東京農業大学の松島教授を中心に執筆された有機化学の基礎書です。松島教授は大変教育熱心で有名で、有機化学反応機構アプリも自身で開発し発売しています。
日本の有機化学の基礎書は、マクマリー、ボルハルトショアー、ブルース、ジョーンズ、ウォーレン(これは少し発展)など、基本的には海外発の訳書が多いです。もちろん日本発の基礎書もありますが、ボリュームでは前述した海外書籍に及びません。
満を持して2022年4月に発売された本書は、純国産。500ページ以上のボリュームをもち、5500円と海外の訳書よりも安い(海外版は2分冊が多いです)ことから、特に有機化学の講義時間をたくさんとれない大学では重宝される気がします。
では内容を見ていきましょう。
概要
初学者に最適の教育的配慮の行き届いた2~4コマ用オールカラー教科書。
● オールカラーで、見やすく、学びやすく、わかりやすい!
● 内容を基本事項に絞り、その分ページを割き、ていねいに説明!
● 当たり前に思えても学習者がつまづきがちなことをAssistでフォロー!
● 電子の動きや分子の形を視覚的に理解できるオリジナル動画あり!
● 医・薬・農・食などに結びつく興味深い話題を随所に紹介!(引用:化学同人)
対象者
大学(特に1-2年生)で有機化学を学び始めた学生
内容と感想
まず率直な感想から。めちゃくちゃ丁寧ですね。しっかり他の基礎書を読み込んだことは無いのですが、ブルースやジョーンズ、いやそれ以上に丁寧に記載されています。しかし、それらよりページ数が少ないので、内容は他の2冊組の基礎書に比べると少し易しめですね。とはいってもあんな分厚い本を2冊(マクマリーに至っては3冊)もっていてもしっかり読み込むのは院試前の有機化学系の学生ぐらいじゃないでしょうか。ましては、訳書でなく英語版を使っている大学もありますが(筆者の大学も然り)、なぜ日本語で講義をするのに英語版を使うのか全く理解ができません。
そう、大半の学生にとって書籍は、分厚い本をもっててかっこいいという自己満足にさえも至らないただの重荷になりさがっているのです。それならば要点をしっかり教えて、それを補佐するぐらいの内容があれば十分ではないか。と思います。本書は、そういった意味ではかなり最適な書籍に思えます。
そうはいえど500ページあるので、あらゆるレベルのひとの興味を引くような話題がなければいけません。
まず、真面目な話から。反応機構がちゃんと載っていないものは大学の教科書じゃないですね。はいこの書籍は、しっかりと丁寧に記載されているので大丈夫です。
一方で、基礎書の中では易しめといえど、小さな文字で”難解な話”をつらつらと記載されているので、まあ普通にわからなくなるor飽きますね。そんなときにおすすめなのが、欄外にあるAssistとTopic、あとプチAdvancedです。Assistはその名の通り、要所にでてくる用語を理解を助けてくれる役割をしています。Topicは関連する小話、プチAdvancedはこの基礎書の範囲からは少しだけ逸脱しているけど面白い話ですね。
もちろん他の書籍の様にコラムも散りばめられており、有機化学を学ぶ意味や歴史などが記載されています。どちらかというと本文よりもこっちのほうが目がいってしまいます。そう、講義中の先生のくだらない雑談、よく覚えていませんか?そこまでくだらなくはないので印象はそれよりは薄いですが、独学するときに集中力を切らさない工夫がされています。コラムには化学がでてくるDr. Stoneの話もありました。
Dr.STONE 公式ファンブック 科学王国事典 (ジャンプコミックスDIGITAL)
さらによくあるかもしれませんが、各賞で分子モデルをみたほうが理解が深まるものは、しっかりと短い動画も準備されています。実はこの動画書籍をもっていなくてもみれるので、講義中にちらっとみせるのに使えるかもしれません。よりかっこよく秀逸な動画もYoutubeにはありますが、動画自体が長いんです。例えば、以下のシクロヘキサンの環反転。シンプルです、短いですが、これでわかりますよね。
最後に、前述しましたが500ページなので要所はおさえているくせに、軽いんですね。リアルな重量が。これなら持ち歩くだけ無駄な英語版よりは少なくとも学生はもちあるきよんでくれそうです。
あえて欠点をいうのならば、なぜもっとキャッチー(orわかりやすい)な名前にしなかったのか。普通すぎます。他の書籍と区別しづらいです。
ちなみに、筆者の大学ではマクマリー英語版を使っていますが、まじめに教科書の変更を検討しているので、あまり背伸びをしなければこれでありなんじゃないかと思いました。そもそも有機化学の基礎書にあてれる時間が全部で講義30回分しかなく、どうかんがえてもtoo muchなんですね。しかも筆者は丁寧にレジュメをつくっているので、教科書開いていない人もいるんじゃないかと。そういった状況を打破する書籍の第一候補として考えようと思いました。おすすめです。