に効くとされています。酸性のピリピリに全身で痺れたいというマッドサイエンティストにはうってつけです。ただし逆に言うと肌への刺激は強いので、長風呂は危険です。
実際に入ってみた
今回は、共同浴場の白旗の湯と大滝乃湯および各種の足湯を回ってきました。
白旗の湯
白旗の湯は、湯畑のすぐ近くにある無料の共同浴場で、白旗源泉と呼ばれる源泉から引いてきており、共同浴場のすぐ近くに源泉が拝めます。その源泉の温度は 52 °C 程度で、お風呂として入るにはかなり熱いです。pH 2.1 程度で、草津温泉としては普通ですが、全国的に見れば強い酸性の源泉です。男湯には、2つの湯舟があり、一つは白濁していて、もう一つはやや透明に近い感じでした。こちらのネット記事によると、女湯にも2つの湯舟がありますが、それらはどちらも白濁しているそうです。これらはすべて同じ白旗源泉ですが、白濁しているものは、余分に樋(とい) を通過しており、空気に触れて硫化水素が酸化されてできる硫黄粒子が原因になっているそうです2。ちなみに、草津温泉には全部で6つの源泉があると書きましたが、しっかりと白濁しているのは白旗の湯だけだそうです。それだけ硫黄分が多い源泉ということになります。
温度に関しては、白濁している方が余分に外気に触れている分温度が若干低くなっています。さて男湯の透明な湯。まともには入っていられないくらい熱かったです。さらに強酸性のピリピリ感もあいまって、やせ我慢して 10 秒入るのが限界でした。強酸性の高温水溶液に入る人体実験型アトラクションとして、化学者的には楽しむことができましたが、心身が安らぐ温泉とは口が裂けてもいいがたいものでした苦笑。
白濁している方の湯舟も、多少温度が下がっているため浸かってはいられるものの、かなり熱く、5分も入っていられなかったような気がします。しかし、短時間でもしっかり体はあったまり、温泉の効果を得ることができました。温泉を入るときに「体の芯からあったまる」という表現が使われることがありますが、白旗の湯は「体の外から炙られる」感覚に近かったです。それくらい刺激的な温泉でした。

(左) 無料の共同浴場の白旗の湯 (右) 大滝乃湯の入り口
大滝乃湯
大滝乃湯は草津温泉の温泉街の中心から歩いて5分ほどのところにある日帰りの温泉施設です。入湯量は、大人1100 円、こども550円。大滝乃湯は、煮川源泉という源泉を引いています。煮川源泉の特徴は、高温で強酸性 (pH 2.1) でありながら若干柔らか目な湯であることです。硫化水素のにおいはそれほど強くありません。個人的には白旗の湯よりもピリピリ感が弱く、入りやすいと感じました。大滝乃湯では、合わせ湯という古くから存在する入浴法を楽しむことができます。合わせ湯とは、源泉を水で薄めることなく複数の浴槽に巡らせることで自然冷却で順々に冷まして適温にしています。一番ぬるいところから順に入り体を慣らしながら高温の浴槽へと移っていきます。体を慣らしながらとはいっても、やはり一番熱い浴槽には長時間入ることができませんでした。個人的には2番目に熱いところがちょうどよかったです。
ちなみに煮川源泉は、一般の宿には配当されておらず、この大滝乃湯か共同浴場「煮川の湯」のみで浴びることができます。
湯畑源泉
最後に紹介するのは湯畑源泉の温泉で、これは宿泊したホテル (下を参照) の浴場で楽しみました。湯畑源泉は、先に紹介した湯畑に沸き出ている温泉です。pH 2.1 程度の強い酸性で、硫化水素のにおいも微かにしました。あまりピリピリした感じはありませんでしたが、かなり熱かったのでやはり長風呂はできませんでした。
温泉分析表を見ると、硫化水素の含有量は 7.1 mg/kg (7.1 ppm 程度) だそうです。
その他の源泉
今回紹介した白旗源泉と煮川源泉のほかにも、万代鉱源泉、地蔵源泉、西の河原源泉と全6つの源泉があります。私は湯畑の足湯と地蔵源泉の足湯を少々楽しみました。しかし時間の関係と一日に湯巡りしすぎるとよくないということを考慮して、すべてを回りきることができませんでした。草津温泉は基本的に熱いので、足湯くらいの方が長時間ゆっくりと浸かるのには適しているのではないかと思ったり思わなかったり。

(左上) 地蔵源泉. 今回は足湯と顔湯だけ楽しみました. (右上) 顔湯. 蒸気を顔にあてる形で楽しむものです. (左下) 地蔵源泉. 白い沈殿物は湯の花. (右下) どこで撮影したか覚えていない草津温泉の湯もみのキャラクター. 場所が余ったので掲載.
総括
草津温泉は、湯畑や湯もみのショーなどがあり温泉街として賑わっている場所でした。温泉饅頭や温泉玉子を提供するお店も充実していて、楽しい温泉街です。なんといっても、共同浴場や足湯の数も多いので、湯めぐりそのものも楽しめます。しかし全体的に熱く、さらに酸性が強くピリピリ感じる泉質は、正直長風呂には適していませんでした苦笑。化学者的には人体実験をしているようで楽しかったです。長風呂には適していないとはいったものの、刺激的でくせになる温泉でした。今回、入ることができなかった源泉もあるので、また来たいですね。
アクセス/今回お世話になった宿
草津温泉は、群馬県の北西部に位置します。公共交通機関で行く場合、東京近辺から行く場合は上野駅から特急「草津·四万」で2時間半ほどかけて長野原草津口駅まで行き、そこからバスで20分ほどかけて向かいます。あるいは東京から上越新幹線で高崎へ向かいます。そして高崎から JR 上越線へ乗り換えて長野原草津駅へ向かいます。特急「草津·四万」は本数が少ないうえに、そのすべてが午前中に上野を出てしまうので、高崎を経由する方がスケジュールの融通は利きやすいです。
今回私がお世話になったのは、草津温泉326山の湯ホテルというところです。ホテル内にも朝食はついていますが、夜ご飯はありません。どっちかというとビジネスホテルのような宿です。草津温泉という温泉街は、共同浴場でゆめぐりしたり歩き廻って楽しい場所なので、ただ泊まることだけが目的ならば安く済んでよい宿だと思います。
次回予告
記事の冒頭に書いた通り、今回は2つの温泉地を巡りました。この記事では前半の酸性の硫黄泉の草津温泉についてお話ししましたが、次回は弱アルカリ性で、エメラルド色を呈する硫黄泉の新潟県月岡温泉への旅行記です。乞うご期待?
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参考文献
- 【事故を防ぐ】硫化水素濃度の基準値は? 測定方法についても解説 (スリーアールソリューション)
- 岐阜発!温泉博物館第13話 様々な温泉の色 (岐阜県温泉協会)