未来を拓く多彩な色素材料: エレクトロニクスから医科学にまで広がる色素の世界 ((CSJ: 40)) (CSJ Current ...
概要
近年の「色素」分子の機能の研究は,色素分子にとどまらず,分子間の配向・分子配列や他の化学物質との相互作用に起因する特異な分光特性,色素分子どうしや他の材料との電子やエネルギーのやりとりに基づく電子物性によって,色素機能が発現するところまで,「色素材料」として応用研究が展開している.色素材料を活かした環境センシングや医療応用のがんイメージングなど,先進的研究を紹介する.(引用: 化学同人書籍紹介より)
対象者
- 色素材料のフロンティアを覗きたい材料化学者
- 有機合成の応用先を学びたい合成化学者
- 様々な研究分野を広く学びたい学部生・大学院生
- 研究室配属先に悩む学部生
目次
第Ⅰ部 基礎概念と研究現場
1章 Interview フロントランナーに聞く(座談会)
今堀 博(京都大学),木村 睦(信州大学),八木 繁幸(大阪府立大学),内山 真伸(東京大学)
司会:南後 守(大阪市立大学)
2章 Basic concept-1:研究の現状と今後の展望
3章 Basic concept-2:色素材料の基礎(有機化学分野)・Basic concept-3:色素材料の基礎(物理化学分野)
第Ⅱ部 研究最前線
Section 1 光をエネルギーに変換する色素材料
1章 色素増感太陽電池の高効率化を指向した機能性色素の開発
2章 有機薄膜太陽電池用高分子材料の開発
3章 機能性色素材料を用いた多機能デバイスの創成
Section 2 表示デバイスを目指した色素材料
4章 リン光材料による白色有機EL素子の実用化
5章 熱活性型遅延蛍光を利用した有機EL用青色発光材料の創出
6章 メタロ超分子ポリマーのエレクトロクロミック特性と表示デバイス応用
7章 有機エレクトロクロミック材料を用いた調光および加飾シートの開発
Section 3 環境をモニターする色素材料
8章 機能性色素を基礎とする分子センサーの開発
9章 分子間相互作用を制御した蛍光性色素のメカノフルオロクロミズム
10章 発光色変化を示す希土類分子材料の開発
Section 4 医療科学への応用を目指した色素材料
11章 超解像蛍光イメージングに向けた光スイッチ型蛍光色素の研究動向
12章 アクティベイタブル蛍光プローブの研究開発から実用化まで
13章 機能性色素を用いた光音響効果による癌イメージング
14章 フタロシアニンを基盤とする機能材料の開発
Section 5 新しい色素材料のコンセプト
15章 液体色素の科学と応用
16章 希少金属を含まない室温リン光材料の創出
17章 色素材料によるフォトンアップコンバージョン技術の開発
18章 シングレットフィッションによる高強度近赤外OLED
第Ⅲ部 役に立つ情報・データ
① この分野を発展させた革新論文
② 覚えておきたい関連最重要用語
③ 関連有用情報
内容
化学同人より出版されている「CSJカレントレビュー」シリーズ第40弾です。本書のトピックは「色素材料」。その名の通り、有機色素、もしくは金属錯体の応用例が、最先端の研究とともにまとめられています。
他のCSJカレントレビューシリーズ同様の構成で、第Ⅰ部 第1章にてフロンティアランナーへのインタビューから現在の研究傾向・将来の見通しを明示したのち、第2章以降で基礎的な知識の振り返りがなされます。そして第Ⅱ部では研究最前線と銘打って、日本で活躍する研究者の方々の研究総説がまとめられています。最後の第Ⅲ部はデータ集として、重要な論文・用語集がまとめられているため、より深い学習に使用できます。
感想
軽い気持ちで購入し、読み終えた一冊。。感想としては、「めっちゃよかった!!!」の一言に尽きます。
もともとCSJカレントレビューの大ファンだったのですが、分野が近しいこともあって、大興奮で読み切りました。
第一章フロントランナーの座談会では、色素材料の歴史が語られています。思ったより、色素材料やバイオイメージングが学問として体系化されたのって最近なんだなって印象でした。今当たり前のようにもってる知識や、一歩引けば古い知識と思ってしまうような知識・知恵は想像していたよりもフロンティアなのだな、、と。論文を読む上での分野への尊敬度が上がりました。
第二章は色素材料の基礎概念。京大今堀先生が色素材料を知る上での基礎。光と分子の関係性について大事な概念をまとめてくださっています。光化学の専門書の内容を4ページダイジェストで触れる、、様な形で、この内容を知っておくだけで、分野への参入のしやすさが大きく変わるだろうなと感じました。
第三章は色素材料の基礎、というコンセプトで実際の実験で必要な基礎がまとめられています。スペクトルの測り方や、Gaussianの使い方基礎まで。第二章同様、参入障壁を下げる努力がされていると感じました。
そして第Ⅱ部!!セクションごとに応用先を大まかに分けて最先端の研究が紹介されています。
これが本当に面白い!
色素材料を扱っている上でのストレスとして、新規共役系分子を合成しても、その応用先が多すぎて、どこにメリットを見出せばいいのかわからない。逆に何でもいいのではないか(一つくらいは応用先が見つかるのではないか)と錯覚してしまう。。。みたいな点があります。
そのような浅はかな考えを打ち砕くかのように、一つ一つの応用先で必要な物性、それらの物性を達成するための分子設計の歴史・苦労がまとめられています。この本を一冊読めば、価値のある色素材料を設計する上でクリアするべき最低限の課題、鍵となるコンセプトが見えてくると思います。その考えのもと、分子を見直せば、どれだけ、その一つの構造に知恵が集約されているか分かり、興奮し放しでした。
どれも面白いのですが、僕のおすすめは、4章の「リン光材料による白色有機EL素子の実用化」についてのディスカッションでした。コニカミノルタからの記事で、企業視点の実用性への課題が述べられた上で、アカデミックにも通用する分子レベルの解決策が語られていて、ドキドキが止まらない記事でした。
以上、他のCSJシリーズと同様、またはそれ以上におすすめできる教科書でした。
コンセプトとしては古くからありつつも、応用面•光物理の面で解像度が益々上がってきている色素の世界。を俯瞰するのに最適な一冊です。
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