概要
電気化学インピーダンス法は、腐食防食・めっき・キャパシタなど金属表面処理分野での中心的測定法として用いられており、さらに全個体型電池の開発・自動車用固体高分子形年長電池・リチウムイオン二次電池などエネルギーデバイスに関する利用も再認識されてきている。最近ではセンサー・水素製造・半導体界面を含む電子デバイスへの応用など、新しい分野での関心も深まっている。
電気化学インピーダンス法は、非常に広範囲な分野に応用されているが、用いる等価回路などの解析方法も、測定対象に依存して、バリエーションに富んでいる。そこで「原理を理解して、応用につなげる」ことを目的として、応用分野にかかわらず、共通して必要な基礎原理、測定法、解析法をやさしく解説している。
第2版の発行から10年が経過し、第3版では、アドミッタンス・複素キャパシタンス、および電子線分布についての加筆や見直しを行った。(引用:丸善出版)
対象者
電気化学インピーダンスの測定をこれから行う方。内容の理解に化学の知識はほとんど必要ありませんが、本書で得た知識を活用する実践の場が読破には必要だと思います。
目次
第1章 電気化学インピーダンス法への手引き
1.1 電気化学インピーダンス法とは何か?
1.2 電極反応と電気化学インピーダンスの関係
1.3 電気化学インピーダンス法の利用
1.4 インピーダンス解析に用いる基礎数学
第2章 電気化学インピーダンス法の原理
2.1 電気化学測定の中での電気化学インピーダンス法の位置づけ
2.2 電気化学測定に必須な公式
2.3 時間領域と周波数領域での解析
2.4 電気化学インピーダンス法の適用条件
第3章 実験装置
3.1 電極
3.2 電気化学セル
第4章 電気化学インピーダンス測定法と機器
4.1 測定機器
4.2 FRAの原理
4.3 FRAを用いたインピーダンススペクトルの測定
4.4 その他のインピーダンス測定法
第5章 電気化学インピーダンスのデータ処理
5.1 電位-電流曲線と電荷移動抵抗の関係
5.2 各素子のインピーダンス
5.3 インピーダンスの合成
5.4 インピーダンススペクトルの表記法
5.5 RC直列回路のインピーダンス
5.6 RC並列回路のインピーダンス
5.7 インダクターLを含むインピーダンス
5.8 CPEを含む等価回路
5.9 さまざまな等価回路から計算されるインピーダンススペクトルのまとめ
5.10 コール-コールプロットとコール-デビットソンプロット
5.11 二つの時定数をもつ等価回路とインピーダンススペクトルの軌跡
5.12 電極構造と等価回路の関係
5.13 高周波数域での誘導性挙動の解釈と注意点
5.14 ブロッキング電極の等価回路とインピーダンススペクトル
第6章 ファラデーインピーダンス
6.1 ファラデーインピーダンスとインピーダンススペクトルの関係
6.2 低周波数域での誘導性挙動の物理的意味
6.3 ファラデーインピーダンスと吸着過程の関係
6.4 さまざまな反応メカニズムとファラデーインピーダンスの関係
6.5 電荷移動抵抗Rctと分極抵抗Rpとの違い
6.6 複合電極の電位-電流曲線と分極抵抗
6.7 ファラデーインピーダンスによるブロッキング電極の表現
第7章 拡散のインピーダンス
7.1 ワールブルグインピーダンス
7.2 電極反応の物質収支から導出する拡散インピーダンス
7.3 電極反応の物質収支から導出した拡散インピーダンスの軌跡
7.4 さまざまなファラデーインピーダンスの軌跡のまとめ
第8章 分布定数型等価回路を用いた電気化学インピーダンス解析
8.1 多孔質電極と分布定数型等価回路
8.2 伝送線モデルを用いた電気化学インピーダンスの理論式
8.3 分布定数型等価回路による電気化学インピーダンスの計算
8.4 伝送線モデルによるインピーダンススペクトルの計算
8.5 ダブルチャネル型伝送線モデル
8.6 交流測定時に多孔質電極に流れる電流線の分布
第9章 アドミッタンスと複素キャパシタンス
9.1 一般式の導出
9.2 Cdのみの等価回路
9.3 RsolとCdlの直列回路
9.4 RctとCdlの並列回路
9.5 RctCdl並列とRsolの直列回路
解説
電気化学は大学時代に少しだけ触った程度ですが、電池に関する話題が多くなり電気化学インピーダンスについて勉強しようと思い本書を手に取りました。そもそも電気化学インピーダンス法とは、対象とする電極に微小な正弦波交流を与え,その伝達関数としてインピーダンスを求めることにより電極反応機構などを解析する非定常測定法の一つです。そして本書では概要の通り、電気化学インピーダンスの取り扱いに必要な基礎原理、測定法、解析法を解説しています。
では内容を見ていきます。第1章では、電気化学インピーダンスの意味するものとその測定の応用、そして2章以降の理解で必要な基礎的な数学に触れています。電気化学インピーダンスについて予備知識が無かった自分ですが、この章を何度か読み返することで測定の概念と、その解析で登場する複素平面について基礎を理解することができました。第2章では、電気化学インピーダンス法の原理ということで、章の前半は電気化学の基礎公式を解説しています。その上で章の後半では、電気化学インピーダンスで行われる周波数解析について解析しています。周波数に関する理解は難しいところがありますが、数式とグラフがバランスよく加えられており、数式に慣れていない場合でも馴染みやすいかと思います。
第3章では、実験装置として電極とセルの種類と取り扱う上での注意点について解説しています。第4章も装置に関する内容で、電気的な処理を行うのに必要な装置の原理や特性について解説していて、特にFRA(周波数応答解析装置)について詳しく詳説されています。どちらの章も実際に実験装置を構築するためというよりかは、装置理解のための内容が主であり電気化学インピーダンスの研究や業務を始める前に重要な事が取り扱われていると思います。
第5章はデータ処理として回路ごとにどのような応答を示すかを解説しています。電気化学インピーダンスに含まれる時定数のうち、電極構造に起因する定数は、測定データに対して等価回路に対応したフィッティングを行うことで求めることができます。そのため、本章では様々な回路で得られるインピーダンススペクトルを導出しています。一方第6章は、電極素反応に起因する定数を求めるために必要なファラデーインピーダンスについて解説していて、章の後半では、電極反応別にどのような変化が起こるのか解説しています。第7章、8章では、さらに発展した解析方法を解説しています。まず第7章では拡散についてで、電気化学反応によって物質が溶液内で移動しますが、この現象を電気化学インピーダンスでどう捉えるかを解説しています。第8章で取り扱われているのは、電極が多孔質の場合であり、どのような等価回路として取り扱うかが解説されています。第9章ではインピーダンスとは別の関数としてアドミッタンスと複素キャパシタンスについて触れています。
本書は電気化学インピーダンスを勉強するための専門書であり、それ以外の目的では役に立ちにくいかもしれませんが、電気化学インピーダンスの理解に必要な内容がまとめられています。近似を取り扱うため数式がいくつも登場しますが、適度な文章による解説で理解が難しい数式についても手を動かさなくても理解できるような構成となっています。