概要
化学研究者が知っておくべき特許の基本をやさしく解説した.「特許とはなんぞや」から始まり,出願から取得後の活用法まで,現場に精通した弁理士がていねいに解きほぐす.読みやすいが,深くてためになる決定版入門書.
(引用:化学同人)
対象者
化学の若手研究者・技術者。業務において特許に触れる機会が多くなってきた方、これから初めて特許出願を行う方に最適の書籍です。
目次
~まずはその目的を知りましょう~
第1講 特許制度と発明
第2講 特許権以外の知的財産権
PART Ⅱ.特許される発明:大発明だけが特許されるわけじゃない
~簡単に思いつかない新しい発明が特許されるというけれど~
第3・4講 新規性とは?
第5・6講 進歩性とは?
PART Ⅲ.特許出願する前に:特許出願する前にやっておくべきことがある
~発明が完成した!でもどうしたら特許出願できるのか?~
第7講 特許出願をするためには?
第8講 特許公報と特許調査
第9講 特許出願に必要な実験データとは?
第10講 共同出願について
PART Ⅳ.特許出願書類の作成、読み方:特許請求の範囲、明細書の意義を理解しよう
~書類作成は面倒くさいし、読んでもわかりにくいけれど~
第11~13講 特許請求の範囲とは?
第14・15講 明細書の書き方
PART Ⅴ.特許出願の審査と外国への出願:特許出願してから特許されるまで
~日本や外国の審査官とのロンリ的戦い~
第16講 審査手続について
第17講 外国への特許出願について(前編)
第18講 外国への特許出願について(後編)
PART Ⅵ.メディカル発明の特殊性:医療関係の発明は特別扱い
~治療方法や医薬品の特許に特別ルールが設けられているのはなぜ?~
第19講 メディカル関連特許の特殊性
第20講 医薬特許について
PART Ⅶ.特許権の活用:第三者との関係において特許を活かそう
~特許を取ったらそれで一件落着、ではない~
第21講 特許権侵害への対処法
第22講 第三者の特許への対抗手段
第23講 ライセンス契約について
解説
本書は、月刊「化学」で連載のあった「化学の特許はおまかせ!中務先生のやさしいカガク特許講座」の内容を整理して組み立て直したものです。内容は特許の初心者向けの解説で、特許制度の解説から明細書の読み方、特許審査、ライセンス契約までを化学に特化して解説しています。著者の中務 茂樹さんは、1987年に株式会社クラレに入社し研究開発を経て知的財産部に移り特許業務に携わりました。1999年には弁理士登録され、2008年にせとうち国際特許事務所を設立し、代表社員弁理士としてご活躍されています。
では、さっそく詳細を見ていきます。まずPart Iの特許制度では特許制度そのものについてが主題であり、なぜ特許が存在するのか、どんなものが特許になるのかなどを解説しています。権利としては特許以外にも実用新案や意匠権などがありますが、本章ではそれらについても創作系とビジネス系で表にまとめられており、化学の分野で関わることが少ないものの権利としての違いを知ることができます。またコラムに該当する休憩時間のコーナーでは、ヒトのDNA断片化は特許の対象かどうかについて触れられており、国や時代によって特許の対象に差があることを知ることができます。次に、PARTⅡの特許される発明では、特許化の大前提である新規性と進歩性について取り上げています。この単語を見ると大変難しく感じますが、本章では図や経験談を用いながら分かりやすく解説されています。この概念に関連して、明細書の中でたくさんの化合物や官能基が羅列されていることがありますが、このような表現がなされる理由にも触れられています。
PART Ⅲの特許出願する前にでは、出願の事務続きの流れから出願に必要な実験データの考え方、共同出願などについて解説しています。特に共同出願については、共同出願の状況の違いや出願相手(大学なのか企業なのか)によって状況が変わることを詳しく説明されていて、自分がその共同出願に関わることになった時に、契約や立場の違いがどのように影響するのか把握することができます。PART Ⅳの特許出願書類の作成、読み方では明細書について解説しています。この章での大きな話題は請求項についてで、請求項とは何か、請求項はどのように設定されるかを化学の実例を用いながら解説しています。明細書の特許を把握するという点では、請求項から大体どんな範囲をカバーしているか理解できていましたが、出願する側としてどのように従属請求項や独立請求項を組んでいるのかは知らず、本章を読んでそのからくりをある程度、理解できました。
PART Ⅴの特許出願の審査と外国への出願では、出願後の流れと外国に出願する時の方法について紹介しています。本章の内容は、どちらかというと弁理士の業務紹介になるかと思いますが、パリルートとPCTルートの違いなど少し特許についてなど特許の知識が少しある方が抱く素朴な疑問を本章で解決することができます。PART Ⅵのメディカル発明の特殊性では、医療行為が特許されない例外について取り扱っています。医薬品は化学分野の一つであり、それを医療行為とせずそれをどのように特許化しているのかが解説されています。PART Ⅶの特許権の活用では、自分の特許が侵害されていた場合、他者の特許が無効だと思う場合、特許をライセンスする場合についてどのようなアクションを取ればよいのか説明されています。制度上、訴訟を含む強力な手段がたくさんあることは分かりますが、本書では、どのくらいの割合で訴えが認められるのかについても言及されていて、なかなか認められない現状も同時に知ることができます。
特許の入門書・セミナーはたくさんありますが、化学に特化した内容の物はさほど多く存在しないので、化学を専門とする方が特許について知るには、最適な本だと思います。また内容の合間にある関西弁のジョークや著者の愛犬の写真などが、さらに読みやすくしています。一方で、関連する法律が賞の頭で紹介されており、どの条文についての解説なのか把握しながら読み進めることができます。世界各国で微妙に異なる特許制度なども解説されており、初心者だけでなく少し特許をかじった方の学び直しにもなるかと思います。