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化学工学

DNA origami入門 ―基礎から学ぶDNAナノ構造体の設計技法―

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概要

本書は、従来のものづくりの方法論を根底から変革するDNA origamiについて,一から解説した入門書です。DNA origamiは,約7,000塩基をもつ長い一本鎖DNAと膨大な短い一本鎖DNAを混ぜ合わせてさまざまな形状のナノ構造を創り出す技術で,現在最も強力な分子設計・作製手法の1つとなっています。このため,DNAナノテクノロジーにとどまらず,分子生物学や物理学,電子工学といったさまざまな分野からも注目され,多種多様な応用研究がなされています。本書は,DNA origamiがどのような手法で,何ができるのかについて,基本中の基本から解説したうえ,読者がPC1台さえ用意すればいますぐにでも始められるように,最もポピュラー,かつスタンダードな設計ソフトウェア“caDNAno”による実際の設計方法を順を追ってていねいにまとめています。本書1冊で,まわりに詳しい人がいなくても,本格的なDNA origamiの設計開発が始められます。(引用:オーム社

目次

第1章  構造DNAナノテクノロジーとは
第2章  まずは素材を知ることから,二重らせんのDNA分子とは
第3章  2本のDNAをつなげた,ヌンチャク型のDNA構造を設計してみよう
第4章  DNAでつくる十字,ホリデイジャンクション
第5章  シンプルな構造単位,ダブルクロスオーバータイル
第6章  2次元DNA origamiの基本を学ぼう
第7章  DNA origamiの可視化・シミュレーションソフトウェア
第8章  DNA origamiの設計図を最適化しよう
第9章  3次元DNA origamiへの拡張
第10章 基本操作を駆使して設計する,DNA origamiの連結構造
第11章 最新のDNA origamiの研究動向
第12章 DNA origami構造の作製
第13章 DNA origami構造の観察

対象

オーム社の書籍紹介では、生物工学,機械工学,制御工学,システム工学,計算機科学,高分子化学の実務者,学生(特に生物物理分野,バイオナノテクノロジー分野)とされています。本書にはDNA origamiを設計ソフトウェアであるcaDNAnoの使い方だけでなく、DNA origamiを設計する上で重要なDNAの化学的・物理的性質についても解説しています。そのため、DNAについて詳しくないがDNA origamiについて興味がある方や、caDNAno上でDNA origamiを作ってみたい方にも手に取ってほしい書籍です。研究室に配属前の大学生や高校生も、ぜひこの本を読んで面白いナノ構造体をデザインしてほしいと思います。

解説

DNAで一般的に思いつくのは遺伝物質で、どの生物の細胞内に存在するものをイメージされると思います。しかし、DNA origamiでは生物は関係なく、DNAを分子材料として活用することでナノ構造体を作ることを意味します。ナノ構造体を作る方法としては、フォトリソグラフィーをはじめとする超微細加工技術を使うアプローチ、有機合成で分子をくみ上げていく化学的アプローチなどが有名です。超微細加工技術を使うアプローチでは、非常に高価で大型の装置とクリーンルームが必要で、大きなチームで研究が進められています。化学的アプローチでは合成ステップによっては反応や精製に手間がかかる場合があり、どんな反応で合成するかが重要な課題です。一方、DNA origamiによるナノ構造体では、購入したDNAを実験室で混ぜ、サーマルサイクラーで処理することで作り上げることができます。実際に合成する手間は少ないものの、分子を一から組み上げていくわけではないので、独特の制約があり、それをうまくコントロールしながらナノ構造体をデザインすることが重要です。本書ではそんなDNA origamiをデザインする方法を解説しています。

Shawn Douglas助教によるcaDNAnoの紹介

では、書籍の解説に移りますが、第1章では、上記で挙げたようなDNA origamiによるナノ構造体の構築の特徴やデザインするツールについて紹介しています。必要な装置や試薬とその価格といった実務についても触れていますので、実際の合成も検討している場合にも役に立つと思います。第2章は、caDNAnoのインストール操作感の確認がメインです。PCにcaDNAnoをインストールしましたが、ソフトのインストールで一般的なインストーラーはなく、Python上で実行する必要があります。公式サイトの解説はいろいろなインストールの方法を記しており上級者向けと感じます。一方本の解説は大変シンプルで、こちらを参考にすることで迷わずにインストールすることができました。

caDNAnoは、DNA origamiをデザインするために設計されたDNA鎖描画ツールです。左に配置されている円の集合体ははスライス画面と呼ばれ、DNA鎖の頂点から見た様子を示し、どの座標にDNA鎖を配置するかを決めることができます。右に配置されているパス画面においては、矢印でDNA鎖を示し、目盛りでDNA鎖同士のの位置関係を知ることができます。

caDNAnoの操作画面

第3章から第6章ではcaDNAnoの使い方が主の内容で、ヌンチャクホリデイジャンクションダブルクロスオーバータイルと章を重ねるごとに複雑な構造物の作成にチャレンジしていき、最終的には平面のDNA origamiをデザインできるようになります。caDNAnoの見た目はシンプルですが、DNA鎖を思い通りにつなげるには現象の理解が必要で、またソフトも独特の操作感があり何もなしで使いこなすのは難しいと思います。そんな癖のあるツールについて本書では使用する機能とその操作方法が画面の図とともに丁寧に解説されており、DNA origamiをデザインする楽しさを感じながら課題の構造体をデザインすることができました。

caDNAnoではDNAを単に矢印で表しているに過ぎず、DNAの3次元構造や化学構造を確認するためには別のソフトウェアが必要です。また分子は静止しているわけではなく、いろいろな相互作用によって常に動いています。第7章ではcaDNAnoから少し離れて、デザインしたDNA origamiを可視化したりや熱力学パラメーターをシミュレーションする方法を紹介しています。具体的には、各研究チームが開発したフリーのツールが紹介されていますが、caDNAno同様、使い方が簡潔にまとめられていて、使い始めの障壁を下げられているように感じました。

平面構造のDNA origamiをCanDoによって有限要素シミュレーションを行った結果、図はX,Y,Z方向からの三次元図を示し、色の違いは熱平均二乗ゆらぎをしめす。

第8章では2次元DNA origamiの最適化について解説しています。前述の通り、実際のDNA origami構造体がcaDNAnoのデザイン通りになるとは限らず、相互作用によってねじ曲がったりうまくDNAの2重鎖が作られない場合があります。これらの問題に対して、分子モデルや筆者の経験則を踏まえて、caDNAnoのデザインを最適化するテクニックが説明されています。各章の例題と標準構造のデータは、著者のサイトに掲載されているため、正解の構造を自分のパソコンでじっくり確認することができます。

第9章では直方体といった3次元構造のDNA origamiデザイン、第10章では2次元の三角形構造といった入門としては最上級のテクニックを勉強します。目標の構造が複雑になってもcaDNAnoの基本操作は同じなので、本の手順を行えば、三次元構造を作ることは簡単にできました。第11章では最新のDNA origamiの研究動向として、caDNAnoでは直感的にはデザインできない構造を紹介しています。さすがに手は出せませんでしたが、caDNAnoでの設計図にはどのようなDNA鎖で作られているかが確認できます。第12,13章では実際に実験室でDNA origamiを合成する方法観察する方法が解説されています。具体的な実験手順も掲載されているので、ナノ構造体の合成に初めてチャレンジする場合に参考になるかと思います。

DNA origamiの材料は、ATGCの塩基対であり、直管ではなく螺旋構造をとります。また、レゴブロックのように小さなパーツを組み合わせていくのではなく、Scaffoldと呼ばれる長い環状のDNAをStapleと呼ばれる短いDNAをうまく組み合わせて、構造体を作るものであり、結合の位置や角度、Stapleの長さなど、様々な制約があります。その制約をコントロールしながら、いかに面白いものを作るのがDNA origamiの醍醐味であり、本書ではうまくDNAを配置する方法と共にどうしてそのような制約があるのかの化学的な解説が加えられています。そのため単にcaDNAnoを使いこなすための解説書としてだけでなく、DNAという材料を理解し、DNA origamiのナノ構造体としての応用とその課題を認識させられる内容になっています。

著者は、東北大学大学院工学研究科ロボティクス専攻分子ロボティクス分野 村田・川又/野村研究室の川又 生吹助教、鈴木 勇輝助教、村田 智教授で、DNA origamiを使って人工的に細胞の機能を発現させる研究を行っています。

2021年2月には、DNA origamiで四角いチューブを用いた膜ナノポアを設計し、細胞膜の内外から分子の選択的な輸送に成功した論文を発表しています。また、ツールの開発も行っており、caDNAnoでデザインした構造体のファイルを自動的に変換し、分子動力学をシミュレートするようなシステムの開発されています。

膜ナノポアの三次元構造(a,b)と実際のTEM画像(c,d)、膜ナノポアが巨大人工脂質膜小胞に結合した時のTEM画像(g)(出典:原著論文

さらに生体分子を設計して、ナノ~マイクロメートルのモノづくりを競う、学部生を対象とする国際コンペティション、BIOMODにも毎年参加しており、優秀な成績を収めているようです。

2018年度の作品動画、この作品でグランドプライズ(総合優勝)されました。

本書は、そんなDNA origami研究を日本でリードしている研究グループが執筆された日本語の入門書であり、ぜひ手に取ってDNA orinamiに興味を持ち、caDNAnoでいろいろなナノ構造体のデザインにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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