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分析化学

[書評]分子の薄膜化技術

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[amazonjs asin=”4339009385″ locale=”JP” title=”分子の薄膜化技術: 有機EL,有機トランジスタ,有機太陽電池などの有機薄膜デバイス作製技術に向けて”]

概要

スマートフォンや大型ディスプレイに搭載されている有機ELは、1980年代から世界中で熾烈な研究開発が行われてきましたが、カーナビ用の小型パネルや携帯電話のサブディスプレイとして世界に先駆けて日本で製品化されました。一方、これらの基礎となる「有機半導体」の概念を1950年代に研究の俎上に挙げたのは井口洋夫先生たちであり、1970年代から始まる電荷移動型錯体や導電性高分子等の有機金属の研究をリードしてきたのも日本の研究者です。今まさに先人の努力が、一般の方々も使えるエレクトロニクス・デバイスとして実用化が進んできています。このように、応用・実用化が進んでいるときこそ、初心に帰り、有機分子の持つ特徴的な構造、異方的な凝集機構およびその制御法について理解することが必要と考えます。
本書は、薄膜構造・物性および作製法において、既存の成書では多くは語られてこなかった光電子機能有機分子を取り上げ、金属や無機薄膜とは異なる特徴を有する分子薄膜の作製・評価技術に特化したものです。
本書の構成と内容は以下の通りです。
第1章 有機薄膜概論:有機分子の「形」と「分子間に働く力」の異方性に着目し、薄膜構造・凝集機構における分子配向・配列の概念の紹介
第2章 有機結晶学入門:結晶学の観点から有機結晶の特徴、特に、分子配向・配列構造の紹介
第3章 有機薄膜成長の基礎:一般の薄膜成長における原子(点)ではなく、特異な構造を有する有機分子の表面拡散・凝集・核発生・薄膜成長などの機構につき、現象論と確率論に基づく議論および非晶質(アモルファス)膜の成長機構の紹介
第4章 エピタキシャル成長:無機結晶表面での有機分子の異方的な配向・配列による成長機構の説明
第5章 有機薄膜各論:棒状(アルカン)・平板状(フタロシアニン)・球状(フラーレン)等の分子形状に着目した有機薄膜の構造と凝集機構の説明
第6章 有機薄膜の作製法:湿式(ウェット)と乾式(ドライ)作製法の紹介。特に、水面上の単分子膜とその積層によるラングミュア・ブロジェット(LB)法、インクジェット法やマイクロコンタクト法などの印刷法、そして、有機分子ならではの蒸着重合法や間圧転写法などのユニークな手法も紹介
第7章 有機薄膜の構造・分子配向の観測法:電子線やX線を用いた構造・物性評価、各種顕微・分光法による分子配向の評価法、原子間力顕微鏡による分子構造および分子配列の観察法、そして表面潤滑・摩擦(トライボロジー)および熱(蒸気圧)や接触角などの手法の紹介
また、途中で「アモルファス中の分子配向」、「計算機シミュレーション」、「その場観察」についてのコーヒーブレイクを挿入
本書は、応用物理、材料科学、化学・高分子、電気電子、などの大学生や大学院生、企業におけるエレクトロニクス関連の材料・デバイスの研究に携わる方々の入門書(自己学習用教材)として企画・執筆しています。関係する文献もできる限りのものを引用させていただいています。10年後の日本の、そして世界の科学技術を支え、ポストコロナを生き抜く新しい産業のために貢献できればと思っています。

引用:コロナ社HPより

対象者

薄膜サンプルを作成したい研究者向け。大学院生あるいは興味のある学部生向け。

内容

薄膜サンプルの作製技術のいろはに関してまとめております。内容としては大別して薄膜化技術のための基礎的な事柄から実際の薄膜化の例に関して多数掲載されています。1章-4章では結晶成長の観点から薄膜作製に関して基礎的事項および理論的解釈が教科書的に網羅されています。5章、6章では実際の有機薄膜の例について様々な有機分子を例にとって作成方法や構造などが述べられています。7章では、有機薄膜分子配向の観測技術に関して手短にまとめられています。またコーヒーブレイクのトピックとしても研究に関わる話などが紹介されています。

1章では、有機分子の構造および分子間力、薄膜デバイスについて述べられています。有機分子には当然ながら異方的な形があるため、従来の金属などでの原子論的な結晶成長の議論は適用できないことが述べられています。有機導電体などを例に出し、薄膜サンプルの重要性が述べられています。2章では有機結晶学入門として有機結晶について基礎的な事項が述べられています。本文中に述べられていますが、有機結晶では対称性の低い単斜晶系と三斜晶が全体の3/4を占めると書いており、それには少し驚いてしまいました。一応結晶の本ではあるのですが、液晶に関しても述べられており、裾野の広さが感じられます。

3章では、有機薄膜成長の基礎と題して有機薄膜の形成過程について詳細な物理モデルから述べられています。薄膜の成長の素過程においては1)固体表面からの蒸発過程、2)固体表面への分子の吸着過程、3)表面拡散、4)凝集過程、5)捕獲・合体過程、6)連続膜となるための薄膜成長過程があります。その素過程を一つ一つ考える必要があるためには非常に複雑です。それらの素過程を見るためのin-situおよびex-situな過程が紹介されています。また教科書的な話として、現象論(熱力学)的な取り扱いと確立論(速度論)的な取り扱いについて紹介されています。現象論的な取り扱いでは結晶核・クラスターに関する熱力学的な考察をもとに、核の形成に重きをおいて議論する方法であり、結晶成長の専門家から好まれる手法です。一方で確率論的な取り扱いではクラスターへの分子の補足と再蒸発を考慮した速度式を用い、分子の数を時間の関数として表現した連立微分方程式をもとに議論される方法であり、薄膜成長を専門とする研究者から好まれる手法です。この書籍では中立的な立場から両者のモデルにおいての取り扱いを紹介しています。さらに分子の異方性を考慮する手法や非晶質での結晶成長の考え方についても手短ではありますが述べられています。

4章ではエピタキシャル成長について述べられています。基板上への分子薄膜を成長させる際には独立な核生成、結晶成長がある場合にはランダムな配向となり多結晶薄膜が得られる場合が多いのですが、成長薄膜と基板との相互作用を利用することにより、基板の方位と成長薄膜の方位が一致したエピタキシャル成長を起こすことが可能となります。無機基板の上に有機結晶を成長させる場合が多いので、それらにおける表面粗さの影響や格子不整合性などについて述べられており、実際には5性における紹介の章となっています。

5章では有機薄膜各論に関して述べられています。実にこの章だけで100報の論文を引用しており、日本語で書かれた総説のような章です。分子の形状をもとに1次元鎖状分子から平面上分子、球体の分子の薄膜について多く述べられています。4章で述べられていたエピタキシャル成長に関しても具体例を基に記述されており、この分野に携わる研究者あるいは学生はぜひとも読んだほうがいいのではないのでしょうか?6章でも薄膜の作成法に関して125報の論文を引用してまとめられており、薄膜作成方法やその際の注意点について述べられています。7章では薄膜の構造・分子配向の観察方法に関して実際の像をもとに紹介されており、5-7章は関連分野の研究に携わる研究者はわかりやすく読めるのではないかと思います。

本書は有機薄膜に特化した書籍であり、従来の金属薄膜などの手法を取り入れながらも最新の方法に関して紹介している書籍であり、研究者向けだとは思いますが、将来的にそのような分野に携わりたいと思う学部学生も読んでみると実際の研究がイメージできて良いかと思われます。

はいぶりっど。

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はいぶりっど化学者。好きな言葉は"The sky is not limited"

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