フッ素の特性が織りなす分子変換・材料化学: フッ素化学の新たな飛躍に向けて ((CSJカレントレビュー: 47))
概要
最先端で高機能性フッ素系材料の創製や,独創的な合成反応の開発を目指して研究を行っている研究者の成果を集め,系統的に紹介した.(引用:化学同人)
対象者
有機化学に興味のある学部3・4年生、有機合成に関連する研究を行っている大学院生・研究者。
目次
PART Ⅰ 基礎概念と研究現場
1章 フロントランナーに聞く(座談会)
網井 秀樹・萩原 理加・森澤 義富
聞き手:市川 淳士
2章 フッ素化学基礎の基礎
Basic concept-1 無機フッ素化学の基礎 松本 一彦(京都大)
Basic concept-2 有機フッ素化学の基礎 網井 秀樹(群馬大)
Basic concept-3 含フッ素高分子の基礎 栗岡 智行・稲木 信介(東京工業大)
3章 研究の歴史と将来展望
森澤 義富・萩原 理加・市川 淳士
PART Ⅱ 研究最前線
① 「フッ素の謎」の解明を目指す物理化学
1章 ペルフルオロアルキル化合物の物性を分子構造から理解する 長谷川 健(京都大)
2章 ハロゲン結合の方向依存性の量子化学計算による解析 都築 誠二(東京大)
3章 フッ素系機能材料を指向する結晶工学 片桐 利真(東京工科大)
4章 部分フッ素化リン脂質二分子膜の生物物理化学 園山 正史(群馬大)
② 無機材料化学におけるフッ素の応用
5章 フルオロハイドロジェネートイオン液体 萩原 理加・松本 一彦(京都大)
6章 フッ化物錯体平衡による電気化学材料の創製 水畑 穣(神戸大)
7章 酸化フッ化物系機能性ガラス材料の創出 米沢 晋(福井大)
③ 進展を続ける有機フッ素化学
8章 PETイメージング剤の開発と臨床応用 山口 博司(藤田医科大学病院)
9章 触媒的不斉フッ素化反応の最近のトピックス 住井 裕司・柴田 哲男(名古屋工業大)
10章 α-フルオロカルボカチオンを中間体とする有機合成反応 渕辺 耕平(筑波大),藤田 健志・市川 淳士(相模中央化学研究所)
11章 可視光反応による有機フッ素化合物の合成 矢島 知子(お茶の水女子大)
12章 芳香族トリフルオロメチル化 網井 秀樹(群馬大)
13章 遷移金属錯体を用いたテトラフルオロエチレンの分子変換反応 土井 良平・生越 專介(大阪大)
④ フッ素材料開発の新潮流
14章 フッ素系高分子の精密合成とフルオラス性ナノ構造材料の創出 寺島 崇矢(京都大)
15章 フッ素系高分子ナノ粒子の調製と応用 澤田 英夫(弘前大)
16章 オクタフルオロシクロペンテンを基盤とする高分子合成 福元 博基(茨城大)・吾郷 友宏(兵庫県立大)
17章 含フッ素かご型シルセスキオキサン材料 中 建介(京都工芸繊維大)
PART Ⅲ 役に立つ情報・データ
内容
本書は、化学同人社より出版されている「CSJ カレントレビュー」シリーズです。本書では、フッ素研究のフロントランナーによる座談会、フッ素化学の基礎、そして様々な分野のフッ素に関する研究について紹介しています。
まずPARTⅠ第1章では、群馬大学 大学院理工学府の網井 秀樹教授、京都大学 大学院エネルギー科学研究科の萩原 理加教授、AGC株式会社の森澤 義富博士そして相模中央化学研究所 精密有機化学グループの市川 淳士招聘研究員の4名で行われた座談会が掲載されています。4名で異なる化学専門を持ちながら、フッ素化学の歴史からフッ素の特性、今後の研究の展望について議論されています。内容ではフッ素の特異性からを各専門分野でどのように研究に発展させていているかを中心に語られています。個人的にはこの座談会のページでフッ素のNMRについても言及されている点が興味深いと感じました。続いて第2, 3章では、フッ素化学の基礎について解説されています。無機、有機、高分子といった各分野におけるフッ素化学の基礎が取り上げられています。特に自分の場合、高分子の知識はあまりなく、フッ素ポリマー合成方法については、どのような反応で合成されているのかを理解することができ大変参考になりました。
次にPART Ⅱでは、最新の研究成果についてのまとめです。一つ目は、フッ素の物理化学に関する研究トピックについてです。どの研究トピックも基本的に水素をフッ素に置換したらどのように物性が変わるかについて議論がなされていて、物理化学を苦手とする方でもそれぞれの研究に興味を持つことができるかと思います。二つ目は、無機化学のフッ素に関する研究トピックです。具体的には、イオン液体、電気化学、ガラスが取り扱われていますが、どれも最新研究ながら、早い段階での実用化が期待されている成果であり、フッ素の無機化学の分野における有用性を再認識する内容です。三つ目は、有機フッ素化学についてです。まず8章で紹介されているのは、PETイメージング剤であり放射化学に近い研究トピックです。フッ素が診断に役立っていることが分かる内容です。9章以降は、有機合成の研究トピックであり、フッ素化合物に関する有機合成反応が一挙に紹介されています。どの研究トピックでも合成例が多数まとめられており、合成研究に関わっていない自分でも研究の楽しさを感じたページでした。これから有機合成に本格的に関わる学生さん、有機合成の研究に関わっている若手研究者にはぜひ読んでいただきたいパートです。最後には含フッ素ポリマーについてです。こちらは、新しい構造や物性を持つフッ素ポリマーについて合成方法を主に紹介しています。ポリマー中にフッ素がどう導入されているのか、それによってどのような物性がもたらされているのかが見ものです。よって新しいコンセプトのポリマーが多数紹介されており、企業での新規材料開発に役立つのではないかと思いました。PART Ⅱの最終部には、トピックスというコーナーが設けられており、企業からフッ素に関する技術が2,3ページでまとめられています。内容は、例えばステラケミファによるHFの高純度化や三菱マテリアル電子化成のフッ素のリサイクルについてなどで、最新研究トピックではないものの化学工業におけるフッ素の技術を知ることができ、特に企業の技術者にとっては興味深い内容かと思います。
このCSJ カレントレビューは単純にフッ素化学のことが基礎から最新研究まで凝縮された一冊であり、今フッ素を専門としていない方でも読みやすい内容となっています。特にフッ素は他の元素では置き換えられない特異的な性質を持っていることをこの本から再認識させられました。