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化学書籍レビュー

有機化学イノベーション: ひらめきと直観をいかにして呼び込むか

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概要

国内の気鋭の有機化学研究者18人による渾身の研究解説集.

論文には書かれていない独自の思考方法から,発見の瞬間と感動までが具体的に盛り込まれ,研究で大きなイノベーションを生むために必要なエッセンスが満載.(引用:東京化学同人)

対象者

大学生以上。専門分野の基礎を解説するページが研究解説の前に掲載されており、有機化学の基礎を習得していれば内容を理解できます。

目次

まえがき………山本 尚
1 硫黄官能基が導く新しい分子合成戦略………南保正和
2 変幻自在な分子触媒………大松亨介
3 極性転換の拡張を利用する結合形成手法の開拓………平野康次
4 フラーレンを超える分子をデザインし,創る………深澤愛子
5 特殊ヘテロ環の分子機能化学………熊谷直哉
6 有機分子のカタチをもとに並べて創る分子空間化学………生越友樹
7 量子化学計算に基づく反応予測………前田 理
8 分子触媒や反応活性種の創製に基づく新反応開発………鷹谷 絢
9 有機イオン対の触媒化学………浦口大輔
10 ヘンな有機化学反応を見つける………鳶巣 守
11 新規分子変換反応による環状有機ケイ素化合物の創出………新谷 亮
12 持続可能性の高い医薬合成を指向した分子触媒の設計………松永茂樹
13 協働触媒反応………中尾佳亮
14 未踏の化合物空間:高次構造フラボノイドの合成研究………大森 建
15 新しい炭素のカタチを創る………伊丹健一郎
16 単分子性を発現する高分子材料の合成と機能………寺尾 潤
17 触媒にどこまでできるのか………金井 求
18 全合成戦略と天然物機能のアップグレード………井上将行

解説

MSD生命科学財団では、有機合成化学分野において優れた業績をあげ今後の発展が期待される40歳未満の若手研究者をLectureship Award MBLAとして年間一名表彰しています。本書は、その2004年から2021年までのMBLAを受賞した先生方がそれぞれの専門分野を解説した書籍です。監修者である山本先生は、読者が執筆された先生方の思考を追体験できるように書いてほしいと注文しており、読者が新しい道を切り開くためのヒントが満載の書籍です。

本書は、各章ごとに表紙入門基礎研究最前線の3要素で構成されています。まず表紙には先生方の顔写真が掲載されていますが、所属機関のホームページや論文誌で載せられている荘厳な雰囲気とは全く異なり、旅先でのリラックスした姿や、趣味に勤しむ様子、家族とのプライベート時間を過ごしている風景などの写真がコメントと共に掲載されています。優れた業績をあげられており、日々研究についてハードワークをこなしていることは容易に想像できますが、それでも個人や楽しみの時間を作っていることが表紙の写真から感じることができます。

続いて入門基礎になりますが、このパートでは研究内容の理解に必要な基礎が2ページを使って簡潔に解説されています。具体的には、最初の節で大学1,2年次の有機化学の講義・教科書で取り扱われている内容に触れ、二つ目以降の節で専門分野のキーとなる現象や性質について解説されています。有機化学を専門とする院生以上であれば研究最前線から読み進めることは可能ですが、この入門基礎が充実しているために、その他分野や学部生の方にも参考にすることができる書籍になっていると思います。この章の最後には、「私のお薦め」というタイトルで先生方が推薦している書籍や論文が紹介されています。本の情報だけでなく推薦する理由やエピソードが一言加えられており、読者が手に取るときの参考になると思います。挙げられている多くが関連する論文や専門書ですが、有機化学の読み物を挙げる先生も多く、例えば佐藤健太郎氏の書籍は複数の先生方から推薦されています。さらには化学と無関係の書籍も挙げられており、日常生活に大変役立つ書籍や小説、自伝なども挙げられています。

では肝心の研究最前線について見ていきます。1章あたり10ページ以下で研究の始まりから最新の結果、これからの展望がまとめられています。さらにより詳しい内容を読者が調べられるように、参考文献に加えて「もっと詳しく」という節で詳しく解説された書籍・論文がコメント付きで紹介されています。全章を読んで感じたことをいくつか挙げると、まず全体的にケムステのスポットライトリサーチと通じるものがあると思いました。論文では、実験結果などから明らかになった事象を中心に文章が構成されていますが、冒頭でのまえがきの引用の通り、先生方の思考を追体験できるような構成となっており、どのように今の専門に行き着いたのかや研究の中での試行錯誤、特に新たな発見を見て思ったこと、それに基づいて起こしたアクションなどが時系列で細かく記述されています。また、多くの先生方が人とのつながりについてのエピソードを紹介しています。具体的には、指導を受けた先生とのやり取りや実験を行った研究室メンバーとの議論などで、本書を読んで他の研究者との交流を深めることの大切さを知ることができます。各章の最後には、「おわりに」や「これから」というタイトルで先生方自身の振り返りや将来について論じられています。研究室の学生でも先生の本音というものは、なかなか知る機会は無いと思いますが、それがこのパートには、研究をやっていてうれしい時やこれからどうしていきたいか、未来の研究者に期待することなど、本音が良く表れていると思いました。

まず第一に本書では様々な有機化学の研究内容を紹介しており、学生にとっては専門を選ぶのに役立つと思います。また、憧れの先生方についてよく知りたい場合にも有用だと思います。研究者にとっては、概要の通りイノベーションを生むために必要な方法や考え方の参考になるかと思います。

有機化学に関するケムステ書籍紹介

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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