化学における情報・AIの活用: 解析と合成を駆動する情報科学 (CSJカレントレビュー50)
日本化学会¥4,620(as of 11/21 14:55)Release date: 2024/06/15Amazon product information
化学における情報・AIの活用: 解析と合成を駆動する情報科学 (CSJカレントレビュー50)
概要
これまで化学は,解析と合成を両輪とし理論・実験を行き来しつつ発展し,さまざまな物質を提供してきた.しかし近年,解析と合成に加えて情報という三つの視点で駆動する手法が注目を集め,化学を大きく変えようとしている.この新しい手法の革新性は,化学の研究力,化学産業の生産力に大きな変革をもたらすものと期待される.解析・合成の両輪の融合,化学とプロセスとの連動に向けた最新の研究事例を,広い分野のAI利用化学研究者が紹介. (引用:化学同人)
対象者
情報科学を研究に取り入れたいと考える化学者。
目次
第Ⅰ部 基礎概念と研究現場
1章 フロントランナーに聞く(座談会)
奥野 恭史(京都大学大学院医学研究科),出村 雅彦(物質・材料研究機構)
船津 公人(奈良先端科学技術大学院大学),松原 誠二郎(京都大学大学院工学研究科)聞き手:栗原 和枝(東北大学)
2章
(1)History:データ駆動型化学の歴史 船津 公人(奈良先端科学技術大学院大学)
(2)Basic concept:データ駆動型化学を牽引する新しいコンセプ 吉田 亮(情報・システム研究機構)
3章
(1)創薬のための構造化DB 上村 みどり(帝人ファーマ株式会社)
(2)有機合成と情報 大嶋 孝志(九州大学大学院薬学研究院)
(3)精密構造解析と情報科学/データの構造化 杉本 邦久(近畿大学理工学部)
(4)マテリアルズインテグレーションシステム,Mint 出村 雅彦(物質・材料研究機構)
(5)化学・材料分野におけるデータ活用プラットフォーム 小椋 智(大阪大学大学院工学研究科)
第Ⅱ部 研究最前線
1章 研究室におけるAI自動有機合成とクラスターDB構想 松原 誠二郎(京都大学大学院工学研究科)
2章 無機機能薄膜合成 一杉 太郎(東京大学/東京工業大学)
3章 大規模系の記述子 ペトロリオミクス 田中 隆三(出光興産株式会社/石油エネルギー技術センター)
4章 データ活用型化学研究の基盤としての手法開発 瀧川 一学(京都大学国際高等教育院)
5章 分子シミュレーションへの応用:高速化と自動解析 泰岡 顕治・安田 一希(慶應義塾大学理工学部)
6章 創薬化学におけるAIのトレンド 小山 拓豊・奥野 恭史(京都大学大学院医学研究科)
7章 機械学習と自動合成装置による医薬品探索 石原 司(産業技術総合研究所)
8章 生体・超分子の構造解析とAI 中川 敦史(大阪大学蛋白質研究所)
9章 人工知能(AI)を用いる機能性有機分子の設計 緒明 佑哉(慶應義塾大学理工学部)
10章 AI支援の有機太陽電池 佐伯 昭紀(大阪大学大学院工学研究科)
11章 ハイスループット電池電解液探索システム 松田 翔一(物質・材料研究機構)
12章 AIによる新有機合成化学 佐藤 一彦(産業技術総合研究所)
13章 生産とAI化学プラントのAI IoTによる安全操業と人材育成 山下 善之(東京農工大学大学院工学研究院)
14章 物理モデル構築によるAIプラント異常制御 長谷部 伸治(京都大学国際高等教育院)
トピックス① 有機合成:逆合成解析,機械学習(アメリカのIBMの活動) 岸本 章宏(IBM東京基礎研究所)
トピックス② マテリアルインフォーマティクスの利用 庄司 哲也(トヨタ自動車株式会社)
トピックス③ ルールベース重合反応モデルによる高分子仮想ライブラリの構築と評価 大野 充(株式会社ダイセル)
トピックス④ 錬金術師は人工知能で極みのその先を目指す 柳原 直人(富士フイルム株式会社)
トピックス⑤ 旭化成の研究開発におけるDXの取組み-マテリアルズ・インフォマティクスの活用- 青木 拓実(旭化成株式会社)
トピックス⑥ 化学・情報科学の融合による新化学創成に向けて 阿尻雅文(東北大学材料科学高等研究所)
内容
第Ⅰ部は基礎概念も交え「現在」の情報科学と化学の関係についてまとめられています。
1章では4名のフロントランナーによる座談会という形式で、情報科学の発展や化学への活用の難しさ、今後の展望が語られています。AIが答えを出してくれてもその良し悪しを知らなければ真の活用にはつながらず、ドメイン知識の習得や共有が重要であると述べられていた点が特に印象深かったです。
続く2章はデータ駆動化学の歴史やマテリアル・インフォマティクスを題材に化学への情報科学の利用に関して基礎概念が述べられています。設計・合成・計測のサイクルやマテリアル・インフォマティクスの基本である「順問題・逆問題からなるワークフロー」についても紹介されています。初心者である私にはとてもありがたい章です。
3章ではデータベースに焦点が当てられています。データ駆動化学やマテリアル・インフォマティクスは実験・実測データを用いてモデルを構築していくため、その源泉となるデータベースの重要性は明らかです。創薬、有機合成、構造解析、そしてマテリアルの観点からデータベースが紹介されています。
第 II 部は研究最前線と題し、合成(1, 2章)、基盤技術研究(3, 4, 5章)、創薬(6, 7, 8章)、機能分子・材料(9, 10, 11章)、生産を見据えた応用(12, 13, 14章)という切り口で化学への情報科学利用の最前線が語られています。情報科学により何を達成したか、というよりは情報科学がどのように利活用できるか、できうるかが述べられているように感じました。有機・無機化学、材料化学、創薬化学など分野を問わず情報科学が利用されている様を見ることができ、2024年時点最新の状況を俯瞰して眺めることができるように感じられました。
長らく「Wet」の実験が主流であった化学(特に有機化学)分野でも情報科学の利用は待ったなしの状況です。今必要とせずとも、何が起きているのか、情報科学で何ができるのかを理解することは重要であり、その導入として適した1冊だと言えます。