[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

手で解く量子化学I

[スポンサーリンク]

手で解く量子化学 I 基礎量子化学・Hartree-Fock編

手で解く量子化学 I 基礎量子化学・Hartree-Fock編

中井 浩巳
¥4,180(as of 03/30 17:01)
Amazon product information

概要

量子化学計算プログラムの進歩は目覚ましく,いまや化学研究において不可欠なツールとなっている.一方,プログラムに実装されている内容は,量子化学の教科書で述べられる「解析的な定式化」とは大きく異なり,その理論的背景を理解するのは難しい.
本書は,量子化学計算プログラムで用いられている作業方程式(working equation)を実際に「手で解く」ことで,その理論的背景の理解を目指した書籍である.I巻では,基礎となる量子化学を復習したのち,Hartree-Fock 法を用いた数値計算について,多数の演習問題や「手で解く課題」とともに解説する.さらに巻末には,問題の詳解や,必要な数学をまとめた補遺を掲載.これらは読者の理解を大いに助けるであろう.
著者による長年の大学院教育の成果を凝縮した,渾身の一冊.(引用:丸善出版社ホームページより)

対象者

  • 量子化学計算を行う研究者全般
  • 理論化学研究室の学生
  • 他の教科書より実用的な量子化学を勉強したい者
  • 量子化学の講義編成に悩む大学教員

目次

1 基礎量子化学
1.1 Schrödinger方程式
1.2 量子力学の仮定
1.3 演算子の交換関係
1.4 エルミーティアン
1.5 Dirac記法
1.6 水素類似原子
1.7 原子単位系
1.8 変分法
1.9 電子スピンとスピン固有関数
1.10 Pauli の排他原理と反対称性原理
1.11 Hückel法
2 基底関数と分子積分
2.1 Gauss基底
2.2 重なり積分,運動エネルギー積分
手で解く課題2.1
2.3 核引力積分,電子反発積分
手で解く課題2.2
2.4 縮約基底
手で解く課題 解答
3 Hartree-Fock 法の一般論
3.1 電子ハミルトニアン
3.2 Slater-Condon則
3.3 Hartree-Fock方程式
3.4 軌道エネルギーとKoopmansの定理
3.5 Brillouinの定理
4 閉殻系のHartree-Fock法
4.1 制限Hartree-Fock法
4.2 Roothaan-Hall方程式
4.3 基底関数の直交化
4.4 電子密度解析
4.5 エネルギー密度解析
4.6 自己無撞着場の手続き
手で解く課題4.1
手で解く課題 解答
5 開殻系のHartree-Fock法
5.1 非制限Hartree-Fock法
5.2 Pople-Nesbet方程式
手で解く課題5.1
5.3 制限開殻Hartree-Fock法
5.4 Roothaan-Hall方程式
手で解く課題5.2
5.5 スピン対称性
手で解く課題 解答
演習問題解答
補遺:本書で用いている数学
A 行列
B 固有値問題
C 解析積分
D 補間法と直行多項式
E 数値積分法
F ガンマ関数
G デカルト座標と極座標
付録:HeH系の分子積分

内容

早稲田大学、中井 浩巳 教授による一冊。「量子化学計算プログラムに実装されている理論」を学ぶための専門書として書かれており、Gaussianなどの量子化学計算ソフトの数値計算の手順を実際手で解けるように意図して構成されている。I巻は、基礎量子化学と銘打った学部レベルの量子化学の復習、そこから、数学的な補足(基底関数と分子積分)を加え、Hartree-Fock 法の説明。最後にSelf-consistent fieldの手続きによる繰り返し計算アルゴリズムを解説している。演習問題と解説が適所に散りばめられている他、実際手で解ける数値解析問題(手で解く課題)が章末問題として与えられている。

感想

本記事著者は、光化学の研究室で研究を行う博士課程学生です。量子化学については、量子化学計算ソフトを研究に用いているほか、学部•大学院でも一講義ずつ受講しました。本書の内容は、大学院で聴講した講義 (本学では結構Advanced/特に難しいで有名)レベルでした。すなわち、初学者が手に取るには、少し難しいと思います。

「量子化学をこれだけ分かりやすく解説してくれるのはすごい!楽しい!でも量子化学は本当に難しい!」が率直な感想です。

大学院講義とは違い、演習問題、解説、数学的な補足、が充実しており、バックグラウンド知識がなくても、めちゃくちゃ勉強になります。実際、ノートで問題を解きながら一章までは内容を追って行きました。恥ずかしながら、演習問題の8割は自力解けませんでしたが、解説がしっかりしているため、とり残されることはなかったです。

牙を剥くのは第二章からです。数学的な話が増え、自分の基礎学力の低さに挫けそうになりました。ここら辺から読み方が変わり、自分で解きながら、、ではなく、すぐに答え•結論を見ることで自分の量子化学計算ソフトで使っている知識に帰納的に繋げることに集中しました。そのような読み方は邪道かもしれませんが、本書が量子化学計算ソフトユーザーを意識しているためか、定期的に聞き覚えのある単語が散りばめられており、理解の助けになりました。

例えば計算化学をやっているとSCFが収束しない。。。なんてワードを定期的に聞きますが、それが何か分かりますか?僕は正直なんとなくでドヤっていました(意味もわからずSCF=QCで解決)が、本書を読んで理解が深まりました。

一周読み終えた感想としては、まだまだ理解しきれていないな。。という感じです。100ページ程度とたかを括り数日で一気読みするのは間違いでした。

間違いなく良書。正直、今まで聞いた。読んだ。量子化学の話の中で一番丁寧だったと思います。二週目からはじっくり読むことで、めちゃくちゃ難しい量子化学の理解がより深まるだろうなとワクワクしています。

また、本書は1巻、、ということでHF法までしか入っていません。量子化学計算の花形: DFT、td-DFT、摂動論などはおそらく今後の巻で解説されるのでしょうか?

少なくとも僕は、このシリーズ一通り買いたいなと思いました!将来、自分が量子化学の授業を持つことになったとしたら、全力で参考にしたいです。

 

 

Avatar photo

Maitotoxin

投稿者の記事一覧

学生。高分子合成専門。低分子・高分子を問わず、分子レベルでの創作が好きです。構造が格好よければ全て良し。生物学的・材料学的応用に繋がれば尚良し。Maitotoxinの全合成を待ち望んでいます。

関連記事

  1. 創薬化学―有機合成からのアプローチ
  2. 有機反応の仕組みと考え方
  3. 【書籍】ゼロからの最速理解 プラスチック材料化学
  4. 有機反応の立体選択性―その考え方と手法
  5. The Art of Problem Solving in Or…
  6. なぜあなたは論文が書けないのか
  7. Illustrated Guide to Home Chemis…
  8. 英文校正会社が教える 英語論文のミス100

注目情報

ピックアップ記事

  1. MSI.TOKYO「MULTUM-FAB」:TLC感覚でFAB-MS測定を!(2)
  2. アーノルド・レインゴールド Arnold L. Rheingold
  3. 1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド : 1-(3-Dimethylaminopropyl)-3-ethylcarbodiimide
  4. 石油化学プラントの設備内部でドローンを飛行する実証事業を実施
  5. 白リンを超分子ケージに閉じ込めて安定化!
  6. (–)-Batrachotoxinin Aの短工程全合成
  7. ステープルペプチド Stapled Peptide
  8. イミデートラジカルを用いた多置換アミノアルコール合成
  9. ウォルター・カミンスキー Walter Kaminsky
  10. ノッシェル・ハウザー塩基 Knochel-Hauser Base

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年10月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

最新記事

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー