今回は書籍『有機反応機構の書き方 第2版』(
)をご紹介します。概要
本書は、有機化学の中級者向けのテキストで、有機化学変換の妥当なメカニズムの書き方を示しています。多くの教科書にあるような反応全体ではなく、メカニズムの種類と反応条件によって体系的に有機化学反応が解説されている。各章では、一般的な機構経路を論じ、それを描くための実践的なヒントを提案しています。また、学生を悩ませる落とし穴や誤解などの「よくある間違い」がテキスト中に散りばめられています。各章の最後には、難易度の高めな問題集が掲載されています。
13年前に発売された第1版の書籍レビューはこちら(ケムステ過去記事)
目次
- 基本的事項
1.1 有機化合物の構造と安定性
1.2 Brønsted酸性度と塩基性度
1.3 反応速度論と熱力学
1.4 反応機構を書く前に注意すること
1.5 変換反応の種類
1.6 反応機構の種類- 塩基性条件における極性反応
2.1 置換反応と脱離反応
2.2 求電子性π結合への求核種の付加
2.3 C(sp2)-Xσ結合における置換
2.4 C(sp3)-Xσ結合における置換と脱離
2.5 塩基で促進される転位反応
2.6 2つの多段階反応- 酸性条件における極性反応
3.1 カルボカチオン
3.2 C(sp3)-Xにおける置換とβ脱離反応
3.3 求核性C=Cπ結合への求電子付加
3.4 求核性C=Cπ結合における置換
3.5 求電子性π結合における求核付加と置換反応
3.6 イミニウムイオンを含む触媒反応- ペリ環状反応
4.1 はじめに
4.2 電子環状反応
4.3 付加環化
4.4 シグマトロピー転位
4.5 エン反応- ラジカル反応
5.1 ラジカル
5.2 ラジカル連鎖反応
5.3 非連鎖ラジカル反応
5.4 その他ラジカル反応- 遷移金属反応
6.1 遷移金属の化学
6.2 付加反応
6.3 置換反応
6.4 転位反応
6.5 脱離反応- 総合問題
本書籍は、標準的な有機化学の教科書を一通り勉強し、基本的な有機反応機構が理解できるようになった大学院生などが読むのに丁度よい内容です。書籍のまえがきにも同様の趣旨の記載がありますが、まさにその通りだと思いました。
一般的な教科書では置換反応、カルボニル基やオレフィンに対する付加反応のように、官能基ごとに反応を解説します。一方、本書は第一章で有機化学における反応式を書く上でのルール、いわばスキームや矢印の文法を解説し、その後の章で有機反応をカチオン反応、アニオン反応、ラジカル反応、ペリ環状反応、遷移金属触媒に分類し、反応機構と反応が起きる駆動力を独特な解説しています。一章では、説明文に図がついていない場合も多く、初学者には文章の意図を理解しきれないと思います。英語の原文を尊重してニュアンスを残している部分も理解しづらく感じる部分もあるでしょう。しかし、第二章以降は化学種をカチオン、アニオン、ラジカルに分類し、体系的に解説している上に、各項でかなり丁寧に反応機構が解説されています。第一章は、図がついていない部分を理解できなくてもあまり気にせず一度軽く読み進め、第二章から真剣に読んでみると楽しく読めると思います。また、近年光化学や電気化学の発展によりさらに脚光を浴びているラジカル反応や遷移金属の反応に関してもわかりやすく解説されているのでその道の難しい専門書を読むより入りやすいかもしれません。
感想
繰り返しにはなりますが、有機化学反応を他の教科書にない視点で分類している点と、その機構が極めて詳細に解説されている点が良いと思いました。また解説だけでなく、演習問題も独特の思考を問う問題が多く用意されているように感じました。難易度は少し高めで、解答解説は本書についていないため、有機化学を一通り勉強した学生の腕試し、大学院生の勉強会などに良い書籍です。