概要
量子化学計算プログラムの進歩は目覚ましく,いまや化学研究において不可欠なツールとなっている.一方,プログラムに実装されている内容は,量子化学の教科書で述べられる「解析的な定式化」とは大きく異なり,その理論的背景を理解するのは難しい.
本書は,量子化学計算プログラムで用いられている作業方程式(working equation)を実際に「手で解く」ことで,その理論的背景の理解を目指した書籍である.I巻では,基礎となる量子化学を復習したのち,Hartree-Fock 法を用いた数値計算について,多数の演習問題や「手で解く課題」とともに解説する.さらに巻末には,問題の詳解や,必要な数学をまとめた補遺を掲載.これらは読者の理解を大いに助けるであろう.
著者による長年の大学院教育の成果を凝縮した,渾身の一冊.(引用:丸善出版社ホームページより)
対象者
- 量子化学計算を行う研究者全般
- 理論化学研究室の学生
- 他の教科書より実用的な量子化学を勉強したい者
- 量子化学の講義編成に悩む大学教員
目次
1 基礎量子化学
1.1 Schrödinger方程式
1.2 量子力学の仮定
1.3 演算子の交換関係
1.4 エルミーティアン
1.5 Dirac記法
1.6 水素類似原子
1.7 原子単位系
1.8 変分法
1.9 電子スピンとスピン固有関数
1.10 Pauli の排他原理と反対称性原理
1.11 Hückel法
2 基底関数と分子積分
2.1 Gauss基底
2.2 重なり積分,運動エネルギー積分
手で解く課題2.1
2.3 核引力積分,電子反発積分
手で解く課題2.2
2.4 縮約基底
手で解く課題 解答
3 Hartree-Fock 法の一般論
3.1 電子ハミルトニアン
3.2 Slater-Condon則
3.3 Hartree-Fock方程式
3.4 軌道エネルギーとKoopmansの定理
3.5 Brillouinの定理
4 閉殻系のHartree-Fock法
4.1 制限Hartree-Fock法
4.2 Roothaan-Hall方程式
4.3 基底関数の直交化
4.4 電子密度解析
4.5 エネルギー密度解析
4.6 自己無撞着場の手続き
手で解く課題4.1
手で解く課題 解答
5 開殻系のHartree-Fock法
5.1 非制限Hartree-Fock法
5.2 Pople-Nesbet方程式
手で解く課題5.1
5.3 制限開殻Hartree-Fock法
5.4 Roothaan-Hall方程式
手で解く課題5.2
5.5 スピン対称性
手で解く課題 解答
演習問題解答
補遺:本書で用いている数学
A 行列
B 固有値問題
C 解析積分
D 補間法と直行多項式
E 数値積分法
F ガンマ関数
G デカルト座標と極座標
付録:HeH系の分子積分
内容
早稲田大学、中井 浩巳 教授による一冊。「量子化学計算プログラムに実装されている理論」を学ぶための専門書として書かれており、Gaussianなどの量子化学計算ソフトの数値計算の手順を実際手で解けるように意図して構成されている。I巻は、基礎量子化学と銘打った学部レベルの量子化学の復習、そこから、数学的な補足(基底関数と分子積分)を加え、Hartree-Fock 法の説明。最後にSelf-consistent fieldの手続きによる繰り返し計算アルゴリズムを解説している。演習問題と解説が適所に散りばめられている他、実際手で解ける数値解析問題(手で解く課題)が章末問題として与えられている。
感想
本記事著者は、光化学の研究室で研究を行う博士課程学生です。量子化学については、量子化学計算ソフトを研究に用いているほか、学部•大学院でも一講義ずつ受講しました。本書の内容は、大学院で聴講した講義 (本学では結構Advanced/特に難しいで有名)レベルでした。すなわち、初学者が手に取るには、少し難しいと思います。
「量子化学をこれだけ分かりやすく解説してくれるのはすごい!楽しい!でも量子化学は本当に難しい!」が率直な感想です。
大学院講義とは違い、演習問題、解説、数学的な補足、が充実しており、バックグラウンド知識がなくても、めちゃくちゃ勉強になります。実際、ノートで問題を解きながら一章までは内容を追って行きました。恥ずかしながら、演習問題の8割は自力解けませんでしたが、解説がしっかりしているため、とり残されることはなかったです。
牙を剥くのは第二章からです。数学的な話が増え、自分の基礎学力の低さに挫けそうになりました。ここら辺から読み方が変わり、自分で解きながら、、ではなく、すぐに答え•結論を見ることで自分の量子化学計算ソフトで使っている知識に帰納的に繋げることに集中しました。そのような読み方は邪道かもしれませんが、本書が量子化学計算ソフトユーザーを意識しているためか、定期的に聞き覚えのある単語が散りばめられており、理解の助けになりました。
例えば計算化学をやっているとSCFが収束しない。。。なんてワードを定期的に聞きますが、それが何か分かりますか?僕は正直なんとなくでドヤっていました(意味もわからずSCF=QCで解決)が、本書を読んで理解が深まりました。
一周読み終えた感想としては、まだまだ理解しきれていないな。。という感じです。100ページ程度とたかを括り数日で一気読みするのは間違いでした。
間違いなく良書。正直、今まで聞いた。読んだ。量子化学の話の中で一番丁寧だったと思います。二週目からはじっくり読むことで、めちゃくちゃ難しい量子化学の理解がより深まるだろうなとワクワクしています。
また、本書は1巻、、ということでHF法までしか入っていません。量子化学計算の花形: DFT、td-DFT、摂動論などはおそらく今後の巻で解説されるのでしょうか?
少なくとも僕は、このシリーズ一通り買いたいなと思いました!将来、自分が量子化学の授業を持つことになったとしたら、全力で参考にしたいです。