『化学系学生にわかりやすい 平衡論・速度論』(酒井 健一 著、コロナ社)という書籍をご紹介します。
[amazonjs asin=”4339066540″ locale=”JP” title=”化学系学生にわかりやすい 平衡論・速度論”]概要
物理化学には化学熱力学、化学平衡論、化学反応速度論、量子化学、電気化学等がある。このうち、本書で取り上げる化学平衡論は、可逆反応において順方向の反応と逆方向の反応速度が釣り合い、反応物と生成物の組成比が巨視的なレベルで変化しないという理論である。また、化学反応速度論は反応速度の測定により反応速度式を求め、それを検討することにより化学反応機構を明確にするという理論である。この化学平衡論と化学反応速論は、無機化学や有機化学を勉強する上で基礎となる学問領域である。(「まえがき」より)
身近な「化学平衡」といえば、私達のカラダは様々な生体化学反応の平衡により成り立っていると言っても過言でありません。例えば高血糖の場合はインシュリンを分泌しグリコーゲンの合成を促進するように、体内の環境を維持する機構が沢山そなわっています。世の中の物質の変化とは「化学反応」であり、その反応のメカニズム(反応機構)を理解することは、とても大切なことです。
本書は、すべての化学反応の基礎となる反応速度論・平衡論を理解するために、基礎的な式の導出から、酵素反応の反応式などの応用例までカバーした参考書となっています。
目次
- 化学平衡論:基礎編
1.1 序論
1.2 化学熱力学の法則と自由エネルギー
1.3 化学ポテンシャルと圧平衡定数
1.4 相平衡と状態図
1.5 希薄溶液の性質- 化学平衡論:応用編
2.1 多成分系の相平衡
2.2 生態系における相平衡 ーHbの多段平衡論を中心にー
2.3 生態系の多段平衡のpH依存性 ーHbのボーア効果ー
2.4 解析例まとめ- 化学反応速度論:基礎編
3.1 反応速度とは
3.2 反応速度式と反応次数
3.3 種々の次数の化学反応の反応速度
3.4 いろいろな反応
3.5 反応速度の温度依存性- 化学反応速度論:応用編
4.1 反応機構の応用
4.2 生体系における化学反応速度論 ーMbおよびHbを中心にー
4.3 酵素反応速度論
4.4 高速反応測定法
本書の大部分は、平衡論・速度論を記述する式の導出を説明しています。構成はシンプルで、化学平衡論:基礎→応用、化学反応速度論:基礎→応用という流れになっています。
各章末には章末問題があり、巻末には模範解答がついています。章末問題に取り組む事で、理解度のチェックができるので、わからない部分は本編に戻って読み直し、理解度の向上に役立ちます。また、章末問題が導出した式の具体的な使い方の一例にもなっていて、具体的にどう使うのか?という疑問に答えてくれる部分になっています。
感想
まず前提として、全体を通して数式が多く出てくるため、読破と理解にはそれなりの根気が必要です。「化学系の学生」の中でも、ケムステ読者に最も多い有機化学、生物有機化学を専門とする学生は、第4章の化学反応速度論:応用編が最もとっつきやすい内容だと思いました。やはり、物理化学という性質上、式を理解する上での前提知識となる基礎的な事項を前に置くので、実際によく使うアレニウスプロットやラインウィーバー・バーグプロットなどに到達するまでが非常に長く感じます。理論化学・物理化学を専攻する学生は前から順を追って基礎的な式の導出を勉強するのに良い構成であると言えます。一方、有機化学系の学生は、4章→3章と逆読みした方が、挫折せずに読めると思います。
新規反応の反応機構解析や酵素反応の機構解析などに取り組む際、どの様な実験値を取れば良いのか、またそれをどの式に当てはめて解析すればよいのかというガイドラインが最も知りたい所です。本書はこれを理解するための理論の解説書であるため、本書で理論を勉強した上で、論文などで改めて実際の解析例を勉強すると、より深い理解に繋がると思います。
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