概要
巷にあふれる食をめぐるさまざまな情報. 〇〇は身体によいらしい,ダイエットには△△を摂るとよい, ×× には発がん性がある……. 信頼に足る情報はどう見極めたらよいのか. さらに,グローバル化が進展する世界で,食の安全をめぐる問題も,自国だけの問題に留まらなくなっている. 「すべての人に適切な情報を」届けるべく,世界の食品安全情報をサーベイし発信し続ける著者が, 近年話題になったさまざまな問題を取り上げ,印象やイメージに惑わされることなく,科学的知見に基づいて適切に判断するためのポイントをわかりやすく解説する.(引用:化学同人書籍紹介より)
対象者
- 食品の化学に興味がある学生や化学者全般
- 食品関係の仕事に携わる関係者
- 健康のために食べ物に気を付けている努力家
細かい基準や成分について専門的な用語や化合物名、構造式を用いて解説されていますが、巻末には用語説明のページもあり、また用語がわからなくても理解でできるような文章になっているため科学を専門とする人だけでなく、多くの人、特に食品に関連する仕事に従事している人に読んで欲しい書籍です。
目次
- 第1章 終わらない食品添加物論争
- 食品添加物の安全性を測る
- 食品添加物をめぐる国際事情
- 食品添加物だから……
- ベビーフードで考える食品添加物の有効性
- 第2章 気にすべきはどちらか――減塩と超加工食品
- 世界の減塩対策
- 超加工食品とは何か
- 第3章 オーガニックの罠
- オーガニック卵汚染事件
- 「オーガニック卵」というもの
- オーガニックとの付き合い方
- コラム・ 妊婦や乳幼児が気をつけるべき食品
- 第4章 新しい北欧食に学ぶ
- 北欧食と和食(注目を集める北欧食/七カ国研究/北欧食と和食の学術研究)
- NNDの落とし穴(食べ物に含まれる毒/危険な毒キノコ)
- コラム・ ライチが引き起こした死亡事例
- 第5章 国際基準との軋轢
- EUへの鰹節の輸出問題
- 検査の意味は?
- 第6章 食品表示と食品偽装
- 日本では表示義務のないカフェイン
- 食の「安心」を脅かす食品偽装
- コラム・ 命に関わる偽装
- 第7章 プロバイオティクスの栄枯盛衰
- プロバイオティクスの健康強調表示
- 期待が高まるマイクロバイオーム研究
- トクホとプロバイオティクス
- コラム・ 誇大宣伝を避けるために
- 第8章 食品安全はみんなの仕事――すべての人に適切な情報を
- 世界食品安全デー/食品の安全をめぐる誤解/正しい情報を届けるために
内容
食品に含まれる化合物についてはいろいろな本が出版されていて、科学的に正しくない主張がなされている書籍が注目を浴びることも珍しくありません。本書の著者は国立医薬品食品衛生研究所にて安全情報部長をされている畝山智香子氏で、東北大学大学院薬学研究科を修了されていて専門は薬理学、生化学で薬学博士号も取得されています。過去には。ダイオキシンや放射性物質など過去、問題になった物質がどれほど食品に含まれているのか、そしてどれほど摂取しているかについて研究を行ってきました。このように科学的なバックグラウンドを持ちながら、国の研究所という最前線で食品の安全を守る仕事に従事されている方が筆者であり、科学的に合理的な論理展開がなされている本です。さらに、日本だけでなく各国の食品安全にも精通しているようで、制度の違いによる各国に安全基準の違いなどについても本書では論ぜられています。
第1章では、食品添加物についての定義や歴史が主の話題であり、過去に騒動となった添加物の事象に触れながら、その時のメディアの主張が本当に正しかったのかを検証しています。逆に天然由来の成分でも使い方を間違えると健康被害を及ぼしている例を取り上げ、天然由来の成分が常に健康に良くて、人工的に作られた成分は健康被害をもたらす、海外品は基準が甘く危険であるという、多くの人の主張について反論をしています。第2章から第4章では、ナチュラルにこだわった食品が、こだわったが故に別の問題が起きてしまった例について触れられています。ナチュラル=健康のリスクが減るということを優先しすぎた結果別のリスクが出てきてしまったことがよくわかる例になっています。第5章では、海外の規制が問題になった例を紹介しています。食品の規制には、何がどれくらい含まれているとアウトなのか、範囲と上限値が決まっています。一つの問題は常にフェアな範囲であるとは限らないことで、常用の使用では問題ないにもかかわらずルールとしての上限値に引っかかり悪者にされてしまったかつお節を取り上げています。もう一つの問題は、上限を少し超えたからといって直ちに問題が起きるわけではないことであり、厳格すぎる対応によって別の問題が起きた香港の例を取り上げています。第6章では食品の表示についての話題で、ラベルの情報の正確さが重要であることを訴えています。もちろん産地偽装によって高い利益を得ている悪徳業者は許せませんが、偽装によって死に至る場合があることについての内容が個人的に印象に残っています。第7章では、プロバイオティクスが本当に体に良いのかについて検証しています。ナチュラルとは別の視点で、乳酸菌=お腹に良いという常識が広まっていますが、悪影響を及ぼす場合もあることが驚きでした。そして第8章では化学的に正しい情報の提供とその理解が促進されることの必要性を強調した内容で締められています。
科学的な知識があっても食品添加物が含まれていないとうたっている商品をスーパーでつい手に取ってしまいますが、その選択には別のリスクがあることを改めて思い知る内容になっています。食品に限らず、生活していくうえで選択肢のリスクの予測を行い、総合的に判断してリスクの低い方を選択する場面は多々あります。特に昨今のコロナウィルスの拡大で、コロナウィルスに感染するリスクをとるか、別のリスクをとるかの判断を迫られるときが多々あります。この本を通して、何となく多くの人が選んでいる選択には隠れたリスクがあることを改めて感じさせられました。
関連書籍
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