三井化学はこのほど、岩国大竹工場(山口県和木町)にあるポリエチレン製造装置が、国立科学博物館により、未来技術遺産「世界最初期の工業規模の低圧法ポリエチレン製造装置」(第00286号)に登録されたと発表した。 (引用:日刊ケミカルニュース10月5日)
実際に登録された装置は、1958~1962年製の重合器、原料ナフサフィードポンプ、ガスエンジン用パワーピストンで、「日本最初の石油コンビナートで、世界で最初期にチーグラー法による低圧法高密度ポリエチレン製造を企業化した装置であり、技術の歩みを示すものとして重要である」として今回登録されました。
チーグラー法とはZiegler-Natta触媒を使った高密度ポリエチレンの合成方法で、常圧で重合が進行するのが特徴です。1954年に三井化学工業の当時の社長、石田健氏が欧州視察の中でKarl Ziegler博士を訪問し、この合成方法に将来性を感じたそうです。翌年には120万ドル(4億3,200万円)もの契約金で特許実施権を購入し社内で工業化研究を始め、1956年には、月10トンの試験生産を始めました。その後三井化学では、ポリエチレンだけでなくこのZiegler触媒の用途を発展させて1962年には日本で初めてポリプロピレンを製造しました。
それぞれの装置には、解説のパネルが設置されていて、書かれている内容に興味があります。ただ、これらの装置があるのは三井化学 岩国大竹工場の敷地内で、登録上は公開とされているものの、自由に立ち入って見学することは難しそうです。そのため工場のイベントなどで見学の機会があればと思います。
また三井化学では、2012年に「クロード法によるアンモニア国産化史料」、2016年に「日本初の合成インジゴ関連資料」が未来技術遺産として登録されています。企業としていろいろな合理化が求められる中、このような貴重な遺産を長く保存されていることは、過去の歴史を大切にするという会社の姿勢が表れていると思います。重合器は他の遺産に比べて大きく、屋外にあるためメンテナンスが必要かと思いますが、今後も大切に保存を続けてほしいです。日本の教育の中で化学史について勉強する機会はほとんどありません。しかし、日本の研究者・技術者がすばらしい成果を出して世界の最前線を走っていたことを周知するために、このような遺産を通して化学史を多くの人に伝える必要があると思います。
未来技術遺産は、国立科学博物館の産業技術史資料情報センターが、わが国の科学技術の発展を示す貴重な科学技術史資料や、国民生活、経済、社会、文化の在り方に顕著な影響 を与えた科学技術史資料の保存と活用を図ることを目的に2008年から登録を行っている制度です。ケムステでたびたび紹介してきた化学遺産とは異なり様々な分野の装置や製品が登録されていて、昭和に開発された現代技術・製品を多く認定しています。家電の登録が多く、規格戦争で有名になったVHSとベータもそれぞれ登録されていて、化学分野においても化学品からプラント、分析装置まで様々なカテゴリーの遺産が登録されています。登録発表後には、国立科学博物館にて毎年登録パネル展が行われており、その年に登録された未来技術遺産について知ることができます。現代の家電は小型でモダンなデザインをしているため、未来技術遺産に登録された機器とは大きく異なります。一方化学品は、製造装置やパッケージは変わっても中身の形状は同じです(そのため展示品として地味なのですが)。種々の実物を見て、今の製品と同じところ、違うところをそれぞれ比べれば、未来技術遺産として登録された技術の今でも通用する偉大さと、さらなる発展の結果を知ることになり、製品を通して技術開発の現状を感じることができるのではないでしょうか。
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