概要
いま我々は,カーボンニュートラルの実現のために,最も合理的なエネルギー供給と利用の選択肢を模索する真っ只中にいる.そして,この局面を打破する最右翼が技術イノベーションである.本書は,そのようなカーボンニュートラル技術開発の最前線にいる大学や企業の研究者達によって執筆された.二酸化炭素の回収,再生可能エネルギー,炭素フリー燃料,カーボンリサイクル,エネルギー戦略や各技術の社会的位置づけを,専門的な観点から解説している.カーボンニュートラル実現に必要な技術を一望できる一冊.(引用:丸善出版)
対象者
大学生以上。大学1・2年次に勉強する化学の内容で、本書内で紹介されている具体的な研究・技術を理解できます。カーボンニュートラルの概論や傾向については、化学の予備知識が無くても読み進めることができると思います。
目次
1 カーボンニュートラル実現に向けた技術展開と課題
1.1 はじめに
1.2 カーボンニュートラル
1.3 代替エネルギーの導入
1.4 CO2の分離回収
1.5 CO2の貯蔵・利用
1.6 全体を通した取り組みと課題
1.7 おわりに
2 CO2の分離回収技術
2.1 吸収液法によるCO2分離回収
2.2 吸着・固体吸収法によるCO2分離回収
2.3 高炉ガスからのCO2分離回収技術
2.4 冷熱を利用したCO2回収の新技術
3 再生可能エネルギーとカーボンフリー燃料
3.1 太陽電池の技術動向
3.2 風力発電の国際動向 〜なぜ世界では風力発電の大量導入が進むのか?
3.3 大規模水素輸送システムの評価と展望
3.4 アンモニア合成触媒の新展開
3.5 アンモニア混焼
4 CO2利用技術
4.1 メタネーション触媒反応器の数値流体解析
4.2 再生可能エネルギーを利用したCO2の燃料化技術
4.3 メタネーションの事業化展望
5 カーボンニュートラルへのアクション
5.1 カーボンニュートラルに向け我が国独自の新しいエネルギーシステムを考える
5.2 再生可能エネルギー施設の導入における社会的摩擦と社会的受容
6 総 論
6.1 はじめに
6.2 再エネ電力のみで将来の我が国のエネルギー需要を充たせるか
6.3 カーボンニュートラル実現のシナリオと技術の位置づけ
6.4 おわりに ー今後の技術開発とシステムの実装ー
解説
温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味するカーボンニュートラルは近年急速に話題となっているテーマであり、化学分野では官民が全力でCO2を削減する技術の開発・実用化を推進しています。そんなカーボンニュートラルにおいて重要なトピックをまとめて勉強できるのが本書になります。
各章について見ていくと、第1章では、概要として各国のCO2排出の現状や発電方法の変遷と今後の予測について紹介しています。第2章以降で詳述されるCO2削減方法の概要では、効果だけでなくその方法の欠点も説明されていて、各技術が直面している課題を知ることができます。第2章は排出されるCO2を分離・回収する技術について解説しています。CO2の分離については、ガスの合成や天然ガスの製造プラントで古くから行われてきており、吸収液を用いた物理・化学吸着についてプラントにおけるフロー図を用いて効率よく分離する方法など実用化されている技術について解説されています。一方、近年活発に研究が行われている固体吸収・吸着については、吸収材の表面構造について構造式を使って説明されていたり、ゼオライトのCO2吸着挙動を調べた実験結果が紹介されていたりと研究内容について主に取り扱われています。
第3章は、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーとアンモニア燃料を主としたカーボンフリー燃料について解説しています。化学ではあまり触れない風力発電の仕組みやアンモニアの燃焼についても取り上げられており、発電効率や送電方法、火炎の伝播メカニズムなどを知ることができます。さらに、エネルギー源を船で運ぶ事については、エネルギーロスについて詳細な計算による比較がなされており、課題が多いことを感じます。アンモニア合成の触媒については研究に関するトピックとなっており、金属や合成条件別の活性やTEM画像などが紹介されています。
第4章は、CO2利用技術として水素とCO2を反応させてメタンを合成する技術、メタネーションについて取り上げています。注目すべき内容は日立造船とINPEXのメタネーションに関する実証実験の結果であり、メタネーションの実用化を感じることができます。加えて、今後どのように実用化が進むのか展望が示されており、政府の動きやいつ頃にこのメタネーションが普及するかなどが解説されています。最後に第5章と第6章では、まとめとして今後の日本のエネルギーに関するシナリオが提示されています。興味深い内容は、日本とドイツのエネルギーフローの違いであり、日本はEU諸国よりカーボンニュートラルに対する取り組みが遅いと言われていますが、この比較によって2国のエネルギーの使い方が異なることが分かり、日本に合った取り組みが必要であることが分かりました。
書名の通り、化学工学に関連したプラントに関する内容や細かい計算なども取り扱われていますが、丁寧な解説でわかりやすく化学の基礎的な知識があれば全体を理解することができます。さらに国別の統計や予測も豊富に掲載されており、技術の内容だけでなく日本や世界の動きを把握できる構成になっています。この先このカーボンニュートラルについては、化学分野における大きなテーマであり続けるのは明らかであり、関連する研究や業務に携わっている方はもちろんのこと、直接関連のない方も全体を理解するために本書は役立つと思います。