hodaです。今回は1993年に刊行され、2022年7月に文庫化された書籍について書いていきたいと思います。初版は30年くらい前ということですが、今回文庫化されたことでさらに手に取りやすくなったのではないでしょうか。
概要
ペニシリンやナイロン,面ファスナーなどのような日常生活に関わる発明,ニュートンの重力理論やビッグバン,DNAなどのような科学的に重要な知識,そしてロゼッタストーンやポンペイ遺跡,死海文書のような考古学上の重要な発見まで,「偶然」の要素が大きく関わっていた.歴史を変えた発見にまつわる興味深いエピソードを紹介し,小さな偶然とそれを見逃さなかった洞察力が,数々の成功へとつながる創造の過程を追った名著,文庫版で復活.
(引用元:化学同人HP)
対象者
誰でも。特に学生。中高生でも楽しめると思います。
内容と感想
本書籍は、タイトルにもある「セレンディピティ」をキーワードに、様々な発見(特に化学関連が多い)に関するエピソードが詰められています。各エピソード(章)は5~15ページくらいと短く区切られているので、大変読みやすいと思います。
全36章の各エピソードのタイトルは次のようになっています。
目次
1章 史上初のストリーカー
2章 新世界の発見
3章 マラリアにかかったインディオとキナキナの木
4章 りんごはなぜ垂直に落ちる
5章 カエルの脚と電池(電池/電磁気学)
6章 乳しぼりの女と天然痘のワクチン
7章 元素発見をめぐるさまざまな物語(酸素/ヨウ素/ヘリウムおよび他の貴ガス)
8章 麻酔剤発見の栄誉をめぐる争い
9章 有機化学を生んだ尿素合成
10章 ダゲールと写真の発明
11章 天然ゴムと合成ゴム(合成ゴム)
12章 分子でも左手型と右手型では大違い
13章 合成染料と合成顔料をめぐって(パーキンとモーブ/グレーベとリーベルマンとアリザリン/壊れた温度計とインジゴ/ダンドリッジとモナストラルブルー)
14章 夢から生まれた分子の建築
15章 ノーベル賞とダイナマイト
16章 象牙や絹糸をつくる(セルロイド/レーヨン)
17章 新しい化学工業を生んだ実験室での偶然
18章 努力しないで成功するには――考古学におけるセレンディピティー(予想外の「掘り出し物」/干上がった湖/自然に現れた遺物/自然もときには手助けする/爆弾でも助けになる/少年と洞窟/スポンジダイバー)
19章 天文学におけるセレンディピティーとの遭遇(ビッグ・バン/パルサー/冥王星の月)
20章 医学における偶然の発見(インスリンの発見/アレルギー、アナフィラキシー、抗ヒスタミン薬/ナイトロジェンマスタードとがんの化学療法/ピル(経口避妊薬)/LSD/パパニコロー法/光と新生児黄疸/コレステロール受容体)
21章 X線、放射能、そして核分裂(レントゲンによるX線の発見/ベクレルによる放射能の発見/人工放射能と核分裂)
22章 どんなに甘くても太らない
23章 飛び散らない安全ガラス
24章 抗菌性物質――発見への道(サルファ剤――ドーマク、フルノー、トレフェル夫妻/マガイニン類――カエルの皮膚から得られた抗菌物質)
25章 成功の決め手――冷延伸法
26章 装置の漏れと汚れがくれた贈り物
27章 原子爆弾からフライパンまで
28章 「花」理論とアンチノック剤(エチル液/メタンからガソリンをつくる)
29章 偶然見つかった予想外の効き目(アスピリン/向精神薬/不整脈治療剤――これで夜もぐっすり/ミノキシジル――髪の毛もびっくり/インターフェロン――がんと関節炎)
30章 汚水と泥からとれた薬(セファロスポリン/シクロスポリン)
31章 拓かれた有機合成の大地(ヒドロホウ素化(ハイドロボレーション)/アルケンの合成)
32章 タフな奴――ポリカーボネート
33章 現代生活への贈り物(アイボリー石鹸/コーン・フレークスとウィート・フレークス/ポスト・イット/スコッチガード)
34章 生命の渦巻き
35章 着想、誤解、そして偶然
36章 クラウンとクリプタンド
エピローグ――偶然はいかにして発見となるか
全36章あり、すべての章についてご紹介することは難しいので、ここからは私の独断と偏見で3つの章を選んで感想を書いていきたいと思います。
8章:麻酔剤発見の栄誉をめぐる争い
一酸化二窒素やエーテルといった麻酔剤の発見にまつわるお話です。麻酔剤が現代の医療にもたらした影響が大きいからこそ、栄誉をめぐる争いは起きてしまったのかもしれません。このように、本書は偶然の発見に関するハッピーなことばかり書かれているわけではありませんし、他の章のエピソードも戦争中に発展した技術が多いです。決してハッピーな話ではないですが、歴史などすべて含めて勉強になると思いました。
17章:新しい化学工業を生んだ実験室での偶然
この章では、フリーデル―クラフツ反応にまつわるたくさんの話が記載されています。フリーデル―クラフツ反応は、ハイオクタン価ガソリン、合成ゴム、プラスチックの製造にもお用されている実用上重要な有機反応と言われています。実用例がたくさん紹介されているのに加え、発見した人物であるフリーデルやクラフツのエピソードも紹介されています。フリーデル―クラフツ反応と言われてもすぐには思い出せない(たぶん講義でも勉強したかもしれない)ような学生である自分的には、一番印象に残った章です。
26章:装置の漏れと汚れがくれた贈り物
ポリエチレンと高密度ポリエチレンの発見についてのお話です。ポリエチレンの重合を触媒する酸素が装置の漏れによってもたらされたものであり、高密度ポリエチレンは使用した容器の汚れが触媒となったことがそれぞれ発見につながったことが紹介されています。装置に漏れがあることや、汚れが残っていることは再現性に乏しくなるので一般的にはよくないと思いますが、得られた結果の原因をしっかりと調べたことが発見に至ったということが強調されているように思います。
また最後のエピローグでは、本書籍内で紹介された幅広い分野における「セレンディピティ」全体を俯瞰した素敵な文章だと思いました。
有名なエピソードも多数記載されているので、どのような話か前に聞いたことがあるような話もあるかもしれません。セレンデピティ関連の話はサクセスストーリーでもありますが、本書籍は表紙の裏にも書かれているように「示唆に富む人間ドラマ」といった、ひたすら過程を追っていた感じがしました。
冒頭の画像は、化学同人HPから引用しました。